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11年ぶり暫定予算が映す高市政権の構造的課題

by 松本 浩司
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11年ぶり暫定予算と高市政権の参院ねじれ

2026年3月24日、政府・与党は2026年度予算案の年度内成立が困難な情勢を受け、11年ぶりとなる暫定予算の編成作業に着手しました。片山さつき財務相は4月1日から11日までの11日間分の歳出を賄う暫定予算を編成する方針を表明しています。

2025年秋の衆議院選挙で記録的な圧勝を収め、高い支持率で政権運営をスタートさせた高市早苗首相。しかし、参議院で過半数を持たない「ねじれ」の壁は予想以上に厚く、予算審議は難航を極めています。本記事では、暫定予算編成の背景と高市政権が抱える構造的な課題について、多角的に解説します。

暫定予算の中身と過去の事例

11日間・10兆円規模の「つなぎ」措置

今回の暫定予算は、4月1日から11日までの11日間分として編成されます。地方交付税交付金や社会保障費など行政運営に不可欠な最小限の経費に加え、4月から実施予定の高校授業料無償化や給食費支援に関する経費の一部も計上される見通しです。規模は10兆円程度になるとの観測が出ています。

11年前の暫定予算との比較

暫定予算の編成は2015年度以来11年ぶりです。過去の暫定予算は主に衆院解散・総選挙の影響で予算編成が遅れたケースで発動されてきました。2013年には5月20日まで、2015年には4月11日までの暫定予算が組まれました。いずれも安倍晋三政権時代で、前年末の衆院解散に伴う予算編成の遅延が原因でした。

今回が異質なのは、解散総選挙による遅延ではなく、参議院での審議が進まないことが原因である点です。戦後の暫定予算は33回にのぼりますが、参院での与党少数が直接の原因となるケースは極めて珍しいものです。

年度内成立を阻んだ「参院の壁」

衆院通過から参院審議の停滞へ

2026年度予算案は、一般会計総額122兆3,092億円と過去最大の規模で閣議決定されました。高市政権が掲げる「責任ある積極財政」を反映し、社会保障費・防衛費・国債費がいずれも過去最大を更新しています。

衆議院では自民党と連立を組む日本維新の会との過半数を背景に予算案を通過させましたが、問題は参議院です。参議院では与党が過半数を確保できておらず、野党の協力なしには予算を可決できない構造が続いています。

野党の反発と審議時間の攻防

衆院段階で与党が採決を強行した経緯に対し、野党側は強く反発しました。「十分な審議時間の確保が参院での採決の条件」として譲らず、月末まで審議を続けても審議時間は50時間前後にとどまる見通しです。野党は拙速な審議への批判を強めており、参院での可決の見込みが立たない状況に追い込まれました。

高市首相の固執と党内からの冷ややかな視線

「年度内成立を諦めない」発言の波紋

高市首相は当初から予算の年度内成立にこだわる姿勢を見せていました。2月の段階で「年度内成立を諦めない」と明言し、衆院選での大勝を背景に強気の国会運営を続けてきました。しかし、参院の壁が想定以上に高いことが明らかになるにつれ、自民党内からは冷ややかな声が漏れ始めます。

自民党幹部からは「困難だ」「むちゃだ」という声が相次ぎ、「メンツにこだわれば、今後の政権運営の火種にもなりかねない」との懸念も示されました。最終的に3月23日の党役員会で、高市首相自身が「不測の事態に備え、暫定予算を編成する方向で検討したい」と表明し、事実上の方針転換に至りました。

「孤独な首相」という政権の急所

衆院選での圧勝は、必ずしも党内の求心力に直結していません。一部メディアでは、自民党内から「孤独な首相」という表現が漏れていると報じられています。高い支持率を維持しながらも、党内で面従腹背の空気が広がっているとの指摘があり、保守層からの「高市離れ」を懸念する声も出始めています。

積極財政路線と外交の逆風

122兆円予算の光と影

2026年度予算案は高市政権の「積極財政」路線を色濃く反映しています。各省庁からの概算要求122兆4,454億円からほぼ削減されずに閣議決定されたことは、例年の数兆円規模の削減とは異なる極めて異例の対応でした。

高校授業料の無償化に約7,800億円、給食費支援に1,649億円、防衛費や長射程ミサイル整備に9,733億円など、教育・社会保障・防衛の各分野で大規模な支出が盛り込まれました。一方で、国債費は初めて30兆円を突破し、想定金利を2.0%から3.0%に引き上げたことで財政負担の増大が懸念されています。

日米首脳会談と「トランプ追従」批判

3月19日に行われた日米首脳会談では、高市首相のトランプ大統領への対応が議論を呼びました。「世界に平和と繁栄をもたらすのは、ドナルド、あなただけだ」との発言が「過度な追従」として批判を受け、ファーストネームで呼ぶ親密さの演出に対しても疑問の声が上がっています。

イラン情勢を巡るホルムズ海峡への対応など、米国の要求と日本の国益の間で難しいかじ取りが続いており、外交面でも高市政権への逆風が強まっている状況です。

4月11日までの本予算成立と野党交渉

暫定予算後の本予算成立への道筋

暫定予算はあくまで「つなぎ」の措置であり、本予算の成立が最終的な目標です。4月11日までの暫定予算期間中に参院での審議が進み、本予算が可決される必要があります。野党との交渉の行方が鍵を握りますが、国民民主党との「年収の壁」178万円引き上げでの合意のように、個別政策での協力取り付けが重要になるでしょう。

今後の政権運営への影響

暫定予算の編成自体は珍しいことではありませんが、衆院選で圧勝した政権がわずか数か月で予算審議に行き詰まったという事実は、高市政権の政権運営能力に対する評価に影響を与える可能性があります。参院選を見据えた野党との関係構築、党内の結束強化、そして外交課題への対応と、高市首相は複数の正面で難しいかじ取りを迫られています。

衆院圧勝後に問われる高市政権の真価

11年ぶりの暫定予算編成は、衆院選での圧勝にもかかわらず、高市政権が参議院という構造的な壁を越えられなかった現実を示しています。122兆円規模の積極財政路線は政策的な意欲を示すものですが、その実現には野党の協力が不可欠です。

今後は暫定予算期間中の本予算成立に向けた与野党交渉の行方、そして日米関係や党内情勢の変化が注目されます。高市首相にとって、衆院選の勝利を政策実現につなげられるかどうかが、政権の真価を問われる局面に入ったといえるでしょう。

参考資料:

松
松本 浩司

マクロ経済・国際経済

国際経済の潮流を、通商政策・為替・新興国の動向から多角的に分析。グローバル経済の「次の震源地」を見極める。

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