kinyukeizai.com
kinyukeizai.com

ドコモ苦戦の真因とは?携帯市場で独り負けの背景

by 伊藤 大輝
URLをコピーしました

NTTドコモ独り負けと830億円下方修正

日本の携帯電話市場で長年トップシェアを誇ってきたNTTドコモが、かつてない苦境に立たされています。2025年度の決算では、KDDIやソフトバンクが増収増益を達成する一方で、ドコモだけが減益に沈む「独り負け」の状況が鮮明になりました。

営業利益の通期予想は当初計画から830億円の下方修正を余儀なくされ、8830億円に引き下げられています。純利益も前期比15%減の6120億円が見込まれ、減益は2期連続です。かつての「王者」に何が起きているのでしょうか。本記事では、ドコモが想定を超える苦戦に陥った複合的な要因を解説します。

通信品質の低下が招いた信頼失墜

「つながらないドコモ」問題の発端

ドコモの苦戦を語るうえで避けて通れないのが、2023年頃から顕在化した通信品質の低下問題です。「パケ詰まり」と呼ばれる現象が全国各地で発生し、特に通勤時間帯の電車内やターミナル駅周辺で「つながらない」「速度が極端に遅い」といったユーザーの不満がSNS上に噴出しました。

この問題の根本原因は、コロナ禍後の人流回復を見誤ったことにあります。テレワークの普及で外出先での通信需要が減少すると予測していたところ、実際には想定を超えるペースで人流が回復し、4G基地局の通信容量がひっ迫してしまったのです。

5G整備の戦略的判断ミス

さらに問題を深刻化させたのが、5G整備における戦略的な判断です。ドコモは5GのSA(スタンドアロン)方式の整備を優先する方針を取りましたが、SA対応の基地局数は1万〜2万局弱にとどまっていました。そのため、4G回線が逼迫した際にトラフィックを5Gへ分散させることができず、品質低下が長期化する結果となりました。

KDDIやソフトバンクが4Gの上に5Gを重ねるNSA(ノンスタンドアロン)方式で広いエリアカバーを実現していたのとは対照的です。ドコモは約300億円を投じて全国2000カ所以上の基地局強化や調整を進め、5G基地局数を1年で20%拡大するなど巻き返しを図っています。改善効果として、SNS上の不満の声は40%減少したとされますが、一度失った信頼の回復には時間がかかります。

MNP競争激化と販促費の膨張

ポートアウトの拡大が止まらない

ドコモの業績を直撃しているもう一つの要因が、MNP(携帯電話番号ポータビリティ)競争の激化です。ドコモの前田社長は「他社の攻勢が我々の思った以上に強まった」と認めています。

ドコモへのMNPポートイン(他社からの乗り換え)は、大・中容量の通信プランを契約するユーザーにおいて前年同期比45%増加しました。しかし、それ以上にドコモからのポートアウト(他社への乗り換え)が多く、MNPの純増減はマイナスに転落しています。通信品質問題をきっかけにドコモへの不信感が広がり、乗り換えを検討するユーザーが増えたことが背景にあります。

販促費が利益を圧迫

この流出に歯止めをかけるため、ドコモは2024年10〜12月期以降、販促活動を大幅に強化しました。しかし、その効果は限定的です。2025年4〜9月期には、販促強化費用の増加だけで551億円の減益影響が生じています。これはモバイル通信サービスの収入減少額221億円の2倍以上にのぼり、いわば「追いかけるほど赤字が広がる」構造に陥っているのです。

業界専門家からは「販促費の積み増しは無駄に見えて仕方がない」との厳しい指摘も出ています。競合他社がキャッシュバックやポイント還元で攻勢をかける中、ドコモも対抗策を打たざるを得ないというジレンマがあります。

競合3社の戦略転換がドコモを追い詰める

KDDIとソフトバンクは「数より質」へ

興味深いのは、ドコモが苦しむ中でKDDIとソフトバンクが戦略を大きく転換させている点です。両社は従来の新規顧客の獲得を重視する路線から、既存顧客の長期利用を促す「質の重視」へと舵を切りました。

ソフトバンクの宮川社長は「純増にはこだわらない」と明言し、短期解約者よりも長期利用者を重視する方針を打ち出しています。KDDIも松田社長のもとでモバイル事業が順調に拡大しており、金融やコマースなどの「経済圏」を軸にした囲い込み戦略で安定成長を実現しています。

