kinyukeizai.com
kinyukeizai.com

私大入試難化の構造とA判定でも落ちる時代の併願戦略の本格再設計

by 小林 美咲
URLをコピーしました

私大入試が一気に読みにくくなった背景

2026年度大学入試は、受験生の学力だけで合否を読みにくい年でした。私立大一般選抜では志願者が大きく増えた一方、合格者数は絞られ、模試で高い判定を得ていた受験生にも不合格が出やすい構図が生まれました。

背景には、共通テストの難化、国公立大の中期・後期日程を避ける動き、私立大での併願増、総合型・学校推薦型選抜の拡大、そして大学側の収容定員管理があります。つまり「私大人気」という一語ではなく、受験生のリスク回避と大学側の定員調整が同時に起きた入試だったと見る必要があります。

本稿では、公的資料と予備校の入試結果データをもとに、A判定でも安心しにくくなった理由を整理します。受験生本人だけでなく、進路指導や保護者の費用計画にも関わる論点として、これからの併願設計をどう見直すべきかを考えます。

志願者増と合格者減が生んだ倍率上昇

私立大一般選抜で広がった併願厚めの動き

河合塾が2026年6月5日時点でまとめた私立544大学の一般選抜結果では、私立大全体の志願者数は357万483人で、前年度比110%でした。内訳を見ると、一般方式は227万7029人で同110%、共通テスト利用方式は129万3454人で同111%です。方式を問わず志願者が増えたことが、2026年度入試の第一の特徴です。

一方で、同じ集計における合格者数は99万5282人で、前年度比95%に減りました。一般方式の合格者は55万4976人で同95%、共通テスト利用方式も44万306人で同97%です。志願者が増え、合格者が減れば、倍率は自然に上がります。全体倍率は2025年度の3.1倍から2026年度は3.6倍へ、一般方式は3.5倍から4.1倍へ上昇しました。

ここで重要なのは、18歳人口が急増したわけではない点です。河合塾の分析では、2026年度の18歳人口は前年とほぼ同程度で、大学志願者の実数も大きく変わらなかったと推測されています。にもかかわらず私立大の志願者数が増えたのは、一人の受験生が出願する校数・方式数を増やしたためです。

この動きは、単純な「強気出願」ではありません。むしろ、受験生が不確実性を感じ、滑り止めや準本命を厚くした結果です。共通テスト利用方式の出願を重ねる、同じ大学の複数学部を受ける、試験日程の異なる方式を追加する、といった行動が広がると、延べ志願者数は実人数以上に膨らみます。

その結果、従来なら安全圏と見なされた大学・学部にも上位層が流入しました。河合塾の分析では、早慶上理の受験者がMARCHだけでなく成成明國武を併願する割合が増え、MARCH受験者でも成成明國武への併願が強まったとされています。高成績層が下位レンジまで厚く出願すると、中堅私大の合否境界が上に押し上げられます。

国公立中後期の回避と私大シフト

国公立大の志願動向も、私大難化と切り離せません。河合塾の国公立大入試結果では、国公立大全体の志願者数は41万9362人で前年度比98%でした。前期日程は23万5354人で前年並みでしたが、中期日程は3万1138人で95%、後期日程は15万2870人で96%に減っています。

この中期・後期の減少は、受験生が最後まで国公立に挑む選択を取りにくくなったことを示します。共通テスト後に得点が伸びなかった受験生は、出願校を下げるか、私立大を主戦場にするかを迫られます。特に都市部では私立大の選択肢が多く、入試日程も複数あるため、国公立後期より私立大の合格確保を優先する判断が起きやすくなります。

大学入試センターの令和8年度共通テスト実施結果では、志願者数は49万6237人、受験者数は46万4090人でした。志願者数自体は前年より1066人増にとどまりましたが、試験内容では「情報I」の平均点が56.59点となり、前年に比べて得点感覚が変わった受験生も少なくありません。河合塾も、新課程移行後2年目の共通テストで平均点が前年から下がったと分析しています。

