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中国が全固体電池を2030年量産へ、EV覇権を本当に再現できるか

by 伊藤 大輝
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国家計画に格上げされた全固体電池の現在地

中国の工業情報化部など7部門は2026年9月、「新型電池産業発展第15次5カ年計画」を公表しました。2030年までに全固体電池の「初歩的な規模化応用」を実現し、先端電極、新型電解質、高度な製造設備まで含む産業基盤を整える方針です。電池分野で初めての国家レベルの専門計画であり、研究テーマだった全固体電池が産業政策の中核へ移ったことを示します。

ただし、政策文書が約束したのは、主力EVの大半を置き換える全面普及ではありません。実証車への搭載から安定した連続生産へ進み、限られた用途で市場を立ち上げる段階と読むべきです。中国がEVや太陽光パネルで築いた支配力を再現できるかは、電池材料の性能だけでなく、設備、品質保証、歩留まり、標準化を同時に仕上げられるかで決まります。

2030年目標を支える技術定義と政策設計

「初歩的な規模化」が示す政策の射程

計画の土台には、すでに大きな産業集積があります。中国政府によると、第14次5カ年計画期に新型電池産業の総生産額は1兆元を超え、量産セルの重量エネルギー密度は300Wh/kg超、長寿命型の最大サイクル数は1万2000回超に達しました。これらは全固体電池だけの実績ではなく、リチウム、ナトリウム、液流電池などを含む産業全体の指標です。

2030年目標にも同じ注意が必要です。長寿命リチウム電池の1万5000回、先頭企業の製品欠陥率をPPB級にする目標は、全固体セル単独の性能保証ではありません。一方で、あえて欠陥率を掲げた点は重要です。微小な空隙や異物が内部抵抗や短絡につながりやすい全固体電池では、試作セルの最高性能より、何百万個を同じ品質で作る工程能力が商用化の条件になるからです。

計画は5分野で19の重点任務を配置し、材料、製造装置、システム統合、標準・認証、知的財産、回収、海外投資までをつないでいます。AIによる材料探索や寿命予測、製造の可視化に加え、供給過剰の警戒や価格競争の是正も盛り込みました。補助金で設備を増やすだけではなく、需要と品質を起点に産業全体を再設計しようとする政策です。

半固体との混同を防ぐ判定基準

「固体電池」という名称は、少量の液体を残す半固体・固液混合型にも広く使われてきました。中国汽車工程学会が2025年に公表した団体標準は、全固体電池を、イオン伝導が完全に固体電解質を通じて行われる電池と定義しました。セルを開けても液体が見えず、120度の真空下で6時間乾燥した後の質量減少率が1%未満であることを判定条件としています。

この線引きがなければ、量産済みの半固体セルと開発中の全固体セルが同じ実績として語られます。上汽集団は2025年末に液体電解質を5%まで減らした半固体電池を量産し、2027年には400Wh/kg超の全固体電池を量産する計画を示しました。前者は市場実績、後者は企業目標であり、同じ「固体」の言葉でも成熟度は異なります。

固体電解質には硫化物、酸化物、ポリマー、ハロゲン化物などがあり、電導性、柔軟性、耐湿性、製造温度、コストの組み合わせが違います。したがって、全固体という分類だけで航続距離や寿命を比較することはできません。電解質の種類、正負極、セル容量、作動温度まで確認して初めて、製品同士を同じ物差しに載せられます。

高密度化を可能にする構造上の利点

従来のリチウムイオン電池では、可燃性を持つ有機系の液体電解質がイオンを運び、別のセパレーターが正極と負極の接触を防ぎます。全固体電池では固体電解質がこの二つの役割を担います。耐熱性を高め、冷却・防護部材を簡素化できれば、セルだけでなく電池パック全体の重量と空間効率も改善できます。

さらに、高電圧の正極や大容量のリチウム金属負極を使える可能性が、エネルギー密度を押し上げます。急速充電、高出力、低温域を含む広い使用条件も期待されています。ただし「液体がないから燃えない」と断言するのは早計です。正極は酸素を放出し得るうえ、リチウム金属は反応性が高く、内部短絡や周辺部材の発熱まで含めたセル・パック試験が欠かせません。

中国の量産力と日韓勢が競う勝敗の分岐点

EV・太陽光で築いた供給網の優位

中国の最大の強みは、研究論文の数より、材料から設備、セル、車両までを近距離で回せる産業集積です。IEAによると、中国は2025年末時点で世界のリチウムイオン電池製造能力の8割超を占め、中国企業は世界の電動車向け電池搭載量の約75%を供給しました。量産立ち上げ時の不具合に対応できる技術者、装置企業、材料企業が集まること自体が競争力です。

太陽光でも同じ構図が先行しました。IEAは中国が太陽光供給網の生産能力の約85%、ウエハーでは95%を占めると分析しています。大きな内需、政策金融、垂直統合、装置の国産化、激しい企業間競争が、学習速度とコスト低下を生みました。電池では中国と欧州などの製造コスト差の4割超が、中国側の高い製造効率に由来するとのIEA分析もあります。

この基盤は、正極・負極材、集電体、電池管理システム、車両統合では全固体にも生かせます。国内にはEVだけでなく、船舶、航空、ヒト型ロボット、建設機械、データセンター、電力貯蔵という実証先もあります。異なる用途から故障データを集め、設計と工程へ戻す速度は、中国勢が市場を広げる強い武器です。

