楽天とNTTが描く通信の未来、戦略の違いを徹底解説
MWC 2026で鮮明な楽天とNTTの通信戦略
2026年3月、スペイン・バルセロナで開催された世界最大級のモバイル通信展示会「MWC Barcelona 2026」で、日本を代表する通信2社がまったく異なるビジョンを世界に発信しました。楽天グループはOpen RANを軸としたエコシステム戦略を、NTTグループは光電融合技術「IOWN」による次世代インフラ構想を打ち出しています。
両社のアプローチは、通信業界が直面する課題への解決策として対照的です。楽天がソフトウェアとオープン化で通信の「民主化」を目指す一方、NTTは光の物理特性を活かしてAI時代の電力問題を根本から解決しようとしています。本記事では、両社の戦略の詳細と、それぞれが通信業界に与える影響を解説します。
楽天が推進するOpen RANエコシステム
世界最大規模の商用展開で得た実績
楽天モバイルは、世界で初めて完全仮想化によるモバイルネットワークを商用展開した通信事業者です。国内で約30万台の無線機をOpen RAN方式で運用しており、この規模は世界最大級です。
従来の携帯電話ネットワークは、エリクソンやノキアなど特定のベンダーの機器で統一する必要がありました。Open RANは、異なるメーカーの機器を組み合わせて使える「オープンな無線アクセスネットワーク」の仕組みです。これにより、通信事業者はコストを削減しながら、最適な機器を自由に選択できます。
楽天はこの技術を自社で実証し、その運用ノウハウを海外に展開するビジネスモデルを構築しました。この役割を担うのが、子会社の「楽天シンフォニー」です。
海外展開の加速と大型契約
楽天シンフォニーの海外展開は急速に広がっています。特に注目されるのが、米国最大手の通信事業者AT&Tとの複数年にわたる大型協業です。AT&Tは2026年末までに無線ネットワークトラフィックの70%をオープンで相互運用可能なプラットフォームに移行する計画を掲げており、楽天シンフォニーのサイト管理ソリューションがその中核を担っています。
この協業では、AT&Tの従業員やネットワーク構築の請負業者1万人以上が楽天のプラットフォームを利用しています。レガシーシステムの統合・廃止を進め、Open RAN展開の効率化と自動化を推進しています。
AT&T以外にも、楽天シンフォニーはグローバルに展開を拡大しています。2025年から2026年にかけて、バングラデシュのグラミンフォン、ベトナムのモビフォン、クウェートのザイン・クウェート、カザフスタンのBeeline Kazakhstanなど、アジア・中東・中央アジアの通信事業者と相次いで覚書を締結しました。ラテンアメリカ市場にも進出し、メキシコやコロンビアなど複数国での展開を目指しています。
AIとRICによるネットワーク知能化
MWC 2026で楽天が掲げたテーマは「AIによるIntelligent Growth」です。単にオープンなネットワークを構築するだけでなく、AIを活用してネットワークを自律的に運用する「知能化」がその核心にあります。
2025年5月、楽天モバイルは国内で初めて大規模商用ネットワークへのRIC(RAN Intelligent Controller)の全国展開を完了しました。RICとは、AIを使って無線ネットワークをリアルタイムに最適化する制御装置です。さらに、サードパーティのrApp(RIC上で動作するアプリケーション)の統合を進め、O-RAN ALLIANCEの標準に準拠したマルチベンダーのエコシステムを構築しています。
サムスンとの提携も進んでおり、サムスンの仮想化RAN(vRAN)とコア機能を楽天クラウドに統合する取り組みが発表されました。これは、かつてライバルだったベンダーさえもエコシステムに取り込む楽天の戦略の象徴です。
NTTが切り拓く光の通信基盤IOWN
光電融合技術で電力消費を100分の1に
NTTがMWC 2026で前面に打ち出したのは、IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想の中核技術である「光電融合」です。NTTの島田明社長CEOは基調講演で「Photonics Unlocks an Intelligent, Power-Optimized Future(光技術が知的で電力最適化された未来を拓く)」と題し、AI時代の電力問題を光技術で解決するビジョンを語りました。