共通テストの手応えが弱いと、国公立大の出願は保守化します。前期は挑戦しても、中期・後期まで受け切るより、私立大の一般方式や共通テスト利用方式に追加出願するほうが現実的だと考える受験生が増えます。こうした判断が積み重なると、私大の延べ志願者数はさらに増えます。

「国公立離れ」は、国公立大全体の人気が急落したというより、共通テスト後のリスク調整で中期・後期の選択肢が細り、私立大併願が厚くなった現象です。費用面では国公立志望を維持したい家庭でも、合格可能性の見通しが悪くなれば、私立大の出願料や入学金の納付スケジュールを含めた現実的な判断を迫られます。

年内入試と定員管理が変える合否の読み方

年内入試に組み込まれた学力評価

2026年度入試のもう一つの焦点は、総合型選抜や学校推薦型選抜、いわゆる年内入試の存在感です。文部科学省の令和8年度大学入学者選抜実施要項は、総合型選抜の出願を2025年9月1日以降、判定結果の発表を同年11月1日以降とし、学校推薦型選抜の出願を11月1日以降、判定結果の発表を12月1日以降と定めています。

年内入試は、面接や小論文、活動実績だけで決まるものではありません。同要項は、総合型・学校推薦型選抜でも、大学教育を受けるために必要な知識・技能や思考力・判断力・表現力を適切に評価することを求めています。さらに、2月1日より前に教科・科目に係る個別テストを行う場合は、調査書などの出願書類に加え、小論文・面接・実技検査等、または志願者本人や高校が記載する資料などと必ず組み合わせて丁寧に評価する必要があります。

このルールは、年内入試が「学力を問わない抜け道」ではないことを意味します。むしろ、大学側は早期に入学者を確保しつつ、入学後に学修へつながる基礎力を確認しなければなりません。受験生側から見ると、一般選抜だけでなく、9月以降の総合型、11月以降の推薦型でも学力評価への準備が必要になります。

文部科学省の令和7年度入学者選抜実施状況では、私立大の総合型選抜による入学者数は11万6869人、学校推薦型選抜による入学者数は19万8977人でした。定義変更や外国人留学生を含む点に注意は必要ですが、私立大では一般選抜前に相当数の入学者が決まっていることがわかります。

この年内入試の拡大は、一般選抜の合格者数にも影響します。総合型や推薦型で想定以上に入学予定者を確保できた大学は、一般選抜で追加的に多くの合格者を出しにくくなります。一般選抜の志願者が増えても、合格者を同じように増やせないため、見かけ以上に合否が厳しくなります。

収容定員を意識した合格者数の抑制

私立大が合格者を絞る背景には、収容定員管理があります。日本私立学校振興・共済事業団の私立大学等経常費補助金取扱要領・配分基準では、在籍学生数が収容定員を一定以上上回る学部等について、原則として補助金を交付しない措置が定められています。基準は大学等の規模に応じて異なり、収容定員4000人以上8000人未満では1.20倍以上、8000人以上や医歯学部では1.10倍以上などの水準が示されています。

この制度は、大学にとって入学者数を大きく読み違えられない圧力になります。かつては、歩留まりを見込んで多めに合格者を出し、入学辞退者を前提に調整することが一般的でした。しかし、年内入試で入学予定者が増え、一般選抜でも併願が複雑化すると、歩留まり予測は難しくなります。

大学側は、入学者が収容定員を超過しないよう、一般選抜の合格者数や補欠繰り上げを慎重に管理します。河合塾も、2026年度の私立大一般選抜で合格者が減った要因として、総合型・学校推薦型選抜で先に入学者を確保したケースと、収容定員超過の調整で入学者数を絞ったケースを挙げています。

受験生にとって厄介なのは、この大学側の事情が出願時には見えにくいことです。募集人員は公表されますが、年内入試でどれだけ入学予定者が固まったか、どの学部で収容定員充足率が高止まりしているか、どのタイミングで補欠を動かすかは、外部から完全には読めません。

そのため、模試のA判定があっても、合格が保証されるわけではありません。模試判定は過去の合否データや志望者集団の中での位置をもとにした確率情報です。しかし、2026年度のように上位層が併願を広げ、大学が合格者数を絞る局面では、過去データより合否境界が上振れしやすくなります。

