米オラクルがAI需要で15年ぶり快挙を達成した背景
はじめに
米オラクル(ORCL)が2026年3月10日に発表した2026年度第3四半期(2025年12月〜2026年2月)決算が、市場に大きなインパクトを与えています。売上高と非GAAP EPSがともに前年比20%以上成長するのは、実に15年ぶりのことです。
この「ダブル20%成長」を牽引したのは、急拡大するAI基盤事業です。クラウドインフラ売上は84%増、AI基盤に限れば243%増と、桁違いの成長率を記録しました。かつてデータベースの巨人として知られたオラクルが、なぜここまでのAI需要を取り込めているのでしょうか。
本記事では、決算の具体的な数字とともに、オラクルのAI戦略の全体像と今後の見通しを解説します。
全指標で市場予想を上回った第3四半期決算
売上高・利益ともに20%超の成長
2026年度第3四半期の売上高は172億ドルとなり、市場予想の169億2,000万ドルを上回りました。前年比では米ドルベースで22%増、恒常為替レートベースで18%増です。非GAAP EPSは1.79ドルで、予想の1.70ドルを上回り、前年比21%増を記録しています。
売上高とEPSの両方がオーガニックベースで20%以上伸びたのは、2011年以来約15年ぶりです。データベース事業中心の安定成長企業というイメージを大きく覆す結果となりました。
クラウド事業が全体を牽引
特に目覚ましいのがクラウド事業の成長です。クラウド全体の売上高は89億ドルに達し、前年比44%増(恒常為替レートベースで41%増)となりました。内訳を見ると、クラウドインフラストラクチャ(IaaS)が49億ドルで84%増、アプリケーション事業が13%増です。
クラウドインフラの中でも、AI関連に限った売上高は前年比243%増と爆発的な伸びを示しています。さらに、マルチクラウドデータベースの売上高は531%増という驚異的な成長率を記録しました。
AI基盤事業が爆発的に拡大している理由
OpenAIとの大型契約「Stargate」
オラクルのAI基盤事業を支える最大の柱が、OpenAIとの戦略的パートナーシップです。両社は「Stargate」と呼ばれるAIインフラプロジェクトで提携しており、オラクルは4.5ギガワット分のデータセンター容量を提供します。
この契約の規模は5年間で約3,000億ドルに達するとされ、テキサス州アビリーンのStargate Iサイトと合わせると、5ギガワット超のAIデータセンター容量が開発中です。テキサス州の2つのキャンパスに加え、ニューメキシコ州、ウィスコンシン州、ミシガン州でもプロジェクトが進行しています。
受注残高が示す圧倒的な需要
将来の売上を示す受注残高(RPO)は5,530億ドルに達し、前年から325%増加しました。前四半期比でも290億ドル増えています。この増加の大部分は大規模AI契約に関連するもので、顧客がGPUを前払いで購入するか、顧客自身がGPUを調達してオラクルに供給する仕組みのため、オラクル側の追加資金調達は限定的です。
MetaやNVIDIA、OpenAIなどのハイパースケール企業との契約が積み上がっていることが、この異例のRPO水準を生み出しています。
GPU・データセンターへの大規模投資
オラクルは2026年度の設備投資を約500億ドルに引き上げました。これは従来の計画から150億ドルの上方修正で、2025年度実績の212億ドルの2倍以上です。第3四半期だけで約400メガワットのデータセンター容量を引き渡し、GPU容量は第1四半期比で50%増加しました。
テキサス州アビリーンでは、50万基以上のNVIDIA Blackwell GPUを収容できる1.2ギガワット規模のデータセンターを建設中です。また、AMDとも提携し、2026年第3四半期からOCI上に5万基のAMD Instinct MI450シリーズGPUを展開する計画を発表しています。
グローバル展開と競争優位性
世界各地でのデータセンター拡張
オラクルはAIインフラのグローバル展開も積極的に進めています。日本には80億ドル以上、マレーシアには65億ドル以上の投資を計画しているほか、ドイツとオランダにも合計30億ドル規模の施設を展開する方針です。
こうした地域分散型のインフラ戦略は、データ主権の規制強化やレイテンシーの観点から、AWS、Azure、Google Cloudとの差別化要因になっています。
マルチクラウド戦略の優位性
オラクルの強みの一つが、マルチクラウド対応です。Microsoft AzureやGoogle Cloud上でOracleデータベースを稼働させる「マルチクラウドデータベース」は531%増と急成長しており、既存のクラウドベンダーと競合するのではなく、補完関係を構築する戦略が奏功しています。
企業が複数のクラウドを使い分ける流れが加速する中、オラクルのデータベース技術とOCIのAI基盤を組み合わせたハイブリッドなアプローチが、顧客獲得の追い風になっています。
注意点・展望
負債増加のリスク
急速な設備投資の裏側には、負債の増加という課題もあります。2026年中に450億〜500億ドルの資金調達を計画しており、負債と株式の組み合わせで資金を確保する方針です。AI需要が想定通りに持続しなかった場合、財務面での重荷になるリスクがあります。
一部のアナリストからは「将来の需要を見込んだ巨額投資が裏目に出る可能性」を指摘する声も出ています。特に、AIインフラ市場の競争激化や、技術の世代交代による陳腐化リスクには注意が必要です。
2027年度の見通し
オラクルは2027年度(2027年5月期)の売上高ガイダンスを約900億ドルに引き上げました。2030年にはOCI事業だけで1,440億ドルの売上を見込んでいます。AI需要の持続性がこれらの目標達成の鍵を握ります。