現代のデータセンターやAIインフラでは、CPUやGPU間のデータ通信に電気配線が使われています。しかし電気信号は距離が長くなるほど電力を消費し、データ量の増加に伴って発熱も増大します。光電融合技術は、この電気配線を光配線に置き換えることで、電気配線の距離を約10分の1(30mm程度)にまで短縮し、消費電力を劇的に削減します。
NTTのロードマップでは、2026年度中にPEC-2(Photonics-Electronics Convergence第2世代)の光電融合スイッチをコンピューティングシステムに導入し、商用提供を開始する予定です。このスイッチは総通信容量102.4テラビット毎秒という市場トップレベルの性能を実現します。
2032年に向けた壮大なロードマップ
NTTのIOWN構想は段階的に進化するロードマップを持っています。現在はデータセンター間の接続にIOWNの全光ネットワーク(APN)を活用している段階です。2026年にはコンピューティングシステム内部への光電融合スイッチ導入が始まります。
2028年には「光チップレット」の商用サンプル提供が予定されています。光チップレットとは、CPUやGPUなどの半導体チップに直接光通信機能を組み込む技術です。そして最終目標となる2032年のIOWN 4.0では、半導体パッケージ内部のダイ間通信(チップ内の微細な回路間のデータのやりとり)まで光化し、電力効率を従来比100分の1にすることを目指しています。
この技術はブロードコムなどの大手半導体メーカーとの協力のもとで開発が進められており、NTT単独ではなくグローバルなエコシステムでの実現を目指しています。
光量子コンピュータへの展開
NTTの光技術への取り組みは通信インフラにとどまりません。島田社長はMWCの基調講演で、光量子コンピュータの実用化にも言及しました。東京大学の古澤明研究室発のスタートアップ企業OptQCと連携し、光の量子的性質を活用した次世代コンピュータの開発を加速しています。
従来の量子コンピュータは極低温環境が必要ですが、光量子コンピュータは室温で動作する可能性があり、実用化のハードルが低いとされています。NTTが培ってきた光技術の蓄積が、この分野でも大きなアドバンテージになると期待されています。
Open RANとIOWNの補完関係と商用化課題
両社の戦略は補完的か、競合的か
楽天のOpen RAN戦略とNTTのIOWN構想は、一見すると異なる領域の取り組みに見えます。しかし通信インフラの将来像という観点では、両者は異なるレイヤーで同じ課題に取り組んでいます。楽天はネットワークの「ソフトウェア層」を変革し、NTTは「物理層」を変革しようとしているのです。
Open RAN市場は2026年に従来型RANの市場規模を逆転するとの予測もあり、楽天の先行者利益は大きいです。一方、NTTのIOWN技術はAIの爆発的な成長に伴う電力問題という、業界全体が直面する根本的な課題に対する解答を提示しています。
今後の課題
楽天シンフォニーにとっての課題は、覚書の締結から実際の商用展開への転換です。多くの海外案件はまだ覚書段階にあり、大規模な商用展開の実績を積み重ねることが信頼獲得の鍵となります。
NTTにとっての課題は、技術的な優位性をビジネス上の成果に結びつけることです。光電融合技術は革新的ですが、2032年の最終目標に向けた長期的な投資が必要であり、その間に代替技術が登場するリスクもあります。
Open RANとIOWNが支えるAI時代の通信基盤
楽天はOpen RANというソフトウェア主導のエコシステムで通信の「オープン化」を推進し、NTTは光電融合技術IOWNで物理インフラの「根本的な変革」に挑んでいます。どちらも日本発の技術・構想であり、グローバルな通信業界の未来を左右する可能性を持っています。
通信業界の将来は、この2つのアプローチが共存し補完し合う形で発展していくことが考えられます。Open RANによる柔軟なネットワーク構築と、IOWNによる超低消費電力の光インフラが組み合わさることで、AI時代に求められる大容量・低遅延・省電力の通信環境が実現するかもしれません。今後の両社の動向から目が離せません。
参考資料:
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