楽天モバイルの台頭

さらに、第4のキャリアである楽天モバイルの存在もドコモにとって脅威となっています。楽天モバイルは2025年10〜12月期に契約者数が7%成長し、勢いを見せています。外国人ユーザーの取り込みにも成功しており、市場シェアは4.2%(2025年9月末時点)まで拡大しました。

楽天モバイルの特徴は、シンプルかつ低価格な料金プランで値上げをしない姿勢を貫いている点です。大手3社が上位プランへの移行を促進する中で、価格に敏感な層を着実に取り込んでいます。

料金プラン刷新で反転攻勢なるか

eximo・irumoからドコモMAXへ

こうした苦境を打開するため、ドコモは2025年6月に料金プランを全面刷新しました。従来の「eximo」「irumo」の新規受付を終了し、「ドコモMAX」「ドコモmini」「ドコモポイ活MAX」「ドコモポイ活20」の4つの新プランを投入しています。既存の「ahamo」と合わせた5プラン体制で、顧客セグメントごとにきめ細かく対応する戦略です。

「ドコモMAX」は大容量ユーザー向け、「ドコモmini」は小容量で手厚いサポートを求めるユーザー向けと、ターゲットを明確に分けています。特にポイント還元を前面に押し出した「ポイ活」プランは、経済圏による囲い込みを意識した設計です。

ARPUの回復が最重要課題

ドコモのモバイル通信ARPUは3940円で、2025年度の通期では3970円を目指しています。モバイル通信サービス収入を2025〜2026年度にかけて反転させる計画ですが、競争環境の厳しさを考えると楽観はできません。

市場シェアも2025年3月末の40.2%から、9月末には39.7%へ低下しています。わずか半年で0.5ポイントの低下は、最大手としては看過できない水準です。

既存顧客囲い込みで遅れるドコモの反転条件

ドコモの苦戦は単一の原因ではなく、通信品質の低下、5G戦略の判断ミス、競合の戦略転換、そして販促費の膨張という複合的な要因が絡み合っています。特に注目すべきは、日本の携帯市場全体が「新規獲得競争」から「既存顧客の囲い込み」へとパラダイムシフトしている中で、ドコモがその流れに乗り遅れている点です。

NTT島田社長は「戦いには勝たないといけない」と述べており、「短期契約者はもう追わない」という方針への転換を示唆しています。しかし、すでに競合のKDDIやソフトバンクが先行して既存顧客重視へ移行しており、ドコモが後追いで同じ戦略を取っても差別化は困難です。

通信品質の改善については一定の進展が見られますが、5G基地局の全国的な展開と、AIブームに伴うデータトラフィックの急増への対応が今後の課題となります。ドコモが真の意味で「反転」を果たすには、単なる料金プランの刷新や販促費の積み増しではなく、ネットワーク品質という根幹で競合を圧倒する必要があるでしょう。

通信品質回復と経済圏拡充が握る業績の鍵

NTTドコモの苦戦は、通信品質の低下による顧客離れ、MNP競争の激化、販促費の膨張、そして競合他社の戦略転換が複合的に作用した結果です。2025年度は営業利益予想を830億円下方修正し、純利益も15%減となる見通しで、「独り負け」の状況が続いています。

料金プランの全面刷新や5G基地局の増設など反転攻勢の布石は打たれていますが、KDDIやソフトバンクが先行する「既存顧客重視」の流れの中で、ドコモがいかにして差別化を図るかが問われます。日本最大のキャリアとして通信品質の信頼を取り戻し、経済圏の拡充で顧客を囲い込めるかどうかが、今後の業績を左右する鍵となるでしょう。

参考資料:

伊
伊藤 大輝

テクノロジー・産業動向

製造業のDX・新素材開発からモビリティの未来まで、技術革新がもたらす産業構造の変化を現場視点で伝える。

関連記事

携帯キャリア短期解約が急増するからくりと対策

携帯キャリア短期解約が急増する背景には何があるのか。MNPを使うホッピングが、端末値引き、キャッシュバック、回線契約の分離で広がる構図を整理。大手4キャリアが総務省に規制を要請した理由と、利用者側の注意点、業界の対策を分かりやすく解説。制度変更が進めば何が変わるのか、短期的な得と長期的な不利益の両面から読み解く。