まとめ
オラクルの2026年度第3四半期決算は、AI基盤事業の爆発的な成長により、15年ぶりの「ダブル20%成長」を達成しました。売上高172億ドル、非GAAP EPS 1.79ドルはいずれも市場予想を上回り、AI関連売上は243%増、RPOは5,530億ドルと過去最高を更新しています。
OpenAIとのStargateプロジェクトや大規模な設備投資が成長の原動力ですが、負債増加や競争激化といったリスクも見逃せません。クラウド・AI市場の動向を注視しながら、オラクルの変革がどこまで持続するか、投資家にとって重要な局面が続きます。
参考資料:
- Oracle Announces Fiscal Year 2026 Third Quarter Financial Results
- Oracle Q3 2026 Earnings: AI Drives 84% Cloud Infrastructure Growth
- Oracle stock jumps 10% on earnings beat - CNBC
- Stargate advances with 4.5 GW partnership with Oracle - OpenAI
- Oracle Q3 FY 2026 Earnings: OCI AI Infrastructure Demand - Futurum
関連記事
パワーエックス黒字化へAIデータセンター蓄電池成長戦略を分析
パワーエックスは2026年12月期に売上高380億円、EBITDA25億〜30億円を見込む。受注残高889億円を支える系統用蓄電池の実需、2027年投入予定のAIデータセンター向けEnergy Bladeの勝機、国内組み立ての強み、市場拡大の条件と供給網・補助金依存のリスクを現場視点で深く読み解く。
キオクシア時価総額トヨタ超えを過熱論で片付けにくい三つの理由
キオクシア株は6月3日に時価総額45兆円台へ迫り、一時トヨタを上回りました。NAND市況の急改善、AI推論向けSSDの需要、2027年3月期利益期待が株価を押し上げる一方、メモリー市況の循環性と高いPBRも残ります。業績、需給、資本配分の三面から、過熱論だけでは測れない投資判断の本質的な論点を読み解く。
佐々木裕氏起用で読むNTT非通信シフトと次期トップ争いの行方
NTTが2026年6月予定の人事でNTTデータグループ社長の佐々木裕氏を本体副社長・CFOに迎えます。売上高5兆円を超えたITサービス、AIとデータセンター投資、通信収益の成熟が重なる中、非通信シフトの狙いと統合リスク、次期トップ候補としての意味、投資家へ示すシグナルと経営判断の焦点まで読み解きます。
アクセンチュアのAI受注が過去最高を更新した背景
アクセンチュアのAI受注が過去最高を更新した背景には、生成AI需要の広がりと大型案件の積み上がりがある。2026年度第2四半期決算を軸に、受注拡大の中身、株価下落の不安材料、AIがコンサル業界に迫る構造変化を分析し、成長期待と逆風が同居する理由を読み解く。米政府案件依存のリスクまで先々を冷静に見通す。
パナソニックがAI電池事業に賭ける成長戦略の全貌
パナソニック エナジーのAI電池戦略を整理。EV向け車載電池の減速を受け、生成AI拡大で需要が膨らむデータセンター向け蓄電システムへ軸足を移す狙いは何か。車載偏重からの転換が収益構造をどう変えるのか、只信一生社長の発言を踏まえ、2028年度を見据えた事業転換の成否と収益性、成長戦略の全貌を分析する。
最新ニュース
パワーエックス黒字化へAIデータセンター蓄電池成長戦略を分析
パワーエックスは2026年12月期に売上高380億円、EBITDA25億〜30億円を見込む。受注残高889億円を支える系統用蓄電池の実需、2027年投入予定のAIデータセンター向けEnergy Bladeの勝機、国内組み立ての強み、市場拡大の条件と供給網・補助金依存のリスクを現場視点で深く読み解く。
宗谷本線100年、最北鉄路と鈍行旅が残した道北地域交通の記憶
宗谷本線は旭川-稚内259.4kmを結ぶ日本最北の鉄路です。1926年の天塩線全通から100年を迎える今、SL時代の鈍行旅、稚泊航路との接点、2025年の駅廃止と脱線時の代行輸送、名寄高校駅の移設事情まで重ね、道北の暮らしを支える生活交通としての価値を観光と地域インフラの両面から多角的に深く読み解く。
住友商事株急騰、アンバトビー撤退後に残る低PERの理由と株価余地
住友商事はアンバトビーニッケル事業をAMRIへ譲渡し、2026年度も6300億円の利益、160円配当、700億円自社株買いを掲げます。株価急騰後も5大商社で最低のPERが続く理由と割安評価の妥当性を、資産入替、ROE、資源市況、丸紅との時価総額比較から、個人投資家が確認すべき評価修正の条件まで読み解く。
足立区東京大恩寺開山が問う在日ベトナム人支援とこれからの地域共生
足立区に開山した東京大恩寺は、在日ベトナム人の信仰だけでなく相談、母語、仕事情報をつなぐ拠点として注目されます。全国63万人超、都内5万人超の広がりと先行寺院の事例から、地域社会が備えるべき共生条件を読み解く。外国人材政策の弱点である孤立、誤情報、近隣負荷を、寺院と行政・企業がどう補うかを検証します。
若林正恭『青天』直木賞候補が映す敗者の尊厳と再挑戦の学び直し
第175回直木賞候補となった若林正恭の初小説『青天』は、アメフト部で届かなかった夢を抱えた高校生の再出発を描く。発売前重版を経て28万部突破、書店員100人超の反応、過去のエッセイやM-1経験を手がかりに、なぜ勝者の成功譚ではなく、夢の後始末が読者の現在地に響くのかをキャリア形成の視点から読み解く。