ニトリ似鳥会長がADHD公表、発達障害は「才能」か
似鳥昭雄氏の74歳ADHD公表
ニトリホールディングス会長の似鳥昭雄氏が、自身のADHD(注意欠如・多動症)診断について「ホッとした」と語り、大きな注目を集めています。74歳で発達障害の診断を受けた似鳥氏は、2026年3月に出版した著書『発達障害の私だからこそ、成功できた』で、診断に至る経緯や、発達障害の特性が経営にどう活かされたかを赤裸々に明かしています。
日本を代表する家具・インテリアチェーンを一代で築き上げた似鳥氏の告白は、発達障害に対する社会の認識を大きく変える可能性があります。この記事では、似鳥氏がADHD診断に至った経緯と、発達障害と経営者の成功の関係について解説します。
似鳥昭雄氏のADHD診断の経緯
テレビ番組がきっかけで気づいた74歳の転機
似鳥氏がADHDの診断を受けたのは2018年頃、74歳のときのことです。きっかけはテレビで放送された発達障害の特集番組でした。番組の中でカウンセラーが説明する発達障害の特徴が、自分自身にぴったり当てはまることに気づいたのです。
その後、文献を読んだり情報を集めたりして確信を深め、最終的に専門医のもとを訪れました。医師から「正真正銘、ADHDです」と告げられた似鳥氏は、驚くどころか「ホッとした」と語っています。長年にわたり自分が感じてきた生きづらさや、周囲との違和感の原因がようやく分かったという安堵感があったのです。
「病気ではなく特性」という捉え方
似鳥氏は、発達障害の診断を受けたことをネガティブには捉えていません。むしろ「これは病気ではなく特性」であると明確に述べています。整理整頓が苦手、忘れ物が多い、じっとしていられないといった特徴は、日常生活では困難を伴うこともあります。しかし、ビジネスの現場ではその特性が独自の強みとなりました。
似鳥氏の場合、次々と新しいアイデアが浮かぶ多動性や、興味のあることに没頭するハイパーフォーカスの能力が、ニトリの急成長を支える原動力になったと考えられています。
ニトリ成功の軌跡と発達障害の特性
一代で築いた日本最大級の家具チェーン
似鳥昭雄氏は1944年に樺太で生まれ、札幌市で育ちました。学生時代は成績が振るわず、自身でも「落ちこぼれだった」と振り返っています。北海学園大学を卒業後、23歳で似鳥家具店を創業しました。
転機となったのは1972年、アメリカ・ロサンゼルスへの研修セミナーへの参加です。アメリカの豊かな住環境を目の当たりにし、「日本の暮らしを豊かにしたい」という使命感が芽生えました。この体験が、「お、ねだん以上。」のキャッチフレーズで知られるニトリの経営理念の原点となっています。
ニトリホールディングスはその後、33期連続増収増益という驚異的な記録を達成し、国内家具・インテリア業界でトップの座を確立しました。
ADHDの特性が経営に活きた理由
発達障害の専門家である精神科医の岩波明氏は、似鳥氏の著書の巻末解説「ADHDが世界をつくる」の中で、ADHD特性と経営能力の関連を分析しています。ADHDの特性には、以下のようなビジネス上の強みがあるとされています。
まず、「過集中(ハイパーフォーカス)」です。興味のある分野に対して常人離れした集中力を発揮し、短期間で深い知識や成果を得ることができます。似鳥氏がアメリカの住環境に衝撃を受け、その理想を日本で実現するために猛烈に取り組んだ姿勢は、この特性の表れといえます。
次に、「衝動性と行動力」です。一般的にはリスクと見なされる場面でも、迷わず行動に移せる特性は、起業や事業拡大の局面で大きな武器になります。似鳥氏が若くして家具店を創業し、積極的に店舗展開を進めた背景には、この特性があったと考えられます。
さらに、「独創的な発想力」です。既存の枠にとらわれない思考は、製造から物流、販売まで一貫して手がけるSPA(製造小売)モデルの構築など、業界の常識を覆すビジネスモデルの開発につながりました。
発達障害と経営者をめぐる新たな視点
著名経営者たちの共通点
