ハチミツ二郎「電動車椅子さんぽ」が示す新時代
BS朝日特番で広がる電動車椅子さんぽ
2026年3月8日、BS朝日で特別番組『ハチミツ二郎が行く!!電動車椅子さんぽ supported by 有吉クイズ』が放送されました。東京ダイナマイトのハチミツ二郎が電動車椅子に乗り、ゲストとともに街を散策するこの番組は、2025年にギャラクシー賞月間賞を受賞した注目企画です。
壮絶な闘病を経て左膝下を切断したハチミツ二郎が、笑いを交えながら車椅子で街を巡る姿は、多くの視聴者の心を動かしています。エンターテインメントとバリアフリーを自然体で融合させたこの番組の魅力と意義を、詳しく見ていきましょう。
壮絶な闘病から番組誕生まで
度重なる命の危機を乗り越えて
ハチミツ二郎の闘病歴は壮絶です。2018年に急性心不全と呼吸不全で倒れ、一時は危篤状態となりました。2021年には新型コロナウイルスに感染し、集中治療室で8日間にわたり意識不明の状態が続きました。
その後、腎機能が低下して週3回の人工透析が必要な生活となり、2023年には腎移植を試みましたが失敗。さらに敗血症性ショックを起こし、「左大腿会陰部筋肉内膿瘍」と診断されました。2024年3月には漫才師としての活動休止を発表しています。
そして2025年10月、症状の進行により左膝下の切断手術を受けました。友人である有吉弘行が自身のラジオ番組で公表し、多くのファンに衝撃が広がりました。
「BSで電動車椅子さんぽがやりたい」
番組の誕生は、1つのひと言がきっかけでした。2025年1月、テレビ朝日『有吉クイズ』の「有吉とメダルゲーム」回に出演したハチミツ二郎が、「BSで電動車椅子さんぽの番組がやりたい」と語ったのです。
この発言を受けて、2025年3月にBSレギュラー化を目指したパイロット版が地上波で放送されました。有吉弘行とハチミツ二郎が電動車椅子に乗り、商店街を散策する内容は大きな反響を呼びました。
ギャラクシー賞受賞が証明した番組の価値
「よりよい未来像を自然体で提示」
パイロット版は、放送文化の向上に貢献した番組に贈られるギャラクシー賞の2025年4月度月間賞を受賞しました。審査では「よりよい未来像を自然体で提示した」と高く評価されています。
この評価のポイントは「自然体」という言葉にあります。従来のバリアフリー関連番組は、啓発や教育の色合いが強い傾向がありました。しかし「電動車椅子さんぽ」は、あくまでエンターテインメントとして成立しています。車椅子を「特別なもの」ではなく、街歩きの移動手段として楽しむ姿が、結果的にバリアフリーの理想像を映し出しているのです。
障害者も健常者も「気軽に外出できる」未来
番組の中では、電動車椅子で商店街を巡りながら、道路の段差や坂道の状況、エレベーターの車椅子用ボタンの使い方など、実用的なバリアフリー情報も自然に伝えられています。障害を持つ人だけでなく、高齢者や健常者も含め、誰もが気軽に車椅子で外出できる社会の姿を提示しています。
番組で使用されているWHILL(ウィル)の電動車椅子は、折りたたみ可能な「Model F」やフラッグシップモデルの「Model C2」で、免許不要で歩道を走行できるパーソナルモビリティです。「車椅子」というイメージを超えた、次世代の移動手段としての可能性を視聴者に印象づけています。
拡大する番組の輪
第2弾から特番化へ
ギャラクシー賞受賞を受けて、2026年2月8日と15日に『有吉クイズ』内で第2弾が放送されました。2025年10月の手術後、義足生活に奮闘するハチミツ二郎が有吉弘行と再会し、関太(タイムマシーン3号)やヒコロヒーとともに思い出の地・五反田を巡りました。
そして3月8日、念願のBS朝日での特番が実現。サンドウィッチマンの伊達みきおをゲストに迎え、台東区・三ノ輪の商店街を散策しました。下町情緒あふれる街で、地元のグルメを楽しみながら人々と触れ合う姿が放送されています。
笑いの中に込められたメッセージ
番組の中でハチミツ二郎は、車椅子生活を送るお年寄りに対して「迷惑かかる…じゃなくて」と声をかけ、外出することの大切さを伝えました。車椅子で外出することを「迷惑」と感じてしまう人に対して、芸人ならではの明るさで背中を押す場面は、多くの視聴者の心に響いています。
伊達みきおは自身のブログで番組出演の感想を綴っており、先輩であるハチミツ二郎との共演を喜ぶとともに、番組の意義に共感を示しています。ハチミツ二郎のM-1グランプリへの挑戦に触れ、「俺、今何やってんだ?」と自らを奮い立たせたエピソードも話題になりました。
ハチミツ二郎の漫才復帰と番組継続の課題
バリアフリー番組の新しい形
「電動車椅子さんぽ」が示す最も重要な点は、バリアフリーをテーマにした番組が「お涙頂戴」ではなく、純粋な娯楽として成立し得るという事実です。障害を過度に悲劇化せず、かといって無視もしない。日常の延長線上にある「街歩き」を通じて、自然体でバリアフリーの課題と可能性を伝えています。
