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年内入試組は学力不足なのか近大と理科大に見る入学後の学習習慣

by 小林 美咲
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年内入試をめぐる学力不安の正体

大学入試で「年内合格組は学力が低い」という見方が繰り返し語られています。総合型選抜や学校推薦型選抜で早く進学先が決まる生徒は、一般選抜組より受験勉強の期間が短く、入学後に苦労しやすいという疑念です。

ただし、公開データと各大学の制度をたどると、実態はそれほど単純ではありません。問題の中心は「入試方式そのもの」より、合格後から入学までに学びを止めるか、大学型の自習習慣へ移行できるかにあります。近畿大学と東京理科大学の例からも、大学側が問うているのは点数だけではなく、入学後に学び続ける準備です。

一般選抜だけでは測れない大学入試の変化

私立大で過半を占める年内入試

年内入試とは、主に総合型選抜と学校推薦型選抜を指す通称です。河合塾の受験情報では、総合型選抜は出願が9〜10月、合格発表が11月以降、学校推薦型選抜は主に11月出願、12月合格発表と整理されています。つまり、高校3年の冬を待たずに進路が決まる入試が、いまや例外ではなくなっています。

文部科学省委託の2026年2月公表報告書は、2025年度入学者選抜について、大学778校と短大263校を対象に集計しています。大学全体の入学者数割合は、一般選抜46.7%、総合型選抜18.3%、学校推薦型選抜34.9%でした。総合型と学校推薦型を合わせると、一般選抜を上回ります。

私立大学に限ると変化はさらに大きくなります。同報告書では、私立大学の入学者数割合は一般選抜38.5%、総合型選抜21.6%、学校推薦型選抜39.9%です。国立大学では一般選抜が80.3%を占めるため、大学の設置者や難易度帯によって見える景色は大きく異なります。

この数字だけを見て「年内入試が増えたから学力が下がった」と結論づけるのは早計です。総合型・推薦型の拡大には、少子化の中で大学が早期に学生を確保したい事情、高校生の現役志向、探究学習や資格を評価したい大学側の方針が重なっています。マイナビ進学総合研究所も、私立大学で年内入試の利用が約6割に達したことを、進路選択の早期化と結びつけて整理しています。

学力検査の有無が生む見え方の差

年内入試が不安視される最大の理由は、学力検査の見え方です。一般選抜では、共通テストや個別学力検査を通じて、英語、数学、国語、理科などの到達度が比較的わかりやすく示されます。一方、総合型選抜や学校推薦型選抜では、調査書、志望理由書、面接、小論文、プレゼンテーション、口頭試問などを組み合わせる方式が多く、点数で横並びに比較しにくい構造があります。

文科省委託報告書によると、共通テストを利用しない選抜区分のうち、教科・科目に係る個別学力検査を実施している割合は、大学全体で一般選抜83.7%、総合型選抜15.7%、学校推薦型選抜20.2%です。共通テストを利用する選抜区分でも、さらに個別学力検査を実施している割合は、一般選抜69.8%に対して総合型選抜5.9%、学校推薦型選抜1.7%にとどまります。

この差は重要です。一般選抜組は、少なくとも入試直前まで教科学習を継続する圧力を受けます。年内合格組は、選抜内容によっては合格後にその圧力が弱まりやすくなります。つまり、議論すべきは「入学時の能力が低いか」だけではなく、「合格後に学習量と学習リズムをどう維持するか」です。

文科省の大学入学者選抜実施要項も、この点を制度上の課題として扱っています。各大学には、入学手続きをした者に対し、必要に応じて入学までに取り組む課題を課すなど、入学後の学修準備を講じる努力が求められています。特に12月以前に入学手続きをした者には、積極的に措置を講じることが示されています。年内合格者の学びを「高校の終了」として扱わず、「大学への接続期間」として設計する発想です。

近大と理科大に見る選抜設計の違い

近畿大学の併願型推薦と総合型選抜

近畿大学の入試制度を見ると、年内入試を一括りにできない理由がよくわかります。近大の推薦入試(一般公募)は、学校長の推薦を前提としながら、併願可能な方式として設計されています。学部ごとに判定方式や得意科目を生かす方式が用意され、英語外部試験利用制度も案内されています。これは、いわゆる「指定校で早く決まる入試」とは性格が異なります。

近大の総合型選抜も、単に活動実績を並べるだけの入試ではありません。大学は、志望学部・学科への適性、可能性、入学後の目的意識や情熱を評価する入試として説明しています。2027年度入試では、法学部、農学部、短期大学部で新たに導入し、理工学部では女子選抜方式を設けるなど、対象学部も広がっています。

ここで注目すべきは、総合型選抜が「学力を見ない入試」へ一直線に向かっているわけではない点です。学部によっては書類審査に加え、小論文、グループディスカッション、口頭試問などが課されます。特に理工系や看護系では、専門分野への適性だけでなく、大学初年次の授業についていくための基礎理解が不可欠です。

旺文社教育情報センターは、2025年の私立大学における学校推薦型・総合型選抜について、115校集計で志願者が前年比17%増、合格者が7%増、倍率が2.2倍から2.4倍へ上がったと報告しています。京阪神地区では志願者の集中が大きく、近畿大学も前年比9%増とされています。少なくともこの層では、年内入試が「競争のない抜け道」とは言い切れません。