「A判定でも不合格」は、模試が無意味になったという話ではありません。出願者の層、大学側の合格者数、年内入試の入学予定者、補欠繰り上げの幅という複数の条件が動いた結果です。判定を点ではなく幅で読み、学部・方式・日程ごとにリスクを分散する設計が必要になっています。

次年度以降に残る出願リスクの見極め

2027年度以降も、2026年度と同じ倍率になるとは限りません。志願者が急増した大学・学部では翌年に敬遠が起きることもありますし、新設学部や改組の人気は初年度と2年目で変わります。それでも、私大入試が読みにくくなった構造的要因は残ります。

第一に、年内入試の比重はすぐには下がりにくいです。大学は早期に入学者を確保でき、受験生も一般選抜だけに依存しない進路を選べます。制度上も総合型・学校推薦型選抜で学力の三要素を評価する方向が明確になっており、年内入試と一般選抜を別物として考えるほど、準備が後手に回ります。

第二に、共通テスト利用方式は便利である一方、上位層が大量に併願しやすい方式です。出願の手間が比較的小さく、地方から都市部私大にも出しやすいため、合格最低点の変動が大きくなります。共通テスト後の自己採点だけで安全校を決める場合も、前年の合格ラインをそのまま信じるのは危険です。

第三に、収容定員管理は大学経営上の重要課題であり続けます。少子化で学生確保が難しい大学がある一方、都市部や人気分野には志願者が集中します。人気大学ほど定員超過のリスクを避けるため、合格者数を保守的に出す場面が残ります。結果として、同じ偏差値帯でも大学の合格者数方針によって難しさが変わります。

進路指導では、偏差値表だけでなく、過去3年程度の志願者数、合格者数、倍率、補欠繰り上げの有無、年内入試の募集人員増減を見る必要があります。特に「合格者数が連続して減っている」「総合型・推薦型の募集が増えている」「新設・改組で注目度が高い」学部は、判定より厳しめに評価するのが現実的です。

受験生と保護者が整える併願設計

これからの私大併願は、挑戦校・実力相応校・安全校を名前だけで分ける設計では足りません。同じ大学でも、一般方式、共通テスト利用方式、英語資格利用、全学部日程、個別日程で競争相手が変わります。学部名が似ていても、募集人員や合格者数の出し方が違えばリスクは別物です。

受験生がまず確認すべきなのは、模試判定よりも「その方式で何人受かるのか」です。募集人員が少なく、共通テスト利用で上位層が集まりやすい方式は、偏差値以上に不安定です。逆に、個別試験で得意科目を生かせる方式や、複数日程で受験機会を確保できる大学は、実力を反映しやすい場合があります。

保護者にとっては、入学金の納付期限も重要です。国公立前期の結果を待つ前に、私立大の入学金を納める必要があるケースは少なくありません。出願前に、合格した場合にどの大学へいくら支払い、どこまで待てるのかを家族で共有しておくことが、受験後の混乱を減らします。

2026年度入試が示したのは、受験生の努力だけでは合否を説明しきれない時代に入ったということです。判定を過信せず、方式別の定員、合格者数、年内入試の影響、費用スケジュールまで含めて出願を組むことが、次の入試で最も実践的な防衛策になります。

参考資料:

小林 美咲

キャリア・教育

キャリア形成・教育改革・リスキリングなど、人と学びの接点を取材。変化する時代に求められる「働く力」を問い続ける。

関連記事

東大合格でも私大不合格が起きる入試構造と併願戦略の深い落とし穴

私学事業団の2025年度データでは私大志願者は395万6823人、合格率は38.77%。東大合格者でも別の有名私大や女子大で不合格になり得ます。共通テスト利用、全学部日程、英語外部試験、定員充足率の変化から、偏差値順では読めない合格線の揺れと、家庭が直前に見直すべき併願戦略や出願前の確認リストまで解説。

