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男性育休取得率40%超え時代へ 先進企業に共通する5つの戦略

by 佐藤 理恵
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はじめに

日本企業における男性の育児休業取得率が、かつてないペースで上昇しています。厚生労働省が公表した令和6年度雇用均等基本調査によると、男性の育児休業取得率は40.5%に達し、前年度の30.1%から10.4ポイントもの上昇を記録しました。わずか数年前まで一桁台にとどまっていた数字が、制度改正と企業努力の両輪で急激に変化しています。

この急上昇の背景には、有価証券報告書における人的資本情報の開示義務化や、育児介護休業法の改正による公表対象企業の拡大があります。上場企業を中心に「男性育休取得率」が投資家や求職者への重要なシグナルとなり、取得率100%を掲げる企業も続出しています。本記事では、取得率の高い企業に共通する戦略を、財務・制度の両面から分析します。

急上昇する男性育休取得率の実態

10年で0.5%から40%超への劇的変化

男性育休取得率の推移を振り返ると、その変化の急激さが際立ちます。厚生労働省の雇用均等基本調査によれば、2000年代前半の取得率はわずか0.12%から0.56%の水準でした。2010年代に入っても1%から3%台にとどまり、2019年度でようやく7.48%に到達した状態です。

転機となったのは2022年の育児・介護休業法改正です。産後パパ育休(出生時育児休業)制度の創設により、子の出生後8週間以内に最大4週間の休業を2回に分割して取得できるようになりました。この制度変更を受けて取得率は2022年度に17.13%へ急伸し、2023年度には30.1%、そして直近の2024年度調査では40.5%にまで上昇しています。

産後パパ育休の活用が牽引

令和6年度調査の注目すべきデータとして、育児休業を取得した男性のうち産後パパ育休を利用した割合が60.6%に達している点があります。有期契約労働者においてはさらに高く、82.6%が産後パパ育休を活用しています。従来の育児休業制度に加え、より柔軟に取得できる産後パパ育休の存在が、男性の育休取得のハードルを大きく下げたといえます。

有期契約労働者の男性育休取得率も33.2%と前年度の26.9%から6.3ポイント上昇しており、正社員だけでなく非正規雇用にも取得の波が広がりつつある状況です。

業種・規模による取得率の格差

男性育休取得率の上昇は全体的な傾向ですが、業種や企業規模による格差は依然として大きいのが実情です。令和5年度調査の時点で、男性育休取得率を公表している事業所の割合は、500人以上の規模で65.7%に達していたのに対し、5人から29人の小規模事業所では18.8%にとどまっていました。大企業ほど制度整備や社内風土の醸成が進んでおり、規模の差が取得率の差に直結している構造が浮かび上がります。

また、男性の育児休業者がいた事業所の割合も、令和6年度調査で41.0%と前年度の37.9%から3.1ポイント上昇しましたが、事業所規模が小さくなるほどこの割合は低下する傾向にあります。「対象者が少ないため統計上ゼロになりやすい」という小規模事業所特有の事情もありますが、取得を促す仕組みの整備が追いついていない面も否定できません。

開示義務化が企業行動を変えた構造

有価証券報告書への記載義務の影響

2023年1月、金融庁は「企業内容等の開示に関する内閣府令」を改正し、有価証券報告書にサステナビリティ情報の記載欄を新設しました。この改正により、女性活躍推進法等に基づき「女性管理職比率」「男性の育児休業取得率」「男女間賃金格差」を公表する企業は、有価証券報告書においてもこれらの指標を記載することが求められるようになりました。

金融庁は改正に際し、記述情報の開示の好事例集も公表しており、サステナビリティに関する企業の取組みの開示や、人的資本・多様性に関する開示の参考となる事例を掲載しています。将来情報の記述について、一般的に合理的な範囲内であれば虚偽記載の責任は問われないとする考え方も示されており、企業が積極的に目標値を開示しやすい環境が整備されました。

この変更は、男性育休取得率を単なる人事施策の指標から、投資家が企業価値を判断する材料へと格上げしました。ESG投資の拡大を背景に、機関投資家が人的資本情報を重視する傾向が強まる中、取得率の低さは企業の人材マネジメントリスクとして評価されかねない状況が生まれています。有価証券報告書のサステナビリティ記載欄では「ガバナンス」と「リスク管理」が必須記載事項とされ、「戦略」と「指標及び目標」は重要性に応じた記載が求められています。男性育休取得率は「指標及び目標」に該当し、企業の人的資本戦略を測る定量的な指標として機能しています。

