kinyukeizai.com

kinyukeizai.com

トランプ支持率急落と米国社会バブル崩壊の深層

by 松本 浩司
URLをコピーしました

はじめに

2026年春、米国は株式市場と社会の双方で「バブルの終わり」に直面しています。トランプ大統領の支持率は35%まで低下し、経済運営への評価は過去最低の31%を記録しました。S&P500は3月に5.8%下落し、ナスダックは8.2%の急落を記録しています。イラン情勢の緊迫化、AI関連株の失速、そして社会の分断深化が同時進行する異例の事態です。

本記事では、トランプ政権が直面する政治的危機と、米国の株式市場・社会構造の両面で進む「バブル崩壊」の実態を、最新の調査データと市場動向から読み解きます。

トランプ政権の支持率急落と政治的危機

過去最低水準に沈む支持率

CNNが2026年4月1日に公表した世論調査によると、トランプ大統領の経済運営に対する支持率は31%と、就任以来の最低水準に達しました。全体の支持率も35%前後で推移しており、Nate Silver氏のSilver Bulletinによる支持率平均では、4月3日時点でネット支持率がマイナス16.9ポイントとなっています。

注目すべきは、かつて盤石だった共和党支持層からも支持離れが起きている点です。ピュー・リサーチ・センターの2026年1月の調査では、共和党員のうちトランプ氏を「強く支持する」と答えた割合が、就任直後の52%から43%に低下していることが明らかになっています。

共和党内部からの離反

政治的な動揺は議会にも波及しています。2026年に入り、共和党所属の連邦議会議員39人が辞職、引退、または別の選挙への出馬を表明しました。これは2018年以来最多の数字とされており、不人気な大統領のもとでの中間選挙を回避する動きと見られています。

イラン攻撃の継続表明や経済の先行き不透明感が、有権者の不安を増幅させています。「国が間違った方向に向かっている」という認識が広がるなか、若年層や無党派層だけでなく、共和党の中核支持層にまで支持離れが及んでいるのが特徴です。

株式市場バブルの崩壊過程

3月の市場総崩れ

2026年3月、米国の主要3指数は軒並み調整局面入りしました。ダウ工業株30種は2月10日につけた最高値から10%超の下落となり、正式に調整局面入りが宣言されました。ナスダック総合も3月26日に調整局面に突入し、ラッセル2000種も同様の水準に達しています。

月間ベースでは、ダウが前月比4.2%安、S&P500が5.8%安、ナスダックが8.2%安と、テクノロジー株を中心に大きな打撃を受けました。3指数ともに5週連続の値下がりとなり、これは過去4年間で最長の下落記録です。

イラン情勢が追い打ちをかける

4月2日、トランプ大統領がホワイトハウスでの演説で「今後2〜3週間でイランに極めて厳しい打撃を与える」と表明したことを受け、市場はさらなる動揺に見舞われました。S&P500先物は演説開始直前から1.34%急落し、VIX指数(恐怖指数)も上昇しています。

イラン情勢の緊迫化以降、S&P500は高値から累計で8.5%の下落を記録しています。中東の地政学リスクが原油価格の上昇を通じてインフレ圧力を高め、利下げ期待を後退させるという悪循環が懸念されています。

AIバブルと「マグニフィセント・セブン」の変調

巨額投資に見合わないリターン

株式市場の調整を語るうえで避けられないのが、AI関連投資のバブル的側面です。MITメディアラボ傘下のNANDA(Networked Agents and Decentralized AI)が発表した報告書では、企業のAI投資額が300〜400億ドルに達する一方で、「95%の組織がリターンゼロ」であるとの衝撃的な指摘がなされています。

全米経済研究所(NBER)が2026年2月に公表した研究でも、企業の90%がAIによる職場や生産性への影響を「まだ実感していない」と回答しています。これはドットコムバブル期の「生産性パラドックス」と類似した状況です。

