中国はま寿司急拡大、スシローとすみ分ける値頃現地化戦略の勝因
中国回転寿司が伸びる消費環境
中国の外食市場で、日本の回転寿司チェーンが再び存在感を強めています。なかでも「はま寿司」は、ゼンショーホールディングスの海外成長を支える中核業態として、店舗数と認知度を急速に伸ばしています。
背景にあるのは、単なる日本食ブームではありません。中国では消費の伸びが鈍る一方で、外食には「安いだけでなく、品質が読める店」を選ぶ動きが広がっています。寿司は高級日料と日常外食の中間に位置し、少額注文でも満足感を出しやすい業態です。
本稿では、はま寿司の中国拡大を、ゼンショーの供給網、現地化メニュー、スシローとの競争軸、中国マクロ消費の変化から読み解きます。焦点は、なぜいま「値頃な日本品質」が中国都市部で刺さっているのかです。
はま寿司を押し上げる低価格と供給網
海外店舗倍増が示す攻めの局面
ゼンショーホールディングスの2026年3月期決算説明資料では、連結売上高が1兆2640億円、営業利益が814億円となりました。グループ全体では原材料費や人件費の上昇を受けながらも、外食事業の既存店売上と出退店効果が成長を押し上げています。
その中で目立つのが「グローバルはま寿司」です。2026年3月期の同セグメントは、売上高の前年差が717億円、伸び率は28.9%とされています。既存店売上高も2019年比で170.6%に達しており、国内だけでなく海外展開が成長率を高める構図です。
ゼンショーの経営方針資料を整理したデータでは、2026年3月末時点のグローバルはま寿司は862店、日本664店、海外198店です。中国大陸では華東105店、華北36店、華南23店、西南22店の計186店が確認できます。以後の出店を加味すれば、中国事業は200店規模に入ったとみるのが自然です。
この数字の意味は大きいです。中国の外食市場では、話題店が短期的に伸びても、標準化された店舗運営、食材調達、人材育成を維持できずに失速する例が少なくありません。はま寿司の出店速度は、単体ブランドの人気だけでなく、ゼンショーが持つ多業態展開の土台に支えられています。
十元台を可能にするMMD型供給網
はま寿司の武器は「高級日料」ではなく、日常的に入れる価格帯です。中国メディアの現地紹介では、浜寿司は平価な単品、タブレット注文、レーン提供が特徴とされ、単品の寿司や揚げ物が10元前後で選べる店として紹介されています。
この価格帯は、現在の中国消費者心理と相性が良いです。国家統計局によると、2026年1〜7月の中国の社会消費品小売総額は前年同期比1.2%増にとどまり、同期間の飲食収入は2.6%増でした。外食需要は消えていませんが、伸びは強くなく、消費者は店選びに慎重です。
ゼンショーは、食材調達、製造加工、物流、店舗販売を一体で管理するMMD型の供給網を強みにしてきました。牛丼、ファミリーレストラン、寿司など複数業態を抱えることで、購買規模を確保し、標準化された品質管理を行いやすくしています。中国の寿司事業でも、この低コスト運営の思想が生きています。
重要なのは、安さだけを前面に出していない点です。サーモン、まぐろ、えび、うなぎ、ラーメン、揚げ物、デザートまで選択肢を広げ、同行者の好みが割れても利用しやすい店にしています。寿司に慣れた若年層だけでなく、生魚に抵抗がある客、家族客、友人同士の小規模会食まで拾える設計です。
中国でサーモン消費が広がっていることも追い風です。ノルウェー水産物審議会関連の報道では、中国一線都市の海鮮消費者の約4分の1が、週1回以上サーモン刺身を食べるとされています。寿司そのものより刺身としての認知が強いとはいえ、サーモンを入り口にした日本式外食への心理的距離は縮まっています。
スシローと分かれる出店思想と体験価値
旗艦店で話題化するスシロー
中国の回転寿司市場を語るうえで、スシローとの比較は避けられません。FOOD & LIFE COMPANIESは、2026年7月に海外事業が300店舗に到達したと発表しました。2025年2月の200店舗到達から約1年4カ月での達成で、同社はFY26に海外事業売上比率35%、310〜320店舗を目指す方針を掲げています。
スシローは中国で、都市の大型商業施設や話題性のある立地に重点を置いてきました。北京では2024年8月に西単大悦城店を開き、日本で展開する「デジロー」も導入しました。店舗概要では234席、個室4室、200種類以上のメニューが示され、中国の大人数会食文化にも合わせています。
さらに2025年12月には、上海環球港と中山公園龍之夢に上海初の2店舗を同時出店すると発表しました。北京、蘇州、上海といった都市で旗艦店型の印象を作り、SNS上の行列や体験価値をブランド資産に変える戦略です。
このため、スシローは「価格以上の体験」を前面に出しやすいブランドです。店舗の見え方、デジタル演出、都市商業施設での集客力が強く、若年層の投稿文化とも結びつきます。中国で日本の回転寿司を初めて体験する客にとっては、スシローがカテゴリーの代表名になりやすい面があります。
日常便餐を狙うはま寿司の余白
一方、はま寿司はスシローと正面から同じ立地、同じ価格、同じ体験演出でぶつかる必要がありません。むしろ強みは、日常便餐としての入りやすさにあります。現地紹介記事で強調されるのは、平板注文、速い提供、平価単品、リピート客向けの値引きといった、普段使いの便利さです。
