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高市積極財政の行方 成長と破綻の間で進む現実路線

by 松本 浩司
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122.3兆円予算と長期金利上昇の争点

高市早苗政権が掲げる「責任ある積極財政」をめぐり、経済界や市場関係者の間で議論が続いています。2026年度予算案は過去最大の122.3兆円に達し、戦略的な財政出動による経済成長を目指す一方、長期金利は27年ぶりの高水準を記録しました。

「成長か破綻か」という二項対立で語られがちなこの問題ですが、実際にはもう少し複雑な構図が浮かび上がっています。本記事では、高市財政の現状と市場の反応、そして今後の見通しについて、最新の情報をもとに解説します。

「責任ある積極財政」の全体像

過去最大の予算案と財政規律のバランス

高市政権が編成した2026年度予算案の一般会計総額は122.3兆円と過去最大を更新しました。歳入面では税収を83.7兆円と見込み、新規国債発行額は29.6兆円に設定されています。

注目すべきは、国債発行額が2年連続で30兆円を下回った点です。公債依存度も24.2%と、前年度の24.9%からさらに低下しました。高市首相は「財政規律にも配慮し、強い経済の実現と財政の持続可能性を両立させる予算案ができた」と強調しています。

しかし、国債費は31.3兆円と6年連続で過去最大を更新しました。利払い費の算出に用いる想定金利は、従来の2.0%から3.0%に引き上げられており、金利上昇への備えが予算面にも表れています。

経済対策の三本柱

高市政権の経済対策は、3つの柱で構成されています。第一に「生活の安全保障・物価高への対応」として、電気・ガス料金の支援や子ども1人当たり2万円の給付金など家計支援策を盛り込みました。第二に「危機管理投資・成長投資による強い経済の実現」、第三に「防衛力と外交力の強化」です。

高市首相は2年間で国民が経済成長を実感できる環境を目指すとしており、従来の給付型支援から投資型の経済対策への転換を進めています。

市場が示す警戒シグナル

長期金利の急上昇

高市政権の積極財政路線に対し、債券市場は明確な警戒シグナルを発しています。10年物国債利回りは2026年1月20日に一時2.37%まで上昇し、1997年6月以来、約27年ぶりの高水準を記録しました。30年物国債利回りも3.87%と、1999年の発行開始以来の最高水準に達しています。

大和総研の神田慶司氏は、高市政権発足後に日本の長期金利の上昇に弾みがついたと分析しています。日銀による金融政策の正常化に加え、財政拡張に対する市場の警戒感が金利上昇を加速させているのです。

「トラスショック」の教訓

JBpressの分析では、英国で2022年に発生した「トラスショック」との類似性が指摘されています。当時のリズ・トラス政権が市場との対話を軽視した大規模減税を打ち出した結果、ポンドが急落し国債利回りが急騰、わずか45日で政権が崩壊しました。

日本が同じ道を辿るかどうかは意見が分かれますが、市場との対話を欠いた財政拡張がいかに危険かを示す事例として、多くの専門家が注視しています。

円安と物価上昇の連鎖リスク

第一生命経済研究所の熊野英生氏は、行き過ぎた財政拡張が円安と債券安を同時に招くリスクを指摘しています。日本の供給能力を超えた財政出動は輸入超過を生み、ドル買い・円売りの圧力となります。円安が進めば輸入物価が上昇し、家計の実質購買力を低下させるという悪循環に陥る可能性があります。

高市首相は円安について「投機的な動きを注視する」と述べる一方、金利上昇への直接的な言及は避けています。

「成長か破綻か」の二項対立を超えて

財政の現実的な制約

現時点では、日本の財政が直ちに破綻するシナリオは考えにくいとの見方が大勢です。新規国債発行額は30兆円を下回っており、公債依存度も低下傾向にあります。ただし、国債費が31兆円を超え、金利上昇が続けば「借金を支払うための借金が増える」という構造が強化される懸念があります。

ニッセイ基礎研究所は、高市政権の真価が問われるのは補正予算による経済対策よりも当初予算の中身だと指摘しています。一時的な景気刺激策ではなく、持続可能な経済成長の基盤を構築できるかが鍵となります。

市場が本当に見ているもの

Business Insider Japanの報道によれば、世界の投資家が懸念しているのは、単純な財政赤字の拡大ではありません。日本の財政拡張が「円安を前提とした投資の流れ」を変える可能性に警戒感を示しているのです。

長期金利の上昇は住宅ローン金利や企業の借入コストにも波及するため、高市政権が目指す消費・設備投資の拡大と相反する効果をもたらしかねません。積極財政による成長と、金利上昇による抑制効果のどちらが上回るかが、今後の焦点です。

日銀利上げと実質賃金回復の分水嶺

高市財政の行方を占ううえで、いくつかの注意点があります。まず、長期金利の上昇がどこまで続くかは日銀の金融政策にも大きく左右されます。日銀が利上げペースを加速すれば、財政コストはさらに膨らみます。

また、2026年度中に実質賃金の上昇が実現し、消費が回復するかどうかが政策の成否を分ける分水嶺です。賃上げの流れは一部の大企業では定着しつつありますが、中小企業への波及には時間がかかります。

三菱UFJ銀行のレポートでは、国債発行がもたらす日本経済への長期的な影響を慎重に見極める必要があると指摘されています。短期的な景気刺激効果と長期的な財政リスクのバランスをどう取るかが、高市政権の最大の課題です。

責任ある積極財政と市場緊張の継続

高市政権の「責任ある積極財政」は、「成長か破綻か」という単純な二項対立では捉えきれない複雑な局面に入っています。過去最大の予算と国債発行の抑制を両立させる姿勢を見せる一方、長期金利は27年ぶりの高水準に達し、市場の警戒感は払拭されていません。

今後の注目ポイントは、金利上昇下での実質賃金の回復、円安の動向、そして成長投資の実効性です。「責任ある」と「積極」の両立が試される局面が続きます。政策の成果が数字として現れるまで、市場との緊張関係は当面続くことになるでしょう。

参考資料:

松
松本 浩司

マクロ経済・国際経済

国際経済の潮流を、通商政策・為替・新興国の動向から多角的に分析。グローバル経済の「次の震源地」を見極める。

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