7社から3社へ

かつて市場をけん引した「マグニフィセント・セブン」と呼ばれる米巨大テック7社にも、明確な格差が生まれています。2026年の年初来リターンがプラス圏にあるのはアルファベットなど3社にとどまり、残る4社は株価下落に直面しています。

2025年末時点で、S&P500の構成比の30%をわずか5社が占めるという、半世紀ぶりの集中度に達していました。この一極集中が逆回転を始めたとき、市場全体へのインパクトは甚大です。AI関連の過大な期待が剥落する過程で、テック株主導の下落が指数全体を押し下げる構図が鮮明になっています。

「米国社会バブル」とは何か

市場を超えた構造的な過信

「バブル」という言葉は通常、株式市場や不動産に対して使われます。しかし、より広い視点で見ると、米国社会全体にバブル的な構造が存在していたと指摘する声があります。それは、米国の経済的優位性・テクノロジーの無限の成長・ドルの絶対的な基軸通貨としての地位といった「前提」への過信です。

2024年の米大統領選では、赤い州はより赤く、青い州はより青くなり、中間層の衰退とSNSの普及によって有権者の価値観は両極端に分裂しています。三菱総合研究所のレポートでは、トランプ政権下で米国経済の「二極化」がさらに進行していることが指摘されています。

社会的信頼の瓦解

市場の調整は数値で測れますが、社会的な「バブル崩壊」はより深刻です。政治への不信、制度への疑念、そして社会的結束の弱体化は、経済指標には現れにくいものの、長期的な国力に直結する問題です。

39人もの共和党議員が2026年中に議会を離れるという事実は、単なる選挙戦略の問題ではなく、政治システムそのものへの不信を映し出しています。株価の下落はいずれ回復するかもしれませんが、分断された社会の修復にはより長い時間が必要です。

注意点・展望

楽観シナリオも残されている

過度な悲観論には注意が必要です。ある経済学者は、真のバブルが成立するには「高いバリュエーション」「個人投資家の殺到」「フロスの高まり」「IPOラッシュ」の4条件が必要で、2026年初頭の時点では4つ目の条件が欠けていると指摘しています。

また、2025年4月の「トランプ関税ショック」では、S&P500がわずか5週間で回復した前例もあります。市場は短期的なショックに対する耐性を過去に示しており、今回も同様の回復力を発揮する可能性はあります。

複合リスクの同時発生に警戒

ただし、今回の状況が過去と異なるのは、政治的危機・地政学リスク・テクノロジー株の調整・社会的分断という複数のリスクが同時に発生している点です。単独のショックであれば市場は吸収できますが、複合的な圧力が継続する場合、より構造的な転換点となる可能性があります。

2026年末のS&P500に対する市場予想平均は7.71%の上昇にとどまっており、2010年以降の年平均上昇率12.94%を大きく下回っています。市場関係者の間でも、慎重な見通しが主流となりつつあります。

まとめ

2026年春の米国は、トランプ大統領の支持率急落、株式市場の調整局面入り、AI投資バブルへの疑念、そして社会の分極化という四重の課題に直面しています。これらは個別の問題ではなく、相互に連関した「米国社会バブル」の構造的な綻びとして理解する必要があります。

投資家にとって重要なのは、短期的な株価の上下に一喜一憂するのではなく、こうした構造的変化を冷静に見極めることです。AIの実用化、地政学リスクの帰趨、そして2026年の中間選挙に向けた政治動向を注視しながら、分散投資とリスク管理を徹底することが求められます。

参考資料:

松本 浩司

マクロ経済・国際経済

国際経済の潮流を、通商政策・為替・新興国の動向から多角的に分析。グローバル経済の「次の震源地」を見極める。

関連記事

ゲーム制作AI化の裏側、炎上リスクと若手採用減が進む業界の現実

GDC調査ではゲーム業界人の36%が生成AIを仕事で使い、52%は悪影響を懸念。Steamの開示ルール、声優契約、若手採用への圧力を手がかりに、制作コスト削減の裏で何が失われるのか、AI活用が現場の分業と人材育成をどう変えるのかを解説。レイオフ後の即戦力偏重、ジュニア職の減少、権利処理の負担まで整理する。