一方、全固体電池では固体電解質の合成、粉体の混合、薄膜化、緻密化、積層、加圧、乾燥雰囲気、非破壊検査が新たな中核工程になります。液系電池の巨大工場を持つことが、そのまま全固体の良品率を保証するわけではありません。既存設備の一部が使えず、現在の規模が転換コストになる可能性もあります。太陽光と同じ道を進めるかは、この工程転換を標準化できるかにかかっています。

先行日韓勢と2027~2028年の試金石

競争相手も同じ時期に量産準備を進めています。トヨタと出光興産は硫化物固体電解質の供給網を共同で構築し、2027~2028年の実用化、その後の本格量産を目指します。トヨタが明示する最大の技術課題は、充放電で電極と電解質の間に亀裂が生じ、耐久性が落ちることです。材料の柔軟性だけでなく、調達、物流、加工を一体で設計しています。

Hondaは約430億円を投じ、延床面積約2万7400平方メートルの実証ラインで、混練、塗工、ロールプレス、セル化、モジュール組立を検証しています。固体層を連続的に押し固めて界面接触と生産性を両立し、低露点環境を必要最小限にして間接費を抑える設計です。

日産は2025年1月にパイロットラインを稼働し、2028年度の搭載車投入を目指しています。乾式電極で乾燥・溶剤回収を省ける反面、高速で安定生産する技術を課題に挙げます。韓国のSamsung SDIも2023年にパイロットラインを完成させ、2027年の量産開始を掲げています。

つまり、2027~2028年は中国だけの期限ではなく、日中韓の各社が試作品から顧客向け生産へ移れるかを問われる共通の関門です。最初の搭載発表より、量産セルの供給量、保証条件、採用車種の継続性が勝敗を分けます。

量産ラインで難所となる四つの工程

第1の難所は固体同士の界面です。液体なら電極粒子の隙間へ入り込めますが、固体は接触点が限られます。充放電に伴う膨張と収縮で隙間や亀裂が生じると、イオンの通り道が切れ、抵抗が増えます。強く押せば接触は改善するものの、重い加圧機構を車載するのは不利であり、低い圧力でも長寿命を保つ設計が必要です。

第2は微小欠陥の管理です。固体電解質にも粒界や空隙があり、局所的な電流集中からリチウムが侵入すれば短絡し得ます。研究機関ごとにセル形状や加圧条件が異なり、性能の再現性にも課題があります。面積の小さな試験セルで成功しても、大容量セルへ広げるほど欠陥を完全に避ける難度は上がります。

第3は材料ごとに異なる生産環境です。硫化物は高いイオン伝導と成形性が期待できる一方、水分との反応や硫化水素への安全対策が必要です。酸化物は安定性に利点があるものの、硬い材料同士の接触や焼結工程が課題です。ポリマーは加工しやすい反面、室温での伝導性をどう高めるかが焦点になります。一つの万能材料ではなく、用途と工程の組み合わせで解く競争です。

第4は歩留まりと原価です。材料費が下がっても、低露点設備、加圧、検査、長い化成工程、廃棄セルが増えれば総原価は下がりません。研究段階では高い圧力や厚い電解質でも性能を示せますが、商品では薄く均一な層を高速で作り、連続ラインの停止を減らす必要があります。2030年の成否は、最高値の更新ではなく、工場のタクトタイムと良品率に表れます。

市場席巻を阻む過剰投資と規制の三重壁

第1の壁は、既存電池が止まらず進化することです。IEAによると、2025年の中国製電池パック価格は北米より30%、欧州より35%低い水準でした。安価なリン酸鉄リチウム電池の安全性、急速充電、パック効率が改善すれば、全固体電池が超えるべき価格と性能の基準も動き続けます。航続距離を最優先しない定置用蓄電では、長寿命の液系、ナトリウムイオン、液流電池が合理的な場合もあります。

第2は投資の先走りです。政策目標に合わせて材料・設備の計画が一斉に膨らみ、実需要が遅れれば、値下げ競争で研究費を失いかねません。計画自体が供給能力の警戒、品質監督、価格競争の規律を掲げたのは、中国政府も既存の電池産業で生じた需給のひずみを認識しているためです。

第3は貿易と経済安全保障です。EVと太陽光で中国のシェアが高まるほど、関税、現地生産要件、補助金の原産地条件が強まりました。全固体でも同じ反応が予想されます。中国企業が技術を確立しても、完成品輸出だけで世界を覆うより、海外工場、合弁、ライセンス、現地調達を組み合わせる展開が現実的です。2030年前後は高級EV、航空、ロボットなど、価格より軽さと安全価値を重視する市場から広がる可能性が高いでしょう。

企業と投資家が確認すべき量産化の五指標

全固体電池のニュースを見る際は、5つの数字を確認する必要があります。第1は標準に基づく液体残存量、第2は材料ではなく大容量セルでのWh/kgとWh/L、第3は加圧・温度・充電速度を明示したサイクル寿命、第4はパイロットラインの速度、歩留まり、年間出荷量、第5は保証・回収まで含む1kWh当たりの総原価です。第三者試験と実車データが伴わない最高性能は、量産能力とは切り離して評価すべきです。

中国は供給網、内需、設備企業、量産学習で最有力候補ですが、日韓勢は材料特許と車載品質で先行します。日本企業には、規模だけを追うより、固体電解質、製造装置、計測、界面処理、リサイクルを押さえ、複数陣営へ供給する戦略があります。2030年という日付ではなく、2027~2028年に外部顧客が採用し、低加圧で安定生産できるかを追うことが、次の覇権を見極める近道です。

参考資料:

伊
伊藤 大輝

テクノロジー・産業動向

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