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J.フロントが名古屋・栄に仕掛ける百貨店×パルコの新戦略

by 佐藤 理恵
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HAERA開業で狙う栄商業圏の反転攻勢

2026年6月11日、名古屋の繁華街・栄に新たなランドマークが誕生します。J.フロント リテイリングが手がけるラグジュアリーモール「HAERA(ハエラ)」です。大丸松坂屋百貨店とパルコという、同グループが持つ2つの商業ブランドの強みを掛け合わせた新業態として注目を集めています。

名古屋では長年、名古屋駅エリアと栄エリアの間で商業競争が続いてきました。名駅エリアの高層ビル開発が先行する中、栄エリアは「出遅れ」とも指摘されてきた経緯があります。J.フロントはこの状況を逆転させるべく、グループの総力を結集した大規模な栄エリア活性化戦略を展開しています。本記事では、HAERAの全容と、その背景にあるJ.フロントの野心的な戦略を解説します。

ラグジュアリーモール「HAERA」の全容

施設名に込められた意味と開業概要

HAERAという名称は、「栄える(Haeru)」と「時代(Era)」を掛け合わせた造語です。“次の栄えをつくる”という思いが込められています。施設は超高層複合ビル「ザ・ランドマーク名古屋栄」の地下2階から地上4階に展開され、延べ床面積は約1万8,000平方メートルに及びます。

ザ・ランドマーク名古屋栄は、三菱地所、パルコ、日本郵政不動産、明治安田生命保険、中日新聞社が共同で進めた「錦三丁目25番街区計画」の成果です。地上41階・地下4階、高さ約211メートルの超高層ビルで、商業施設のほかにオフィス、名古屋初進出の「コンラッド・ホテルズ&リゾーツ」、栄エリア初の「TOHOシネマズ」が入居します。地下鉄東山線・名城線の栄駅と直結しており、天候に左右されないアクセスの良さも大きな魅力です。

約65店舗が集結、東海初出店が40店舗

HAERAには約65店舗が出店し、そのうち40店舗が東海エリア初出店、16店舗が新業態での展開となります。特に注目すべきは、ルイ・ヴィトン、カルティエ、シャネル、エルメスという世界4大ラグジュアリーブランドがいずれも旗艦店と位置づける店舗を構える点です。これは東海エリアの商業施設としては異例の規模といえます。

施設コンセプトは「PUBLIC MUSEUM(パブリック・ミュージアム)」です。各フロアをひとつのスタイルを体現するギャラリーと捉え、ラグジュアリー、ファッション、カルチャー、フードなどをキュレーションしています。館内各所にアートが溶け込み、買い物だけでなく、美術館を巡るような体験価値を提供する設計です。

百貨店×パルコの融合戦略

松坂屋名古屋店南館の大規模リニューアル

J.フロントの野心はHAERAだけにとどまりません。2027年春には、松坂屋名古屋店南館の地下2階および1階から6階を、パルコが運営する新しい商業施設へと大規模リニューアルする計画が進行しています。2026年2月以降に順次工事が始まっており、百貨店の建物をパルコが運営するという、グループ内でも前例のない取り組みです。

松坂屋名古屋店南館は、松坂屋名古屋店本館と名古屋PARCOの間に位置しています。この地理的特性を活かし、南館を両施設をつなぐ「ブリッジ」として機能させる構想です。大丸松坂屋百貨店が培ってきたラグジュアリーな世界観や上質な顧客基盤と、パルコが強みとするファッション・エンタメ・カルチャーの先進性を掛け合わせることで、従来の百貨店ともショッピングセンターとも異なる新しい商業体験を生み出す狙いがあります。

グループ一体の栄エリア戦略

J.フロント リテイリングは栄エリアにおいて、松坂屋名古屋店、名古屋PARCO、BINO栄、名古屋ZERO GATEなど複数の商業施設を展開しています。ここにHAERAと松坂屋南館リニューアルが加わることで、栄エリア全体をJ.フロントの商業圏として面的に展開する戦略が鮮明になります。

個々の施設が独立して競争するのではなく、グループ全体で「栄を訪れる理由」を創出するという発想です。ラグジュアリーはHAERAと松坂屋本館、若者向けファッション・カルチャーは名古屋PARCO、その間を南館がつなぐという役割分担が見えてきます。

名古屋・栄エリア復権の行方

名駅との商業競争と栄の巻き返し

名古屋の商業地図は長らく「名駅 vs 栄」の構図で語られてきました。2000年代以降、JRセントラルタワーズやミッドランドスクエアなど名古屋駅周辺の大規模開発が相次ぎ、商業の重心が名駅側へ移動する傾向が見られました。

しかし近年、栄エリアでは再開発が加速しています。2024年には中日ビルが複合施設としてグランドオープンし、2026年にはザ・ランドマーク名古屋栄が完成します。地価の動きにもこの変化は表れており、栄周辺の商業地では10%を超える地価上昇率を記録するエリアも出ています。

一方、名古屋駅エリアでは一部の再開発計画でスケジュール見直しが報じられており、栄エリアが先行して新施設を開業できる状況が生まれています。J.フロントにとって、このタイミングは栄の存在感を一気に高める絶好の機会です。

東海エリアのラグジュアリー市場

4大ブランドの旗艦店を擁するHAERAの開業は、東海エリアのラグジュアリー消費のあり方を変える可能性があります。これまで名古屋でハイブランドの買い物をする場合、名駅エリアの百貨店か、東京・大阪まで足を延ばすケースも少なくありませんでした。HAERAの登場により、栄が東海エリアにおけるラグジュアリーショッピングの拠点として確立されることが期待されます。

インバウンド需要の取り込みも見逃せません。コンラッド名古屋が同じビルに入居することで、海外富裕層が宿泊先から直接ラグジュアリーモールにアクセスできる導線が完成します。

HAERAと南館改装の時差が生む課題

J.フロントの栄エリア戦略は壮大ですが、課題もあります。まず、HAERAと松坂屋南館リニューアルの時期が約1年ずれるため、完全なシナジー効果が発揮されるのは2027年以降になります。工事期間中の集客力維持が当面の課題です。

また、65店舗のうち40店舗が東海初出店という構成は、裏を返せばこのエリアの消費者にとって馴染みの薄いブランドも多いということです。認知度の向上とリピーター獲得には、施設全体としてのブランディングと体験価値の発信が欠かせません。

さらに、百貨店業界全体が構造的な転換期にある中、「百貨店×パルコ」という新しいモデルが収益面でどのような成果を出せるかも注目されます。J.フロントはこの名古屋での取り組みを成功モデルとして、他のエリアにも展開していく可能性があります。

百貨店×パルコで進む栄復権の勝負所

J.フロント リテイリングが名古屋・栄で進める「百貨店×パルコ」戦略は、単なる新施設の開業にとどまらない、エリア全体の商業価値を再定義する試みです。2026年6月のHAERA開業、2027年春の松坂屋南館リニューアルと段階的にプロジェクトが実現することで、栄エリアの商業地図は大きく塗り替えられることになります。

名駅との競争、インバウンド需要の取り込み、ラグジュアリー市場の開拓など、多くの課題と機会が交差する中で、J.フロントがグループの総力を挙げて挑む栄エリア復権の行方に注目が集まります。

参考資料:

佐藤 理恵

企業分析・M&A

会計士としての経験を活かし、企業の財務構造やM&A戦略を深掘り。数字の裏にある経営者の意思決定を読み解く。

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