熱狂なき日経平均6万円時代に勝つ個人投資家の半導体相場攻略法

日経平均は4月に初の6万円台へ乗せ、5月7日には一時6万3091円まで上昇しました。AI・半導体主導の一方、海外投資家依存、日銀利上げ、中東リスク、NISA資金の海外偏重も残ります。指数高値を追うだけでなく、EPS成長、株主還元、需給を見極める高値圏の個人投資家の銘柄選別と分散の要点を実践的に解説。

佐々木裕氏起用で読むNTT非通信シフトと次期トップ争いの行方

NTTが2026年6月予定の人事でNTTデータグループ社長の佐々木裕氏を本体副社長・CFOに迎えます。売上高5兆円を超えたITサービス、AIとデータセンター投資、通信収益の成熟が重なる中、非通信シフトの狙いと統合リスク、次期トップ候補としての意味、投資家へ示すシグナルと経営判断の焦点まで読み解きます。

トヨタ・ウーブンシティは百年続くか未完成都市の勝算、強さと課題

トヨタのWoven Cityは2025年9月に実証を始め、2026年4月にはAI Vision EngineとInventor Garageを公開した。100年後も続く条件は、技術の派手さではなく、住民参加、データ統治、事業化の循環を保てるかにある。未完成の町が抱える強さと脆さの現在地を深く読み解く。

最新ニュース

アンデス型ハンタウイルスがコロナ級流行しにくい理由と正しい備え

致命率の高さが注目されるアンデス型ハンタウイルス。人から人への感染例はありますが、感染は濃厚接触や閉鎖空間に偏り、自然宿主も南米に限られます。クルーズ船事例、2018年アルゼンチン流行、CDC・WHOの評価を照合し、国内外の最新情報から、日本で旅行者と医療者が確認すべき早期受診とげっ歯類対策を解説。

ゲーム制作AI化の裏側、炎上リスクと若手採用減が進む業界の現実

GDC調査ではゲーム業界人の36%が生成AIを仕事で使い、52%は悪影響を懸念。Steamの開示ルール、声優契約、若手採用への圧力を手がかりに、制作コスト削減の裏で何が失われるのか、AI活用が現場の分業と人材育成をどう変えるのかを解説。レイオフ後の即戦力偏重、ジュニア職の減少、権利処理の負担まで整理する。

高校改革の魅力化競争で広がる教職員と生徒の負担増のいまを検証

N-E.X.T.ハイスクール構想と就学支援金の所得制限撤廃で、高校は魅力化競争に入った。15歳人口が2039年に約70万人へ減る中、探究学習、地域連携、遠隔授業は必要な改革です。一方で教員の在校等時間や高校生の睡眠不足は限界を示す。学校現場と保護者が改革を負担増にしない設計条件をどう整えるかを解説。

過去最高の経常収支黒字が示す日本経済の知られざる所得大国化の実像

2025年度の経常収支は34兆5218億円の黒字と3年連続で過去最大を更新した。貿易収支は黒字に戻ったが、主役は42兆2809億円の第一次所得収支です。海外投資収益に依存する黒字が家計、円相場、産業政策へ何を突きつけるのか。デジタル赤字、対外純資産575兆円、資金還流の弱さから日本経済の変質を読み解く。

ホルムズ危機下で売れる日用品、沈む商品のナフサ不足起点の境界線

ホルムズ海峡の混乱でナフサ供給不安が広がり、ラップ、手袋、包装資材、インキまで購買行動が変わっています。日本のナフサ輸入構造、エチレン稼働率、企業の包装変更、生活者調査を基に、売れた商品と売れにくい商品の差、家計と企業が備えるべき調達リスク、過度な買いだめに頼らない今後の実務的な備え方まで読み解く。