似鳥氏の告白は、発達障害と経営者の成功の関係に改めて注目を集めています。ドン・キホーテ創業者の安田隆夫氏との対談では、「成功する経営者には意外と発達障害の人が多い」というテーマが語られました。安田氏自身も「物はなくすし、整理整頓ができない」と明かしており、似鳥氏との類似点を認めています。
海外に目を向ければ、Apple創業者のスティーブ・ジョブズ氏やテスラCEOのイーロン・マスク氏など、発達障害の特性を持つとされる著名経営者は少なくありません。アメリカの調査では「起業した人の約3割は発達障害(ADHD)だった」という報告もあります。
大阪経済大学経営学部の江島由裕教授の研究では、「ADHDの特性である多動性と衝動性は起業プロセスに欠かせない重要な要素」であり、「ADHD起業家は『生き方としての起業』を選択する傾向がある」と指摘されています。
大人の発達障害診断の急増
似鳥氏のケースは、近年急増している大人の発達障害診断の一例でもあります。信州大学の研究によると、2012年から2017年にかけて、日本における成人のADHD診断数は21.1倍に増加しました。2012年に成人向けADHD治療薬が承認されたことや、社会的な認知度の向上が背景にあります。
厚生労働省の2023年のデータでも、発達障害と診断される人の数は年々増加傾向にあります。特に大人になってから初めて診断を受けるケースが増えており、似鳥氏のように70代で診断を受けるケースも珍しくなくなりつつあります。
発達障害成功論の危うさと職場づくり
「発達障害=成功」という誤解に注意
似鳥氏の成功は発達障害の特性だけで説明できるものではありません。本人の努力、周囲のサポート、時代の追い風など、多くの要因が重なった結果です。「発達障害だから成功できる」という安易な結論は危険であり、発達障害を持つ多くの人が日常生活で困難を抱えている現実も忘れてはなりません。
似鳥氏自身も著書の中で、成功の裏にある失敗と苦悩を隠すことなく明かしています。妻や秘書によるコラム、ニトリホールディングス社長のインタビューも収録されており、似鳥氏を支えた周囲の存在の大きさが伝わる内容になっています。
社会の意識変化への期待
似鳥氏のような著名な経営者が発達障害を公表し、それを「特性」として前向きに語ることは、社会の意識を変える大きな力を持っています。発達障害に対する偏見や誤解が根強い日本社会において、「発達障害があっても活躍できる」という実例は、多くの当事者やその家族に希望を与えるものです。
今後は、企業における発達障害を持つ人材の活用や、多様な特性を活かした職場づくりがさらに注目されることが予想されます。
ADHD診断が示す特性理解の重要性
ニトリHD会長・似鳥昭雄氏の「ADHDの診断にホッとした」という言葉には、長年の生きづらさの原因を知った安堵と、自分の特性を受け入れる姿勢が表れています。74歳での診断という事実は、大人の発達障害に対する認知がまだ発展途上であることを示すとともに、いくつになっても自分自身を理解し直すことの大切さを教えてくれます。
発達障害を「欠点」ではなく「特性」として捉え、それをビジネスに活かした似鳥氏の経験は、多様性を重視する現代社会において重要なメッセージを発しています。発達障害の有無にかかわらず、自分の強みと弱みを正しく理解し、強みを最大限に活かす姿勢は、あらゆるビジネスパーソンにとって参考になるのではないでしょうか。
参考資料:
- 74歳で「発達障害」の診断を受けたニトリHD会長が、成功をつかむまでの失敗と努力、苦悩を隠すことなく明かす! - PR TIMES
- 「成功する経営者には意外と発達障害の人が多い」ニトリとドンキ、2人のレジェンド創業者が語る”意外な共通点” - 文春オンライン
- “発達障害”と診断されるも「これは病気ではなく特性」…ニトリ会長・似鳥昭雄氏が経営者として成功できたワケ - 文春オンライン
- 発達障害の私だからこそ、成功できた 似鳥昭雄(著) - 版元ドットコム
- 2012年から2017年にかけて大人のADHDの診断数が日本で急増 - 信州大学
- ADHD特性は起業家向き 多動性と衝動性が生む突破力 - 日経ビジネス
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