公表義務の対象拡大で加速する競争

さらに、2024年5月に成立した改正育児・介護休業法では、男性育休取得率の公表義務の対象が従業員数1,000人超の企業から、300人超の企業へと拡大されました。この改正は2025年4月1日から段階的に施行されており、対象企業は年1回、男性の「育児休業等の取得率」または「育児休業等と育児目的休暇の取得率」をインターネット等で一般に公表しなければなりません。

公表義務の対象拡大により、中堅企業でも男性育休取得率の向上が経営課題として浮上しています。令和5年度調査の時点で、500人以上の事業所では65.7%が男性育休取得率を公表済みでしたが、100人から499人の事業所では37.3%にとどまっていました。公表義務化は、こうした「見える化」の格差を解消する効果が期待されています。

取得率トップ企業に共通する5つの戦略

経営トップのコミットメントと数値目標の設定

取得率の高い企業に共通する第一の特徴は、経営トップが男性育休の推進を明確に宣言し、具体的な数値目標を掲げている点です。有価証券報告書で「取得率100%」を目標として開示する企業が増加しており、目標設定自体がステークホルダーへのコミットメントとなっています。

くるみん認定制度も企業の取り組みを加速させています。厚生労働大臣が認定する「子育てサポート企業」の証であるくるみんマークは、2025年4月に認定基準が改正されました。より高い水準の取り組みが求められるプラチナくるみん認定を目指す企業にとって、男性育休取得率の向上は不可欠な要件です。

管理職への研修と「取らせない上司」の排除

取得率の高い企業では、管理職向けの研修が充実しています。部下から育休取得の相談を受けた際の対応マニュアルや、業務の引き継ぎプランの策定方法が体系化されており、管理職個人の裁量に委ねない仕組みが構築されています。

育児休業等に関するハラスメント(いわゆる「パタハラ」)の防止措置は法律で義務づけられており、令和5年度調査では82.7%の企業が対策に取り組んでいます。しかし先進企業では法令遵守にとどまらず、管理職の評価項目に部下の育休取得支援を組み込むなど、より踏み込んだ施策を導入しています。

業務の属人化排除と代替要員の確保

男性育休取得の最大の障壁のひとつが「自分が休むと業務が回らない」という懸念です。取得率の高い企業では、日常的に業務の標準化やマニュアル化を進め、特定の個人に業務が集中しない体制を構築しています。

代替要員の確保も重要な施策です。厚生労働省の両立支援等助成金制度は、中小企業が育児休業取得者の代替要員を確保した場合に助成金を支給する仕組みを設けており、こうした公的支援を活用する企業も増加しています。業務の「見える化」は育休対応だけでなく、災害時のBCP(事業継続計画)や退職時の引き継ぎにも効果を発揮するため、組織全体のレジリエンス向上にもつながります。

分割取得と短期間取得の柔軟な制度設計

産後パパ育休制度では、4週間の休業を2回に分割して取得することが認められています。また、労使協定を締結した場合は、労働者が合意した範囲で休業中に一定の就業を行うことも可能です。

先進企業では、こうした法制度の柔軟性を最大限に活用し、業務の繁忙期を避けた取得スケジュールの策定や、取得期間の分散によるチームへの影響軽減を実現しています。「まとめて長期間休む」ことだけが育休ではないという認識が広がり、短期間でも確実に取得する文化が形成されています。

取得経験者のロールモデル化と社内発信

取得率が高い企業では、育休を取得した男性社員の体験談を社内イントラネットや社内報で積極的に発信しています。特に管理職や幹部候補生が率先して取得することで、「キャリアに影響しない」というメッセージを組織全体に浸透させている点が特徴的です。

厚生労働省が推進してきた「イクメンプロジェクト」は「共育(トモイク)プロジェクト」へとリニューアルされ、男女の共働き・共育てを応援する方向へ進化しています。企業表彰制度である「イクメン企業アワード」の受賞企業事例が、業界内のベンチマークとして機能している側面もあります。

