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ゴンチャ新シリーズTEACRAFTが映す脱タピオカ戦略の核心

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はじめに

ゴンチャが2026年3月に立ち上げた新シリーズ「TEACRAFT」は、新作ドリンクの投入以上の意味を持つ動きです。表向きには、いちごとローズを重ねた華やかなダージリンの新提案ですが、実態は「タピオカの店」と見られがちなブランドを、「お茶を楽しむ店」へ再定義し直す試みと読めます。

この見方が重要なのは、ゴンチャがすでにブーム依存の段階を抜け、国内220店舗体制まで拡大しているからです。成長を続けるには、話題の新商品を当てるだけでなく、日常的に立ち寄られる理由を増やさなければなりません。この記事では、TEACRAFTの中身、周辺の市場動向、デジタル会員基盤の整備を手がかりに、ゴンチャの「脱タピオカ」の狙いと課題を整理します。

タピオカブーム後のブランド再定義

ブーム収束後の成長持続

ゴンチャは2015年に日本へ上陸し、2018年から2019年のタピオカブームで一気に知名度を高めました。ただし、ビジネスチャンスの2025年2月取材では、同社自身がブランドの本質を「タピオカ屋ではなくティーカフェ」と説明しています。ブームの熱狂で広がった認知を、茶葉の品質や店内体験で定着需要へ変えることが、ここ数年の基本戦略だったとみてよいでしょう。

実際、数字はその転換が進んでいることを示します。ビジネスチャンスによれば、2024年末時点の国内店舗数は176店でした。その後、流通ニュースは2026年1月末時点で220店舗、2025年の年間来店客数は約4000万人と報じています。2028年までに400店舗、年間来店客数6000万人を目指す方針も示されており、同社は一過性の流行ブランドではなく、全国チェーンとしての拡張局面に入っています。

この成長を支えてきたのは、単純なタピオカ人気だけではありません。角田淳社長はビジネスチャンスの取材に対し、阿里山ウーロンティーには一般的な茶葉の約3倍に相当する高級茶葉を使っていること、抽出後4時間を超えたお茶は提供しないことを説明しています。さらに、顧客の7割がトッピングを付け、ベースティー5種と組み合わせると約1万通りの選択肢になるとも語っています。つまり、ゴンチャの強みは「タピオカがあること」ではなく、上質な茶葉とカスタマイズを両立した体験設計にあります。

その意味で、TEACRAFTは方向転換ではなく原点の言語化です。原宿表参道店の開店リリースでも、同社は出店拡大の背景を「こだわりの上質なお茶をカジュアルに体験できるスタイル」への支持だと説明しています。タピオカブーム後に必要だったのは、ブランドの中核価値をもう一度わかりやすく伝え直すことでした。

クルーが示したお茶回帰

今回のTEACRAFT立ち上げで興味深いのは、開発の出発点が店頭クルーの観察にある点です。マイナビニュースの発表会レポートによれば、新人クルーは黒糖ミルクなどのデザート系ドリンクを選ぶ傾向がある一方、ベテランクルーは阿里山ウーロンティーや烏龍ミルクティーを選ぶ傾向がありました。角田社長はその場で「最終的に勝つのはティー」とクルーに言われたと紹介しています。

このエピソードは、熱心な利用者ほど甘さやトッピングだけではなく、茶葉そのものの味と香りに価値を見いだすことを示唆しています。新規客の入口としてはデザート感の強い商品が有効でも、リピート客の定着には「今日はどの茶葉にするか」という選び方を提供する方が強い。TEACRAFTは、まさにその段階の需要を拾う商品群です。

外部環境も追い風です。食品産業新聞社は2025年3月、無糖紅茶カテゴリーが過去3年間で年平均7%成長し、紅茶でも「甘くない選択肢」や香りを楽しむ飲み方への支持が広がっていると報じました。さらに、2024年度の紅茶飲料の箱数シェアは4.8%にとどまり、コーヒー17.0%、緑茶14.8%と比べて伸びしろが大きいとも指摘しています。日本食糧新聞も2025年4月、健康志向や止渇ニーズの高まりを背景に、紅茶飲料市場が活況で、無糖系商品の刷新が相次いでいると伝えました。

つまり、消費者の関心は「甘い映えドリンク」だけではなく、「香り」「無糖」「茶葉感」へも広がっています。ゴンチャがTEACRAFTで打ち出したのは、ブーム終息への防御策というより、むしろ市場の嗜好変化に合わせて収益の中心を一段深くする攻めの再定義とみるべきです。

TEACRAFTが担う収益モデルの再設計

デザートティーから日常飲用への横展開

TEACRAFTの設計を見ると、ゴンチャが狙う来店シーンの広がりが分かります。公式プレスリリースによれば、TEACRAFTは「こころ、ときめく、香りのお茶。」をコンセプトに、季節に合わせた茶葉を展開する新シリーズです。第一弾の「ストロベリー&ローズ ダージリン」は、ダージリンをベースにセイロンティーをブレンドし、いちごとローズの香りを重ねた4商品で構成されています。

価格帯も重要です。ストレートティーはSサイズ290円から、ミルフォティーは380円から、ミルクティーは440円から、アーモンドミルクティーは490円からとなっています。タピオカや黒糖を前面に出した濃厚系だけでなく、比較的軽く飲める選択肢を並べることで、通勤途中や仕事中、午後の一息といった日常シーンに入り込みやすくなります。これは客単価の引き上げよりも、利用頻度の引き上げを狙うメニュー設計です。