ドコモ値上げで旧プラン利用者が今すぐ確認すべき料金差と乗換基準

NTTドコモは2026年12月1日からeximoやギガホ、irumo、ahamoなどを最大550円値上げする。旧プラン継続が本当に得か、家族割、dカード、光回線、データ使用量、海外利用、ahamoの段階制まで含めて月額差を点検する家計防衛の実務ポイントを、競合プランや通信品質投資の文脈から解説。

ドコモSMTBネット銀行とdポイント経済圏の家計データ戦略を読む

ドコモSMTBネット銀行の始動で、dカード、d払い、マネックス証券、住宅ローンがdポイントで結び付く。1.1億規模の会員基盤と年間4,052億ポイント消費を背景に、最大4.5%還元の条件、口座連携が生む金融データの価値、競合経済圏との差、ポイ活利用者が確認すべき同意管理と家計防衛の出口戦略を丁寧に解説。

ドコモGOLF me終了で露呈したゴルフサブスクの限界と次の一手

NTTドコモのGOLF me!は2026年9月30日にラウンドを終え、10月29日にサービスを閉じる。月額8,778円からの回り放題がなぜ広がり切らなかったのか。予約枠1つ、提携ゴルフ場50超、利用者層、後継のTEEREX友の会を材料に、大手予約サイトとの競争も含め今後の採算構造と次の勝ち筋を読み解く。

楽天J-LEOはスマホ圏外をどこまで消せるのか技術課題徹底検証

RASTが選定候補となったJ-LEOは、楽天とAST SpaceMobileの衛星網で普通のスマホを直接つなぐ構想です。最大1480億円規模の補助、BlueBirdの性能、周波数・端末・打ち上げ遅延の制約、災害時の通信確保と携帯各社の連携まで、山間部や離島で本当に使える実装条件と投資リスクを読み解く。

最新ニュース

猫2匹と100種の植物が共存、壁を傷めない賃貸DIYの安全設計

築34年の賃貸マンションで、猫2匹と100種超の植物が安全に共存する住まいをどうつくるのか。有毒植物を購入前に学名で照合する方法、壁に穴を開けない突っ張り柱と自立棚の使い分け、荷重・地震・湿気・害虫への備え、猫の逃げ場と動線、退去時の原状回復まで、園芸経験者の発想を一般の賃貸住宅で再現する設計手順を解説する。

無料訪問は怪しい?ホームスタートが孤立する親子を支える仕組み

無料で自宅を訪ねるホームスタートは、研修を受けた子育て経験者が傾聴と協働で親子に寄り添う家庭訪問型支援です。週1回約2時間、4〜6回の活動内容、オーガナイザーによる調整と安全管理、家事代行・託児との違い、2025年度に3271家庭へ届いた実績、利用前に確認したい地域差や限界と相談先まで詳しく解説します。

日本の原潜保有論が再浮上、68年の検討史と国家決断の条件とは

日本の原子力潜水艦構想は、1958年の民間試設計から68年を経て安全保障3文書改定の論点に浮上した。小泉純也元防衛庁長官の「造る意思なし」と孫・進次郎防衛相の「選択肢を排除しない」を起点に、原子力基本法、NPT・IAEA保障措置、建造費、人材、AUKUSの教訓を検証し、導入判断に必要な条件を読み解く。

しまなみ海道の外国人客が3割超 映画ロケ地人気を支える観光設計

映画『汝、星のごとく』の舞台として脚光を浴びる、尾道と今治を結ぶしまなみ海道。2024年度はレンタサイクル13万5735台の32.2%を外国人が占めた。70キロのブルーライン、乗り捨て、電動化、無料の橋梁通行、島文化が生む体験価値を整理し、急増客を滞在消費へ変える地域課題と旅行者が守るべきマナーを読み解く。

恋愛が怖い若者へ、傷つく不安を越えて関係を育てる心の実践処方箋

恋人がいる未婚者は男性19.6%、女性27.8%――最新の出生動向基本調査が示す若者の恋愛離れを、拒絶への敏感さ、男子校・女子校の交流経験、SNS時代の評価不安から分析。林真理子さんの「欲望」を手がかりに、本人が無理なく踏み出す方法と、親が干渉せず自律を支える具体策、安全な関係の境界線まで解説する。