メニュー面でも、はま寿司は「寿司専門店」の枠を少し緩めています。日本国内や台湾の公式メニューでも、炙り、焦糖系、チーズ、明太マヨ、揚げ物、ラーメン、うどん、デザート、ドリンクが広く展開されています。中国で話題になる火鍋風の温かい商品や炙りブリュレ系の商品も、この現地化の延長に位置づけられます。
中国の若年女性客をつかむには、満腹感だけでなく、少量多品目、甘い味、写真に撮りやすい見た目、友人とシェアしやすい構成が重要です。焦糖炙りやデザート系の寿司は、日本の伝統的な寿司観から見れば変化球ですが、中国の外食では「試したくなる一皿」として機能します。
ここに、はま寿司のすみ分けがあります。スシローが都市の目立つ場所で「話題の日本回転寿司」として認知を高める一方、はま寿司は価格とメニュー幅で来店頻度を取りにいく。両社は同じ回転寿司でも、ブランド記憶の作り方と収益モデルが異なります。
マクロ経済の視点では、この差は重要です。中国の都市消費は高所得層だけでなく、中間所得層の慎重な支出に左右されます。はま寿司のように、単価を抑えながら品質の安心感を与える業態は、景気が強い局面よりも、むしろ選別消費の局面で浸透しやすいです。
中国外食の価格圧力が映す成長リスク
はま寿司の拡大は順調に見えますが、中国外食市場は簡単ではありません。KPMG中国の2026年中国餐飲企業発展報告は、2025年の中国飲食業について、総収入は安定成長を続けた一方、質価比志向の高まりで客単価が下がったと指摘しています。値頃感は成長要因であると同時に、利益率を圧迫する要因でもあります。
中国飯店協会の2026年7月の餐飲業消費指数でも、客流量は回復しつつある一方、注文量や客単価の戻りには圧力が残る姿が示されています。7月の客流量指数は前月比4.0%増、前年比13%増でしたが、業界信心指数は94.9と基準線100を下回りました。市場は温まっても、経営者心理はまだ慎重です。
はま寿司にとって最初のリスクは、出店速度と店舗品質のバランスです。200店規模になると、立地、スタッフ教育、食材ロス、冷蔵物流、衛生管理の難度が上がります。寿司は生鮮品の印象が強いため、ひとつの品質問題がブランド全体に及ぶリスクもあります。
第二のリスクは、現地メニューの広げすぎです。火鍋風、炙り、甘い味、肉寿司、揚げ物は集客に効きますが、商品数が膨らむとオペレーションが複雑になります。値頃感を維持しながら、多品目化による厨房負荷をどう抑えるかが収益性を左右します。
第三のリスクは、日中関係と輸入食材の変動です。サーモン、まぐろ、ほたてなどは国際物流、為替、検疫、政治環境の影響を受けます。ゼンショーの規模は調達面の防波堤になりますが、中国市場だけを見ても、水産物の価格と消費者の支払い意欲が常に一致するとは限りません。
それでも、低価格チェーンの成長余地は残ります。Strategy&は、中国の下位都市市場では価格だけでなく、信頼、価値、地域適合性が選択を左右すると分析しています。はま寿司が今後さらに内陸部や低層都市へ入るなら、単なる値下げではなく、品質を信じられる日常外食として定着できるかが分岐点です。
投資家と業界関係者が見るべき指標
はま寿司の中国拡大は、日本の外食企業が海外で勝つための条件を映しています。重要なのは、日本式の商品をそのまま持ち込むことではなく、品質の安心感を保ちながら、中国の価格感覚、会食文化、SNS消費、温かい料理への嗜好を組み込むことです。
投資家や業界関係者が見るべき指標は、店舗数だけではありません。既存店売上、客単価、待ち時間、再来店率、廃棄率、現地限定商品の比率、サーモンなど主要食材の調達価格を合わせて確認する必要があります。店舗が増えても、単店の収益が崩れれば成長の質は落ちます。
現時点では、はま寿司は中国外食市場の「安いが不安」ではなく、「値頃で外さない」需要をつかんでいます。スシローが体験価値で市場を広げ、はま寿司が日常利用で需要を深掘りする構図は、当面続きそうです。中国消費の減速局面でこそ、値頃感と供給網を持つ外食チェーンの実力差が見えやすくなります。
参考資料:
- ゼンショーホールディングス 2026年3月期 決算説明資料
- ゼンショーホールディングス 2027年3月期 第1四半期 決算説明資料
- はま寿司 月次推移 ゼンショーホールディングス
- 株式会社ゼンショーホールディングス 決算説明資料 EDINET DB
- F&LC、海外事業が300店舗に到達
- FOOD & LIFE COMPANIES Profile
- スシロー、中国大陸で首都・北京に初出店
- SUSHIRO to Open Its First Stores in Mainland China’s Shanghai
- 2026年1—7月份社会消费品零售总额增长1.2% 国家统计局
- KPMG中国 2026年中国餐饮企业发展报告
- Strategy& Winning China’s lower-tier markets
- 中国餐饮业消费指数报告 2026年7月
- Salmon Business China salmon sashimi consumption
- 新浪新闻 滨寿司(HAMA)的菜单
- HAMA NAVI 台湾はま寿司メニュー
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