むしろ課題は、合格した後の数カ月です。併願可能な公募推薦や総合型では、合格後も一般選抜対策を続ける生徒と、進路決定を機に学習を緩める生徒に分かれます。同じ入試方式でも、入学直後の差は選抜名よりも、合格後の過ごし方に強く左右されます。

東京理科大学の教科評価と入学前支援

東京理科大学の動きは、年内入試のもう一つの方向性を示しています。理科大は2025年度入試から、昼間学部を対象とする「総合型選抜(英語資格検定+特定教科評価)」と、理学部第二部を対象とする総合型選抜を新設しました。同時に、学校推薦型選抜(公募制)は廃止されています。

この制度変更は、総合型選抜が必ずしも「非学力型」ではないことを示します。英語資格検定や特定教科評価を組み込むことで、志望動機や面接だけでなく、大学で必要となる教科の準備状況も見ようとしています。理工系大学では、入学後すぐに数学、物理、化学、情報などの積み上げ型科目が始まります。高校範囲の穴は、初年次の履修で表面化しやすいのです。

理科大の物理学科は、学生支援として担任制度、学習相談室、入学前学習支援を案内しています。学習相談室では数学、物理、化学、生物について質問でき、入学前学習支援では主に推薦入学予定者を対象に、数学や理科の高校範囲を総復習する講座が準備されています。

これは「推薦入学者は能力が低い」という烙印ではありません。大学側が見ているのは、入試で測った能力と、大学の授業で必要になる日々の学修との間にある段差です。一般選抜で合格した学生でも、受験対策が終わった瞬間に学び方を切り替えられなければ、大学の授業でつまずきます。逆に年内合格者でも、入学前課題や基礎科目の復習を続ければ、初年次の立ち上がりは安定します。

理科大の例から見えるのは、選抜と教育支援を切り離さない設計です。どの入試で入ったかを固定的に見るのではなく、入学前、初年次、専門課程までの学びを連続したプロセスとして支える必要があります。年内入試の評価は、合格者の入口だけでなく、大学がその後にどんな学修環境を用意しているかまで見て判断すべきです。

入学後の成績を左右する自習習慣

入学後のつまずきを説明する鍵は、学力偏差値よりも学習習慣です。2025年にJ-STAGEで公開された大学入試研究ジャーナルの論文は、入学時アンケートとGPAをもとに、入学前の学習習慣や志望度と入学後の成績推移を検討しています。そこでは、主体的な学習姿勢と適度な自習習慣を持つ学生の成績推移がよいこと、大学名よりも学部・学科の専門性と興味関心の一致が成績に影響する可能性が示されています。

この知見は、年内入試論争に重要な補助線を引きます。総合型選抜で志望理由を深く考え、専門分野への関心を持って入学した学生は、大学で学ぶ意味を見失いにくい面があります。一方で、合格後に教科学習を止めてしまえば、英語や数学などの基礎科目で苦労します。年内合格の強みと弱みは、同じ学生の中に併存します。

大学教育は、授業に出席するだけでは完結しません。文科省は単位制度について、1単位あたり45時間の学修を標準とし、その中には授業時間だけでなく事前準備や事後復習も含まれると説明しています。大学で必要なのは、誰かに宿題を管理される学びから、自分で予習、復習、調査、レポート作成を進める学びへの移行です。

この移行に失敗すると、入試方式にかかわらずつまずきます。一般選抜組は、受験勉強で長時間学ぶ耐性を持つ一方、正解が明確な問題演習に慣れすぎて、探究型のレポートや実験考察で苦労することがあります。年内入試組は、志望分野への関心や表現経験を持つ一方、合格後の空白期間で基礎科目の反復が弱くなることがあります。

したがって、大学が検証すべきなのは「どの入試方式が優秀か」という単純な序列ではありません。入試方式別のGPA、単位取得、休退学、初年次科目の成績、学習支援の利用状況を継続的に追い、どの段階で支援が必要かを見極めることです。高校側も、合格をゴールにせず、入学前課題や基礎学力の維持を進路指導に組み込む必要があります。

高校生と保護者が確認すべき準備項目

年内入試を選ぶ高校生と保護者は、まず選抜名ではなく中身を確認することが大切です。書類と面接中心なのか、学力試験や口頭試問があるのか、英語資格や数学・理科の評価があるのかで、必要な準備は変わります。募集要項の「選考方法」と「入学前課題」は必ず読み込むべきです。

次に、合格後の学習計画を先に決めておく必要があります。英語、数学、国語、理科など、入学後に必要な基礎科目を高校の授業と切り離さずに続けることが重要です。大学が入学前教育や学習相談を用意している場合は、補習ではなく大学生活への助走として活用できます。

「年内合格組は学力が低い」という説の意外な真実は、入試方式だけでは学生の伸びを説明できない点にあります。問われるべきは、合格の早さではなく、合格後も学びを止めない習慣です。大学入試が多様化した時代ほど、高校生には早く受かる力だけでなく、入学後に学び続ける力が求められています。

参考資料:

小
小林 美咲

キャリア・教育

キャリア形成・教育改革・リスキリングなど、人と学びの接点を取材。変化する時代に求められる「働く力」を問い続ける。

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