PISA日本OECD首位でも問われる学びの自走力不足とAI活用
OECD首位が示す日本の強みと読み違えの危うさ
PISA2025で日本の15歳は、科学コンピテンシー、読解力、数学的リテラシーの3分野すべてでOECD加盟国中1位となりました。文部科学省と国立教育政策研究所は、調査開始以降初めての結果だと整理しています。
ただし、これは「全参加国・地域で世界1位」という意味ではありません。全91か国・地域では、科学5位、読解4位、数学5位です。日本の学校教育はなお高い基礎学力と公正性を保っていますが、PISAの質問調査は別の弱点も映しています。自分で学びを計画し、問いを持ち、AI時代の情報を使いこなす力です。
高得点を支える基礎力と公正性の厚み
科学・読解・数学で見えた順位の実像
PISA2025は2026年9月8日に結果が公表されました。91か国・地域から約76万人が参加し、日本では183校の約6550人が調査を受けています。対象は15歳3か月から16歳2か月の生徒で、日本では主に高校1年生に当たります。
日本の平均得点は、科学コンピテンシー538点、読解力503点、数学的リテラシー525点でした。OECD平均はそれぞれ482点、461点、463点です。新領域のラーニング・イン・デジタルワールドのうち、今回公表されたコンピュテーショナルな問題解決能力でも、日本は557点でOECD平均500点を大きく上回りました。
国際比較では、北京・上海・江蘇・浙江、シンガポール、マカオ、台湾など東アジア圏の上位勢が目立ちます。日本はその中で高位を維持しつつ、OECD加盟国の中では3分野すべてで首位に立った形です。ここから言えるのは、日本の学校が基礎的な知識技能を一定水準まで引き上げる仕組みを、なお強く持っているということです。
低得点層の増加が示す学力分布の変化
手放しで喜べない理由は、平均点だけでは見えない分布の変化にあります。日本の2025年結果は、科学と数学では前回2022年からの低下に統計的な有意差はありませんでした。一方、読解力は前回比13点低下し、有意な低下とされています。
国立教育政策研究所は、3分野すべてで低得点層の割合が有意に上昇したとも説明しています。OECDの日本向けカントリーノートでも、2022年から2025年にかけて、上位10%と下位10%の差が数学、読解、科学で広がったとされています。
これは「上位層が崩れた」というより、「取りこぼされる生徒が増えている」問題です。科学では89%がレベル2以上、17%がレベル5以上の高得点層です。数学でも84%がレベル2以上、22%がレベル5以上です。読解力も81%がレベル2以上、11%がレベル5以上に達しています。水準は高いままですが、底上げの効き方に揺らぎが出ています。
社会経済格差を抑える学校制度の強み
日本の明確な強みは、社会経済的背景による学力差が比較的小さい点です。PISAのESCS指標で上位25%の生徒と下位25%の生徒を比べると、日本の科学得点差は71点でした。OECD平均の85点より小さく、家庭背景だけで到達度が決まりにくい教育制度を保っています。
また、日本では社会経済的背景が科学得点のばらつきを説明する割合が8%で、OECD平均の12%を下回っています。困難な家庭背景にありながら国内上位4分の1に入る「学業面でレジリエントな生徒」も13%で、OECD平均の12%と同程度です。
この結果は、学校が学力保障の最後の砦として機能していることを示します。だからこそ、次の課題は単なる順位争いではありません。高い基礎力を、進路選択や職業生活、社会参加の中で学び続ける力へどう接続するかです。
自走する学びを妨げる意欲とAI活用の遅れ
好奇心と目標設定の国際差
PISA2025で最も見逃せないのは、学習への関与に関する数字です。日本の生徒で「多くの異なることに好奇心がある」と答えた割合は63%で、OECD平均の73%を下回りました。「課題が難しくなると、さらに努力する」と答えた割合も48%で、OECD平均の60%を下回ります。
一方で、「学校は時間の無駄だった」と考える生徒は6%にとどまり、OECD平均の24%よりかなり低い水準です。学校への信頼は強いのに、自分から学びを広げる姿勢は弱い。このねじれが、日本の教育の現在地をよく表しています。
さらに深刻なのは、自己調整学習です。日本で「勉強への取り組み方をよく計画する」と答えた生徒は約21%で、OECD平均の37%を下回ります。「理解できたか確認するために自分に問いかける」生徒も31%で、OECD平均の49%に届きません。学ぶ内容を与えられれば強いが、学び方を自分で組み替える経験は足りないという構図です。
キャリア形成の観点では、ここが致命的な課題になります。大学入試や就職活動の後には、正解が用意されない課題が続きます。リスキリング、転職、専門性の更新、AIとの協働は、どれも「何を学ぶべきか」を自分で見極める力を求めます。15歳時点でその筋肉を育てきれていないことは、将来の選択肢の狭さにつながります。
AIを使いこなす経験の不足
PISA2025は、生成AIの利用実態も浮かび上がらせました。日本でAIチャットボットを学習支援に週1回以上使う生徒は27%で、OECD平均の46%を下回ります。新しいテーマの予備調査にAIを使う生徒は11%、文章の要約は14%、作文課題の下書きは15%です。いずれもOECD平均の31%、30%、29%より低い水準です。