人的資本経営の視点から見る男性育休の投資対効果

採用競争力と離職率への影響

男性育休取得率の高さは、新卒採用や中途採用における企業の魅力度に直結しています。就職活動において「ワークライフバランス」を重視する学生が増加する中、育休取得率は企業選びの重要な判断材料となっています。採用ブランディングの観点からも、有価証券報告書やサステナビリティレポートで高い取得率を開示できることは大きなアドバンテージです。

また、男性育休の取得推進は従業員のエンゲージメント向上を通じて離職率の低下にも寄与します。育児と仕事の両立が可能な職場環境は、育休対象者本人だけでなく、将来的に育児を予定するすべての従業員にとって安心材料となります。人材の定着は採用コストの削減に直結するため、育休推進は中長期的なコスト最適化の施策としても位置づけられます。

制度改正の全体像と企業への複合的影響

2025年4月から段階的に施行されている改正育児・介護休業法は、公表義務の拡大にとどまらず、企業に多面的な対応を求めています。子の看護休暇の対象範囲が小学校3年生修了まで拡大されたほか、取得事由にも感染症に伴う学級閉鎖や入学式・卒園式が追加されました。所定外労働(残業)の制限の対象も、3歳未満から小学校就学前の子を養育する労働者へ拡大されています。

さらに、妊娠・出産等の申出時と子が3歳になるまでの個別の意向聴取が義務化されたことで、企業は従業員一人ひとりの育児状況を把握し、柔軟な対応を行う体制の整備が求められています。こうした制度の複合的な改正は、男性育休の取得を点の施策ではなく、従業員のライフステージ全体を支える面の施策として捉えることを企業に促しています。

注意点・展望

取得率だけでは測れない「質」の課題

男性育休取得率の上昇は歓迎すべき変化ですが、取得期間の短さという課題も指摘されています。統計上は1日でも育休を取得すれば「取得者」としてカウントされるため、取得率の数字だけでは育休の実質的な効果を測ることができません。

政府は2025年度までに男性育休取得率50%、2030年度までに85%という目標を掲げているとされていますが、取得「率」の目標達成と並行して、取得「期間」の充実も重要な政策課題です。女性の育児休業取得期間が12か月から18か月が最多であるのに対し、男性は依然として短期間の取得が中心であり、育児の負担が偏る構造は根本的には変わっていない可能性があります。

中小企業への波及が今後の焦点

公表義務の対象が300人超の企業に拡大されたとはいえ、日本企業の大多数を占める中小企業はまだ対象外です。代替要員の確保や業務体制の再構築が大企業以上に困難な中小企業において、どのように取得率を向上させるかが今後の焦点となります。

テレワークの普及やデジタルツールの活用は、中小企業における育休取得環境の改善に寄与する可能性があります。2025年4月施行の改正法では、3歳未満の子を養育する労働者がテレワークを選択できるよう措置を講ずることが事業主の努力義務とされており、育児と仕事の両立を支える選択肢が広がりつつあります。

国際比較における日本の立ち位置

制度設計の面では、日本の育児休業制度は国際的にも手厚いとされています。OECDの調査でも、日本の父親向け育休制度は取得可能期間において先進国の中で上位に位置づけられています。しかし制度の充実度と実際の取得率との間には長らく大きな乖離がありました。40.5%という最新の取得率は、制度と実態のギャップを急速に縮めつつあることを示していますが、北欧諸国の水準と比較するとまだ道半ばです。

今後の課題は、取得率の数字的な目標達成にとどまらず、男性が育児に主体的に関わる文化をいかに根づかせるかという質的な転換にあります。「取得率を上げるために数日取る」のではなく、「子育てに必要な期間を柔軟に取得する」という発想への転換が求められています。

まとめ

男性育休取得率の急上昇は、法制度の改正、開示義務化による透明性の向上、そして企業の自主的な取り組みが相互に作用した結果です。有価証券報告書や育児介護休業法に基づく公表義務により、男性育休取得率は企業の人的資本の「可視化指標」として定着しつつあります。

投資家や求職者がこの指標を重視する傾向は今後も強まると予想され、企業にとって男性育休への対応は人材獲得競争における差別化要因となっています。今後は取得率の向上だけでなく、取得期間の充実や中小企業への波及が課題となります。自社の制度や取り組みを点検し、経営戦略としての男性育休推進を検討する好機といえるでしょう。

参考資料:

佐藤 理恵

企業分析・M&A

会計士としての経験を活かし、企業の財務構造やM&A戦略を深掘り。数字の裏にある経営者の意思決定を読み解く。

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