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世界一のレストラン「ノーマ」虐待告発の全容

by 小林 美咲
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5度世界一ノーマを揺るがす35人超の告発

「世界のベストレストラン50」で5度の世界一に輝いたデンマーク・コペンハーゲンのレストラン「ノーマ(Noma)」。北欧料理の革新を牽引し、美食界の頂点に君臨したこの名店が、元スタッフによる虐待告発で激震に見舞われています。

2026年3月7日、ニューヨーク・タイムズが35人以上の元スタッフへの取材に基づく調査報道を掲載。その5日後、共同創業者でヘッドシェフのレネ・レゼピ氏が辞任を表明しました。華やかな料理の裏で何が起きていたのか、告発の全容と業界への影響を読み解きます。

告発サイト「noma-abuse.com」の衝撃

元スタッフが立ち上げた告発プラットフォーム

告発の口火を切ったのは、ノーマの発酵ラボで責任者を務めたジェイソン・イグナシオ・ホワイト氏です。ホワイト氏は2017年から2022年までノーマに在籍し、発酵科学の研究開発を統括していました。

ホワイト氏は2026年2月、自身のInstagramアカウント(@microbes_vibes)で元スタッフたちの証言を公開し始めました。さらに告発サイト「noma-abuse.com」を立ち上げ、匿名で証言を集める仕組みを構築しました。このサイトには56人もの元スタッフからの証言が寄せられ、長年にわたる厨房内の暴力やハラスメントの実態が生々しく記録されています。

ニューヨーク・タイムズの調査報道

ホワイト氏の告発を受けて、ニューヨーク・タイムズが本格的な調査を実施しました。35人以上の元スタッフへの取材を通じて明らかになった虐待の内容は、業界関係者にも衝撃を与えるものでした。

証言によれば、レゼピ氏は2009年から2017年にかけて、従業員の顔面を殴打し、キッチン用具で突き刺し、壁に叩きつけるといった暴力行為を繰り返していたとされています。営業中にミスをしたスタッフの脚をバーベキュー用フォークで刺したという証言もあります。

暴力だけではない「心理的虐待」の実態

脅迫と支配の構造

身体的な暴力に加えて、心理的な虐待も深刻でした。元スタッフたちは「持続的なトラウマをもたらす多層的な心理的虐待」を受けたと証言しています。

具体的には、人前での侮辱や身体的な容姿へのからかい、公然とした嘲笑が日常的に行われていたとされます。さらに深刻なのは、レゼピ氏が「他のレストランで働けないようにブラックリストに載せる」「家族を国外退去させる」「配偶者の職場に連絡して解雇させる」といった脅迫を行っていたという証言です。

こうした脅迫は、世界的に著名なシェフの影響力を背景にしたもので、スタッフたちは声を上げることすらできない状況に置かれていました。

無給インターンの搾取問題

ノーマの問題は暴力やハラスメントにとどまりません。長年にわたり、30人以上の無給インターンが1日16時間の労働に従事し、生活費も自己負担していたことが指摘されてきました。

レゼピ氏はこの無給インターン制度への批判を受け続け、2022年末にようやくインターンへの給与支払いを開始しました。この変更により、月あたり少なくとも約700万円(約5万豪ドル)の人件費が増加したと報じられています。つまり、ノーマの「革新的な料理」の裏には、無償労働による大幅なコスト削減があったのです。

レゼピ氏の辞任と業界への波紋

辞任表明の経緯

ニューヨーク・タイムズの報道からわずか5日後の3月12日、レゼピ氏はInstagramで辞任を発表しました。「20年以上にわたってこのレストランを築き上げ率いてきましたが、身を引くことを決めました」と述べ、「自分の行動のすべてに責任を負います」と表明しました。

また、レゼピ氏は自らが設立した新進シェフ支援のための非営利団体「MAD」の理事も辞任しています。なお、ノーマ自体は2024年にレストランとしての通常営業を終了しており、ポップアップイベントや研究機関としての活動に移行していました。

高級飲食業界の構造的問題

ノーマの事件は、高級飲食業界に根深く残る「ブリゲード(軍隊式)文化」の問題を浮き彫りにしています。19世紀フランスの料理人オーギュスト・エスコフィエが確立した厨房の階級制度は、今日まで多くの高級レストランで受け継がれてきました。

この制度のもとでは、長時間労働、低賃金、ハラスメントが「修業」の名のもとに正当化される傾向があります。志望者は「厳しさに耐え、時間を費やせば、いつか自分も階級を上がれる」という暗黙の取引を受け入れてきました。こうした構造が、虐待を見て見ぬふりする土壌を作ってきたのです。

低賃金依存と天才シェフ神話の再考

業界変革の契機となるか

ノーマの告発は、飲食業界全体に変革を迫るものです。しかし、変化は簡単ではありません。高級レストランのビジネスモデルそのものが、低賃金の長時間労働に依存しているという構造的な問題があるためです。

一方で、ホワイト氏は個人の告発にとどまらず、業界全体の変革を目指すと公言しています。告発サイトを通じた証言の蓄積は、今後同様の問題を抱える他のレストランへも波及する可能性があります。

「天才シェフ」神話の再考

美食メディアやランキングが特定のシェフを「天才」として神格化する文化も、問い直されるべき課題です。レゼピ氏のケースは、華やかな評価の陰で労働者が犠牲になっていた現実を突きつけました。今後は料理の創造性だけでなく、職場環境や労働条件も評価基準に含めるべきだという声が高まっています。

56人証言が示すノーマ虐待告発の帰結

世界一のレストラン「ノーマ」の虐待告発は、元スタッフのホワイト氏による告発サイト「noma-abuse.com」の立ち上げに始まり、ニューヨーク・タイムズの調査報道を経て、シェフのレゼピ氏の辞任に至りました。56人もの元スタッフが証言した暴力やハラスメントの実態は、高級飲食業界の構造的な問題を改めて浮き彫りにしています。

この事件をきっかけに、飲食業界における労働環境の改善が進むかどうかが注目されます。「最高の料理」の追求が、働く人々の尊厳を踏みにじることの言い訳にはなりません。

参考資料:

小林 美咲

キャリア・教育

キャリア形成・教育改革・リスキリングなど、人と学びの接点を取材。変化する時代に求められる「働く力」を問い続ける。

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