国立教育政策研究所の資料では、学校の勉強におけるAI利用頻度指標が、回答したOECD加盟国38か国中38位と整理されています。これは「日本の子どもはデジタルに弱い」と単純化すべき数字ではありません。学校での学習活動に使うデジタル・リソースの時間は、日本もOECD平均も1日1.7時間程度です。授業中にデジタル機器で気が散る生徒も、日本は7%でOECD平均28%よりかなり低く、規律ある活用はできています。
問題は、AIを「答えを出す機械」としてではなく、「問いを広げ、情報の質を吟味し、考えを修正する道具」として使う経験の不足です。文部科学省の生成AIガイドラインも、人間中心の利活用と情報活用能力の育成強化を掲げています。禁止か解禁かではなく、批判的に使えるように教える段階に入っています。
教員不足が削る対話と伴走の時間
自走する学びは、生徒に「自分でやりなさい」と言うだけでは育ちません。問いを立てる、試行錯誤する、つまずいた理由を言語化する。その過程には、教師や仲間との対話が必要です。
ところがPISA2025では、日本の生徒の80%が、校長が教員不足によって授業が少なくとも一定程度妨げられていると答えた学校に在籍していました。OECD平均は39%です。補助スタッフ不足も65%で、OECD平均39%を大きく上回ります。教材不足は60%、施設インフラ不足は74%とされ、人的・物的資源の制約が強く出ています。
もちろん、日本の授業環境には強みもあります。科学の授業で、教師が生徒一人ひとりの学びに関心を示すと答えた割合は84%、理解するまで教えると答えた割合も84%、必要な時に追加支援をすると答えた割合は88%です。いずれもOECD平均を上回ります。
だからこそ、現場の努力に依存し続ける危うさが際立ちます。基礎学力を保つだけで精いっぱいの学校では、探究やAIリテラシー、個別の進路対話まで十分に手が回りません。高得点の裏側にあるのは、教師の献身で成立している薄氷の安定です。
読解低下と孤立リスクが重なる学校現場
PISA2025の読解力低下は、単に本を読まなくなった問題ではありません。OECDは読解力について、情報を評価し、複数資料を結びつけ、批判的に読む力がAI時代に重要だと位置づけています。日本では「評価し、熟考する」設問の正答率に改善も見られましたが、「読みの流ちょう性」は低下しました。速く正確に読み、複数の情報を扱う土台が揺らぐと、AIが出した答えの妥当性も判断しにくくなります。
学校外の状況も無視できません。文部科学省の令和6年度調査では、小中学校の不登校児童生徒数が約35万4000人で過去最多となりました。高校の不登校生徒数も約6万8000人です。PISAが示す高い平均点は、学校に在籍し調査に参加した15歳の姿です。学校に通いづらい子ども、学習から距離ができた子どもの課題まで代表しているわけではありません。
PISAでは、日本の生徒の学校への所属感は比較的高く、欠席や遅刻もOECD平均より少ない結果です。それでも、家庭による支援的な関わりは弱まっています。保護者が週1回以上、学校で何をしたか聞く割合は64%で、2022年の69%から下がりました。学校での問題について話し合う割合も31%で、2022年の35%から低下しています。
この先の教育改革では、成績上位国としての成功体験だけで議論してはいけません。通える子だけをさらに伸ばす改革ではなく、通いづらい子、家庭で学習を支えにくい子、AIや情報環境から取り残される子を含めた設計が必要です。
家庭と学校が育てる次の学力の条件
PISA2025の日本の結果は、失敗ではありません。むしろ、国際的に見れば相当に強い教育システムです。しかし次に伸ばすべき力は、平均点を数点上げる力ではありません。自分で問いを立て、学習計画を作り、AIを含む情報環境を批判的に使い、必要な時に助けを求める力です。
家庭でできることは、正解を急がず、子どもが何に疑問を持ったかを聞くことです。学校で必要なのは、探究や情報活用を特別活動に閉じ込めず、各教科の学び方そのものに組み込むことです。行政には、教員不足の改善と支援スタッフの拡充が求められます。
日本の15歳は、世界トップ級の基礎力を持っています。その強みを未来の働く力に変えるには、「よくできる子」を「学び続けられる人」へ育てる視点が欠かせません。PISAの順位は誇ってよい成果です。ただし、次の一手は点数の上にある学びの自走力です。
参考資料:
- PISA 2025 Results Volume I: Future-Ready Students
- PISA 2025 Results Volume I: Japan Country Note
- PISA 2025: Students’ reading and mathematics performance declined sharply across the OECD
- Executive Summary: PISA 2025 Results Volume I
- OECD生徒の学習到達度調査(PISA) 国立教育政策研究所
- PISA2025のポイント 文部科学省・国立教育政策研究所
- PISA2025 参考資料 国立教育政策研究所
- PISA2025 パンフレット 国立教育政策研究所
- 生成AIの利用にあたって 文部科学省
- 教育の情報化・GIGAスクール構想の推進 文部科学省
- 教師不足について 文部科学省
- 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査 文部科学省
- 令和6年度調査結果を踏まえた対応の充実について 文部科学省
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