高市政権に忍び寄る鳩山政権の轍とは
はじめに
2026年2月8日の衆議院選挙で自民党が単独316議席を獲得し、歴史的大勝を収めた高市早苗首相。連立を組む日本維新の会と合わせて352議席という圧倒的な数字は、高市政権の盤石さを印象づけました。しかし、それからわずか1カ月余り。石川県知事選での敗北、カタログギフト問題への批判、予算案の年度内成立断念と、逆風が急速に強まっています。
この急転直下の状況は、2009年に政権交代を果たした鳩山由紀夫政権の軌跡と重なる部分があります。支持率70%超でスタートしながら、わずか9カ月で退陣に追い込まれた鳩山政権。高市首相はその「悪夢」を回避できるのでしょうか。本記事では、両政権の類似点と相違点を分析し、高市政権の今後を展望します。
衆院選大勝から一転、石川県知事選での「初敗北」
6,000票差が突きつけた現実
2026年3月8日に投開票された石川県知事選は、高市政権にとって衆院選後初の大型地方選挙でした。自民党と日本維新の会が推薦する現職の馳浩氏に対し、無所属で立候補した前金沢市長の山野之義氏が24万5,674票を獲得して初当選を果たしました。馳氏の得票は23万9,564票で、その差は約6,100票です。
馳氏は県内19市町のうち16市町で勝利したものの、有権者の約4割が集中する金沢市で山野氏に大差をつけられ、知事の座を1期で明け渡す結果となりました。投票率は54.68%で、有権者の関心の高さがうかがえます。
高市首相の現地入りも効果なく
注目すべきは、高市首相自身が現地入りしててこ入れを図ったにもかかわらず、衆院選の勢いを知事選につなげられなかった点です。2024年の能登半島地震や奥能登豪雨への対応評価、復興の進め方が争点の一つとなり、現職への批判票が結集しました。
時事通信は「自民、石川知事選でつまずき」と報じ、党内からは今後の政権運営への影響を懸念する声が漏れています。「高市人気」が地方選挙では必ずしも通用しないという現実が、自民党の地方基盤への不安を浮き彫りにしました。
支持率下落の構造的要因
カタログギフト問題が直撃
衆院選大勝の余韻が冷めやらぬ2月下旬、高市首相が当選した自民党議員315人全員に約3万円のカタログギフトを配布していたことが発覚しました。総額は約1,000万円に上ります。
高市首相は「奈良県第二選挙区支部として品物を寄付した」「政党交付金は一切使用していない」と説明しましたが、野党からは厳しい追及を受けました。立憲民主党の田名部匡代幹事長は「政治とカネの問題や物価高の状況は続いている」と批判し、中道改革連合の小川淳也代表は「古い自民党の体質だ」と断じました。
この問題が深刻なのは、前年に石破茂前首相の商品券配布問題が発覚して陳謝に追い込まれた前例があったにもかかわらず、同様の行為を繰り返した点です。選挙ドットコムの調査では、45.7%の国民がこの行為に「深刻な問題がある」と回答しています。
外交面での不安が急浮上
3月の世論調査では、不支持の理由として「外交に期待が持てない」が前月の4.0%から21.6%に急上昇しました。この変化の背景には、2月末に発生した米国・イスラエルとイランの軍事緊張があります。
高市首相は3月19日にワシントンでトランプ大統領との首脳会談に臨み、ホルムズ海峡の安全確保について日本の法的立場を説明しました。トランプ大統領は「日本はNATOと違い責任を果たそうとしている」と評価する一方で、さらなる貢献を求める姿勢を見せています。日本の原油輸入の約8割が中東に依存する中、国民の不安は大きく、外交手腕への厳しい目が向けられています。
鳩山政権との類似点と相違点
共通するパターン:「期待」から「実績」への転換
鳩山由紀夫政権は2009年9月に支持率70%超でスタートしました。民主党による歴史的な政権交代への期待は大きく、「コンクリートから人へ」のスローガンは多くの国民の支持を集めました。しかし、普天間基地移設問題での迷走、鳩山首相自身や小沢一郎幹事長の「政治とカネ」問題が噴出し、2010年1月には支持率が41.5%まで低下。最終的に2010年5月には19.1%にまで落ち込み、わずか266日で退陣に追い込まれました。
高市政権も同様に、衆院選の大勝による高い期待値でスタートしています。選挙ドットコムの分析では「これまでは『期待値』で評価されたが、これからは『やったこと』で評価される」と指摘されており、まさに鳩山政権が直面したのと同じ転換点に立っています。
「政治とカネ」という共通の火種
鳩山政権では鳩山首相自身の政治資金問題や小沢幹事長の資金管理団体をめぐる疑惑が致命傷となりました。高市政権でもカタログギフト問題が「古い自民党体質」への批判を再燃させています。金額の大小にかかわらず、「政治とカネ」の問題が国民の信頼を損なうパターンは繰り返されています。
異なる条件:議席数と野党の状況
一方で、両政権には決定的な違いもあります。高市政権は衆院で352議席という圧倒的多数を持ち、与党内の結束も現時点では保たれています。鳩山政権時の民主党は連立パートナーとの関係に苦慮し、党内対立も深刻でした。また、現在の野党は分散しており、鳩山政権を倒した時のような強力な対抗勢力は形成されていません。
注意点・展望
予算案停滞が試金石に
高市政権が直面する喫緊の課題は、2026年度予算案の行方です。過去最大の122兆円規模の予算案は衆院を通過したものの、参院では野党が十分な審議時間の確保を条件に採決を拒んでおり、年度内の3月31日までの成立は困難な情勢です。政府は11年ぶりとなる暫定予算の編成を検討しており、憲法の規定により4月11日に自然成立する見通しです。
暫定予算編成という事態は、政権の政策実行力への疑問符を突きつけます。鳩山政権が外交・安保で迷走したように、高市政権が国会運営で行き詰まれば、「数の力」への過信を問われることになるでしょう。
支持率の「防衛ライン」
NHKの3月調査で支持率は59%(前月比6ポイント減)、時事通信では59.3%(前月比4.5ポイント減)となっています。依然として高い水準ではありますが、「首相にふさわしいと思えない」が14.3%から20.9%に上昇している点は、鳩山政権の初期段階での「失望感の芽生え」と重なります。今後の外交成果や予算案の成立状況次第で、支持率がさらに下落する可能性は否定できません。
まとめ
高市政権は衆院選での歴史的大勝から1カ月余りで、石川県知事選の敗北、カタログギフト問題、予算案の停滞、外交面での不安増大という複合的な課題に直面しています。鳩山政権が高い期待値から急速に支持を失った「悪夢」のパターンと重なる部分は確かに存在します。
ただし、圧倒的な議席数と分散した野党という条件は鳩山政権時とは異なります。高市首相が「期待」から「実績」への転換を乗り越えられるかどうかは、当面のイラン情勢への対応、予算案の処理、そして国民の生活実感に直結する経済政策の成果にかかっています。「鳩山政権の悪夢」を繰り返すか否かは、今後数カ月の政権運営にかかっていると言えるでしょう。
参考資料:
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