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原油価格の行方は?イラン情勢と今後の見通し

by 松本 浩司
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はじめに

2026年2月28日、米国とイスラエルがイランへの軍事攻撃を開始して以降、国際原油市場は大きく揺れ動いています。攻撃直前には1バレル67ドル近辺だったWTI原油先物は、3月9日に一時119ドル台まで急騰しました。その後も100ドル前後で乱高下が続いており、エネルギー価格の上昇が企業業績や日常生活に深刻な影響を与え始めています。

本記事では、原油価格急騰の背景にある中東情勢、ホルムズ海峡封鎖の実態、各国の対応策、そして今後1〜2カ月の価格見通しについて、最新の情報をもとに解説します。

原油急騰の背景:米イスラエルによるイラン攻撃

「エピック・フューリー作戦」の衝撃

米国とイスラエルによるイランへの共同軍事作戦は、コードネーム「エピック・フューリー作戦」と名付けられました。精密誘導兵器やステルス航空機を投入した大規模な攻撃で、イランの軍事インフラに甚大な被害を与えたとされています。この攻撃の規模と影響は、市場の想定を大きく超えるものでした。

攻撃開始直後の3月1日、ブレント原油は前日比で10〜13%上昇し、1バレル80〜82ドルに達しました。その後も上昇を続け、3月中旬には100ドルの大台を突破しています。

ホルムズ海峡の事実上の封鎖

原油価格を押し上げた最大の要因が、イラン革命防衛隊による3月2日のホルムズ海峡「閉鎖」宣言です。世界の原油輸送の約2割が通過するこの海峡は、1日あたり約120隻が通航していましたが、3月6日時点でわずか5隻にまで激減しました。

ホルムズ海峡の封鎖は単なる供給不安にとどまりません。サウジアラビアやUAEのパイプライン経由で日量470万バレルの迂回輸送が可能とされるものの、通常の通航量と比較すると限定的です。紅海ルートへの迂回も進んでいますが、輸送コストの増加と保険料の高騰が追い打ちをかけています。

各国の対応と市場安定化の試み

OPECプラスの増産決定

OPECプラスの有志8カ国(サウジアラビア、ロシア、イラク、UAE、クウェート、カザフスタン、アルジェリア、オマーン)は3月1日の緊急会合で、4月から日量20.6万バレルの増産を再開することで合意しました。しかし、ホルムズ海峡が事実上封鎖された状況では、増産分を世界市場に届ける手段が限られており、効果は限定的との見方が強まっています。

IEAによる史上最大の備蓄放出

国際エネルギー機関(IEA)は3月11日、加盟32カ国の全会一致で史上最大となる4億バレルの戦略石油備蓄放出を決定しました。内訳は原油が72%、石油製品が28%で、米大陸から約1億9,580万バレル、アジア・オセアニアから約1億860万バレル、欧州から約1億750万バレルが放出される計画です。

この決定は市場に一定の安心感を与えましたが、ホルムズ海峡を通過する日量約2,000万バレルの供給途絶を完全に補うには十分とは言えません。

トランプ大統領の「口先介入」

トランプ米大統領は原油高騰への対応で揺れています。3月8日には「適切な時期に戦闘停止を決断する」と発言して市場に期待感を与えた一方、3月12日には「原油価格よりもイランの核武装阻止が重要だ」と投稿し、戦争継続の姿勢をにじませました。

さらに3月9日にはロシアへの制裁解除を示唆し、ロシア産原油の供給拡大で価格を抑える構想も示しています。こうした一貫性のない発言が市場の乱高下を助長している面があります。米政権内では「原油価格抑制へあらゆる選択肢を検討する」との方針が示されていますが、具体策は見えていません。

日本経済への深刻な影響

中東依存の脆弱性が露呈

日本は原油輸入の約95%を中東に依存し、そのうち約70%がホルムズ海峡を通過します。Bloombergの報道によると、中東からの原油を積んだ最後のタンカーが3月22日に日本へ到着する見込みで、その後は中東産原油の供給が当面途絶えることになります。

日本の石油備蓄は約254日分とされていますが、長期的な供給途絶に備え、政府は備蓄放出の検討を進めています。

ガソリン価格と生活への波及

2026年3月16日時点で、レギュラーガソリンの全国平均価格は190.8円/Lに達し、わずか1週間で29円もの急騰を記録しました。政府補助がなければ200〜220円/L水準になるとの試算もあります。

政府は3月11日に「イラン情勢を踏まえた緊急的激変緩和措置」を発動し、レギュラーガソリンを170円/L以下に抑える方針を打ち出しました。3月19日出荷分から補助金の支給が始まります。

しかし影響はガソリンにとどまりません。野村総合研究所の木内登英氏の分析によると、原油価格の上昇は、まずガソリン価格に反映され、次に電気・ガス代へ波及し、さらに時間をかけて幅広い物価上昇につながります。原油価格が20ドル上昇した場合、日本のGDPを0.18%押し下げる効果があるとされています。大手化学メーカーの減産や、信越化学工業による塩化ビニール樹脂の値上げなど、産業界への影響も顕在化しています。

注意点・今後の見通し

「1〜2カ月で政治的手打ち」のシナリオ

市場では、今後1〜2カ月で何らかの政治的決着が図られるとの見方があります。トランプ大統領が原油高騰への焦りを見せていること、米国内のガソリン価格上昇が政治的リスクとなっていることが、停戦交渉を後押しする可能性があります。

ただし、イランのアラグチ外相は「交渉も停戦も求めていない」と明言しており、短期間での収束は予断を許しません。関西テレビの報道では、紛争長期化により原油価格を高騰させること自体がイランの「武器」になっているとの分析もあります。

3つの価格シナリオ

野村證券は今後の原油価格について3つのシナリオを提示しています。第1に、現在の水準をピークに先物カーブに沿って徐々に下落するケース。第2に、1バレル80ドル台で高止まりするケース。第3に、100ドルまで急騰した後に高止まりするケースです。

一方、CNBCは200ドルに達する可能性も排除すべきではないとの専門家の見解を伝えています。EIA(米エネルギー情報局)はWTI原油の2026年平均価格予測を20ドル引き上げました。紛争の長期化次第では、エネルギー市場への影響が数カ月にわたって続く可能性があります。

注意すべきポイント

投資家や消費者が注意すべき点は3つあります。第1に、トランプ大統領の発言による市場の振れ幅が大きく、短期的な価格変動に振り回されないことが重要です。第2に、ホルムズ海峡の通航再開のタイミングが価格の転換点になる可能性が高い点です。第3に、IEAの備蓄放出やOPECプラスの増産が価格の「天井」を抑える効果を持つものの、供給ルートの問題が解決しない限り根本的な解決にはならないということです。

まとめ

米イスラエルのイラン攻撃に端を発した原油価格の急騰は、ホルムズ海峡の事実上の封鎖という前例のない事態と相まって、世界経済に大きなリスクをもたらしています。IEAの4億バレル備蓄放出やOPECプラスの増産など各国は対応を急いでいますが、紛争の行方次第では影響が長期化する恐れがあります。

日本にとっては中東依存のエネルギー構造の脆弱性が改めて浮き彫りになりました。短期的にはガソリン補助金などの緊急対策に注目しつつ、中長期的にはエネルギー供給源の多様化の議論が加速することが見込まれます。原油市場の動向とともに、停戦交渉の進展を注視していく必要があります。

参考資料:

松本 浩司

マクロ経済・国際経済

国際経済の潮流を、通商政策・為替・新興国の動向から多角的に分析。グローバル経済の「次の震源地」を見極める。

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