なかでも象徴的なのが「ミルフォティー」です。ストレートティーにミルクフォームを乗せ、混ぜ方によって味が変わる設計は、従来のデザート感とお茶の香りを橋渡しする中間商品になっています。完全なストレートティーではハードルが高いが、甘すぎる商品からは少し離れたいという層に対し、移行のきっかけを作る役割を担っています。

売り場づくりも同じ方向です。2025年3月の大宮アルシェ店リニューアルでは、ゴンチャは「次世代ゴンチャ」として、洗練した空間やフードの拡充を打ち出しました。約10種類のサンドイッチやスイーツをそろえ、ランチやティータイムでの利用を広げる設計です。TEACRAFTのような香り重視のシリーズは、こうした店舗空間の進化とも相性がよく、単なる持ち帰りの甘いドリンク店から、滞在需要を持つティーカフェへの転換を後押しします。

加えて、同社は店外でも「お茶のゴンチャ」を広げています。ビジネスチャンスの取材で角田社長は、セブン-イレブンで展開したペットボトル飲料2品が販売4カ月で1800万本に達したと説明しました。本人も狙いを「お茶のゴンチャという認識を広げること」と語っており、TEACRAFTはその店内版に位置づけられます。店舗、リテール、空間演出の三方向から「タピオカ店」の像を薄めているわけです。

デジタル会員基盤との接続

もう一つ見逃せないのが、TEACRAFTが単独の商品施策ではなく、デジタル基盤の上に載った施策だという点です。ゴンチャは2025年5月15日にファンプログラム「My Gong cha」を開始しました。公式リリースによれば、紙のポイントカードとモバイルオーダーのスタンプカードを統合し、注文方法を問わず100円ごとに1リーフがたまる仕組みに改めています。モバイルオーダーも同時に基盤へ組み込み、会員ステージ制を導入しました。

この整備の効果は早かったようです。クラスメソッドの導入事例では、My Gong chaは開始1日で約20万人、1週間で約50万人の新規会員を獲得したとされます。さらに流通ニュースによると、2026年1月時点の会員数は約260万人まで増えています。短期間でこれだけの会員基盤ができれば、新シリーズの試飲促進や来店喚起を、広告だけでなくCRMで回せるようになります。

TEACRAFT発売時にモバイルオーダー限定で値引きキャンペーンを実施したのは、その典型です。ストレートティーは290円から190円へ、ミルフォティーは380円から280円へと、比較的試しやすい価格に下げられました。新しい味をまず一杯飲んでもらい、その後はリーフや会員ステージで継続利用へつなげる。これは単発ヒット商品を狙う施策ではなく、サンプル配布とロイヤルティ育成を一体化した設計です。

流通ニュースは、会員の中心は10代から20代だが30代も増えていると伝えています。ここにTEACRAFTの意味があります。若年層向けの割引や季節限定品で新規流入を維持しつつ、香りや茶葉の魅力を前面に出すことで、年齢の上がった既存客や仕事中利用の需要も取り込める。甘いデザートティーだけに頼らない商品構成は、客層の年齢上昇に対応するうえでも合理的です。

注意点・展望

もっとも、「脱タピオカ」をそのままタピオカ離れと理解するのは早計です。ビジネスチャンスの取材では、顧客の7割がなおトッピングを注文しているとされています。ゴンチャの競争力は、上質なお茶とカスタマイズの両立にあり、タピオカやミルクフォームを捨てる必要はありません。TEACRAFTの本質は、主役を入れ替えることではなく、ブランドの中心を「トッピング」から「お茶」に寄せ直すことです。

課題は、急速な出店拡大の中でその品質と世界観を保てるかどうかです。茶葉は抽出条件や鮮度管理の影響を受けやすく、香りを売りにする商品ほどオペレーション差が味に出やすい面があります。220店舗から400店舗を目指す過程で、どこでも同じTEACRAFT体験を提供できるかは重要です。さらに、香り重視の商品は話題化しやすい一方、定番化しにくい弱点もあります。季節限定の華やかさを保ちつつ、日常需要にどう落とし込むかが次の論点になります。

ただし、現時点では方向性はかなり明確です。無糖紅茶やアイスティーの市場が広がり、ゴンチャ自身も会員基盤と店舗網を拡大しているなかで、TEACRAFTはその二つを結び付ける役割を果たします。今後は第2弾、第3弾でどの茶葉や香りを採用し、どこまで「お茶のゴンチャ」という認識を定着させられるかが見どころです。

まとめ

ゴンチャのTEACRAFTは、新作ヒットを狙うだけのシリーズではありません。タピオカブームで獲得した認知を、茶葉の品質、香り、日常利用、デジタル会員基盤へつなぎ直すための戦略商品です。店舗数220、会員数260万人という土台があるからこそ、商品の重心を少しお茶側へ寄せる判断が効いてきます。

今後の焦点は、この「お茶回帰」を一時的な話題で終わらせず、来店頻度の高い定番需要へ育てられるかどうかです。読者としては、TEACRAFTを単なる季節限定ドリンクとして見るより、ゴンチャがどの客層を、どの時間帯に、どんな理由で呼び戻そうとしているのかに注目すると、外食チェーンの成長戦略としてより立体的に読めます。

参考資料:

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