全国小学校プール授業減少が招く泳力格差と水難安全教育の空洞化

小学校のプール授業は実施率だけを見れば残っていても、猛暑や老朽化で回数と質が揺らいでいます。スポーツ庁、笹川スポーツ財団、草加市や浜松市などの自治体事例から、学校外プール活用の利点と限界、家庭の習い事頼みで広がる泳力格差、教員負担、保護者の不安、災害時にも関わる水難安全教育をどう守るかを解説します。

推薦入試の新常識、早稲田合格でも日東駒専に落ちる構造的な理由

総合型・学校推薦型選抜は大学入試の過半を占め、私立大では6割超に広がっています。文科省統計、早稲田・日東駒専各校の要項、予備校調査を基に、模試偏差値だけでは測れない適性評価、合格逆転が起きる仕組み、評定・探究・志望理由書をどう接続し、高校生と保護者が一般選抜と両立して備えるべき進路戦略を具体的に解説。

不登校支援を変える学びの多様化学校、制度設計と現場課題の最新

小中学校の不登校児童生徒は令和6年度に35万3970人となり過去最多です。文科省指定の学びの多様化学校は、柔軟な教育課程と安心の設計で学び直しを支える制度です。通信制・フリースクールとの違い、EIKO中等部計画や先行校の実践から、登校を目的化しない支援の制度条件と地域に広げる際の実務課題を読み解く。

次期学習指導要領で学校裁量は本当に広がるか教育課程改革の条件

次期学習指導要領では授業時数の柔軟化、情報活用能力の強化、探究的な学びが焦点です。中教審資料と文科省の教員勤務実態調査を基に、学校裁量拡大が負担増や地域格差に転じるリスク、サキドリ研究校の役割、自治体が今から整えるべき人員・研修・評価、保護者への説明責任と国の予算措置まで、現場で実現できる改革条件を読み解く。

最新ニュース

老化の分岐点が迫る四十代、六十歳前に整える健康寿命の経済戦略

老化は一定速度で進むとは限らず、40代前半と60歳前後に分子・代謝・筋力の変化が重なります。登山家の年齢リスクをめぐる逸話を統計で点検し、健康寿命が横ばいの日本で、運動・睡眠・健診・働き方をどう設計するか。OECDや厚生労働省の最新データから社会保障と労働供給への波及も読み解く。個人と企業の予防投資の論点も整理。

中国高級消費で進むスキンケア優先とブランドバッグ離れの深層変化

中国の個人高級品市場は2025年に3〜5%縮小した一方、美容ケアは4〜7%成長し、レザーグッズは8〜11%減少。2026年上半期の化粧品小売は6.3%増と総小売を上回る。所得伸び鈍化、価格上昇、成分重視、ウェルネス志向、ECでの比較購買が重なり、高機能スキンケアを選ぶ消費心理と産業構造の変化を読み解く。

知事・市長月給ランキング、上位自治体で差が出る給与額の制度背景

総務省の令和7年地方公務員給与実態調査を基に、知事・市長など首長の月給上位を検証。1位横浜市159万9000円、2位神奈川県145万円、3位埼玉県142万円という差が生まれる制度、報酬審議会、減額措置、期末手当、住民が給与を読む視点を解説。物価高と人材確保の時代に問われる自治体トップの処遇を読み解く。

年商100億ぎょうざの満洲を支える3割うまい直営経営の黄金比率

ぎょうざの満洲は2025年6月期に年商102億円、2026年4月時点で104直営店へ拡大。原材料費・人件費・諸経費を各3割に置く「3割うまい!!」が、国産食材、自社工場、駅前立地、研修制度をどう結び、値上げと人手不足が重い外食市場で地域密着の直営チェーンとして潰れにくい収益構造をつくるのかを読み解く。

台湾新幹線N700ST初出荷が映す日台商談の難路と大型保守投資

台湾高速鉄道の新型車両N700ST第1編成が日本で完成した。1240億円規模の契約は二度の入札不調と価格交渉を越え、保守設備を含む300億台湾ドル超の投資へ拡大。輸送力25%増を狙う台湾側と、少量多仕様の原価を抱える日本企業連合の収益条件を整理し、関連銘柄を見る投資家にも中期で重要な採算とリスクを読み解く。