ただし、こうした番組が単発で終わらず、レギュラー放送として定着するかどうかが今後の課題です。ハチミツ二郎自身もnoteで「電動車椅子さんぽが始まらない」とスポンサーを募る投稿をしていた時期があり、番組の継続には視聴者の支持と協賛企業の確保が欠かせません。
芸人としての復帰への期待
ハチミツ二郎は義足専門の病院に通院しながら、漫才復帰を目指しています。「漫才復帰したら全員泣かせてやろう」という力強い言葉も報じられており、芸人としての再起にも注目が集まっています。「電動車椅子さんぽ」は、その復帰への道のりを支える重要な活動の場にもなっています。
笑いとバリアフリーが変える街歩きの意識
『電動車椅子さんぽ』は、壮絶な闘病を経たハチミツ二郎だからこそ生み出せた番組です。笑いとバリアフリーを自然に融合させ、ギャラクシー賞受賞という形でその価値が認められました。BS朝日での特番化は、レギュラー放送への大きな一歩です。
この番組が投げかけているのは、「障害があっても街に出よう」という前向きなメッセージです。エンターテインメントの力で社会の意識を変えていく——その可能性を「電動車椅子さんぽ」は確かに示しています。
参考資料:
関連記事
新幹線・特急・私鉄のトイレ事情を徹底比較
新幹線や在来線特急、私鉄特急の車内トイレ設置数を路線・車両別に比較調査した。東海道新幹線の「2両に1両」配置から、8両編成で2か所のみの私鉄特急まで、充実度には大きな差がある。大型連休の長距離移動で困らないためのトイレ配置ガイドと、真空式・温水洗浄便座など進化する車内トイレの最新設備事情を解説。
欧州鉄道の低床車が日本と違う理由を規格と車両構造から読み解く
欧州鉄道の低床車が日本と違う理由を、ホーム高さの不統一、EU相互運用規格、車両構造の工夫から整理。トラムだけでなく近郊電車や地域列車にも低床化が広がった背景を、バリアフリーだけではない規格統合と交通政策の両面から解説。駅と車両を一体で設計する発想が生んだ進化の道筋を追う。日本の制約との違いも解説する。
大阪メトロ段差解消の仕組みを読み解く低床車両と駅改良の全体像
大阪メトロの段差解消はホーム柵整備とは別の技術課題だ。八尾南駅で完了した可動式ホーム柵による安全性向上を踏まえつつ、低床車両、ホーム改良、すき間縮小工事がなぜ別工事になるのかを、バリアフリーの制度設計や国の基準、他社事例も交えて、実際の解消手順と段差縮小の全体像、利用者目線の課題と構造まで読み解く。
コンパクト住居から考える終の棲家の条件とは
コンパクト住居から終の棲家の条件を考える。25平米でも暮らしやすさを実感する背景には、広さだけでは測れない動線、維持費、孤立しにくさ、安心感の設計がある。シニア世代の生活経験を手がかりに、老後の住まいに本当に必要な要素を多角的に読み解き、住み替え判断と生活設計の軸、後悔しない視点と優先順位を整理する。
最新ニュース
猫2匹と100種の植物が共存、壁を傷めない賃貸DIYの安全設計
築34年の賃貸マンションで、猫2匹と100種超の植物が安全に共存する住まいをどうつくるのか。有毒植物を購入前に学名で照合する方法、壁に穴を開けない突っ張り柱と自立棚の使い分け、荷重・地震・湿気・害虫への備え、猫の逃げ場と動線、退去時の原状回復まで、園芸経験者の発想を一般の賃貸住宅で再現する設計手順を解説する。
無料訪問は怪しい?ホームスタートが孤立する親子を支える仕組み
無料で自宅を訪ねるホームスタートは、研修を受けた子育て経験者が傾聴と協働で親子に寄り添う家庭訪問型支援です。週1回約2時間、4〜6回の活動内容、オーガナイザーによる調整と安全管理、家事代行・託児との違い、2025年度に3271家庭へ届いた実績、利用前に確認したい地域差や限界と相談先まで詳しく解説します。
日本の原潜保有論が再浮上、68年の検討史と国家決断の条件とは
日本の原子力潜水艦構想は、1958年の民間試設計から68年を経て安全保障3文書改定の論点に浮上した。小泉純也元防衛庁長官の「造る意思なし」と孫・進次郎防衛相の「選択肢を排除しない」を起点に、原子力基本法、NPT・IAEA保障措置、建造費、人材、AUKUSの教訓を検証し、導入判断に必要な条件を読み解く。
しまなみ海道の外国人客が3割超 映画ロケ地人気を支える観光設計
映画『汝、星のごとく』の舞台として脚光を浴びる、尾道と今治を結ぶしまなみ海道。2024年度はレンタサイクル13万5735台の32.2%を外国人が占めた。70キロのブルーライン、乗り捨て、電動化、無料の橋梁通行、島文化が生む体験価値を整理し、急増客を滞在消費へ変える地域課題と旅行者が守るべきマナーを読み解く。
恋愛が怖い若者へ、傷つく不安を越えて関係を育てる心の実践処方箋
恋人がいる未婚者は男性19.6%、女性27.8%――最新の出生動向基本調査が示す若者の恋愛離れを、拒絶への敏感さ、男子校・女子校の交流経験、SNS時代の評価不安から分析。林真理子さんの「欲望」を手がかりに、本人が無理なく踏み出す方法と、親が干渉せず自律を支える具体策、安全な関係の境界線まで解説する。