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電通グループ過去最大赤字と新社長が挑む再建

by 佐藤 理恵
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はじめに

国内広告最大手の電通グループが、2025年12月期決算で過去最大となる3276億円の最終赤字を計上しました。3期連続の赤字決算という異例の事態に加え、2001年の上場以来初めて無配に転落するなど、同社の経営は深刻な局面を迎えています。

この責任を取り五十嵐博社長が退任し、後任には電通社長の佐野傑氏(55歳)が就任することが発表されました。巨額の減損損失を生んだ海外M&A戦略の清算と、コンサルティング領域への事業転換という二つの課題を背負う新社長に、業界の注目が集まっています。

本記事では、電通グループが過去最大の赤字に至った経緯と、佐野新体制が掲げる再建策の全容を解説します。

過去最大の赤字に至った構造的要因

海外M&A戦略の破綻

電通グループの赤字の最大の要因は、海外事業に関連するのれんの巨額減損です。2025年10〜12月期だけで3101億円ののれん減損を計上し、通期では約3961億円に達しました。前期(2024年12月期)にも2101億円の減損を計上しており、2年間で合計6000億円超の資産が消失した計算です。

電通グループは2010年代以降、グローバル展開を加速するため、英国のイージス・グループ(約4000億円)をはじめ、海外の広告・マーケティング企業を次々と買収してきました。しかし、買収した企業群の統合が十分に進まず、重複する拠点や機能が放置された結果、コスト構造が肥大化しました。

デジタルシフトへの対応遅れ

広告業界全体がデジタルシフトを加速する中、電通グループの海外事業は従来型の広告モデルから脱却できませんでした。GoogleやMetaなどのプラットフォーム企業が広告市場を席巻する一方で、電通が買収した企業の多くはレガシーな広告手法に依存していました。

この結果、海外事業の収益力は年々低下し、買収時に見込んでいた成長シナリオとの乖離が拡大。のれんの減損テストにおいて回収可能価額が帳簿価額を大きく下回る状態が常態化してしまいました。

決算の全体像

2025年12月期の連結決算(国際会計基準)は、収益が1兆4352億円(前期比1.7%増)と微増だったものの、営業損失は2892億円に拡大しました。最終損益は3276億円の赤字で、前期の1921億円の赤字からさらに悪化。3期連続の赤字決算となり、創業以来初の無配という厳しい結果に終わりました。

新社長・佐野傑氏の経歴と再建構想

コンサル領域を牽引してきたキャリア

佐野傑氏は1992年に東京大学経済学部を卒業後、電通に入社しました。営業部門を中心にキャリアを重ね、2021年に電通の執行役員に就任。その後、ビジネストランスフォーメーション(BX)やデジタルトランスフォーメーション(DX)領域の統括責任者として、電通のコンサルティング事業を牽引してきました。

2024年1月には電通の代表取締役社長に就任すると同時に、国内事業を統括するdentsu JapanのCEOに就任。2025年3月からは電通グループの執行役デピュティ・グローバルCOOを兼務し、海外事業の立て直しにも関与してきました。

「広告会社」からの脱皮

佐野氏が一貫して推進してきたのは、電通を従来の「広告会社」からコンサルティング企業へと変革する戦略です。ドリームインキュベータとの資本提携をまとめるなど、コンサル領域での基盤構築に尽力してきました。

広告業界では、アクセンチュアやデロイトといった大手コンサルティング企業が広告・マーケティング領域に進出し、従来の広告代理店のビジネスモデルを脅かしています。佐野氏は、この逆の流れ、つまり広告会社がコンサル領域に進出することで、新たな成長の柱を築こうとしています。

新中期経営計画と構造改革の道筋

2027年までの再建ロードマップ

電通グループは新中期経営計画において、M&Aに偏重した過去の成長戦略を一定清算する方針を明確にしました。具体的には、事業規模の大きい日本とアメリカに経営資源を集中させ、不採算市場からの撤退を進めます。

2026年度には海外事業全体を回復軌道に乗せ、2027年度には全4事業地域がそれぞれ株主価値の向上に貢献する状態を目指すとしています。

大規模な人員削減とコスト構造の見直し

構造改革の柱となるのが、海外での約3400人の人員削減です。これは2020年に発表した5800人超の削減に次ぐ規模となります。25年12月期には割増退職金などの構造改革費に270億円を計上しました。

また、東京とロンドンに分散・重複していた本部機能を統合し、各リージョン本部の役割を再定義することで業務の簡素化を進めます。これらの施策により、2027年度には最大で年間500億円規模のコスト削減効果を見込んでいます。

最大2000億円の資本増強策

巨額の損失で毀損した財務基盤を立て直すため、電通グループは最大2000億円規模の資本増強策を検討しています。具体的な手法として、政策保有株式の売却や不動産の流動化、さらには第三者割当増資なども選択肢に含まれているとみられます。

注意点・展望

再建の成否を左右するポイント

電通グループの再建にはいくつかの不確定要素があります。まず、海外事業の売却交渉が思うように進んでいないという報道があり、不採算事業の切り離しが計画通りに実行できるかが焦点です。

また、コンサルティング領域への転換は、アクセンチュアやデロイトといった先行企業との競争が激しく、広告会社出身の人材がどこまでコンサル領域で通用するかという課題もあります。

国内事業の堅調さが救い

一方で、国内事業は比較的堅調に推移しています。デジタルマーケティングやデータ活用領域での成長が見込まれるほか、佐野氏がdentsu Japan CEOとして築いてきた基盤が再建の足がかりとなる可能性があります。広告市場全体がデジタルシフトを加速する中、国内での強固なクライアント基盤は電通の最大の資産です。

まとめ

電通グループは海外M&A戦略の失敗により過去最大の3276億円の赤字を記録し、経営の岐路に立っています。新社長の佐野傑氏は、コンサル領域への事業転換と海外事業の構造改革という二つの難題に同時に取り組む必要があります。

2027年までの新中期経営計画では、年間500億円のコスト削減と事業ポートフォリオの再構築が掲げられていますが、その実行には大きな困難が伴います。国内広告業界のリーダーとして培ってきたブランド力と人材を活かし、新たな成長モデルを構築できるかが、電通グループの将来を決定づけることになるでしょう。

参考資料:

佐藤 理恵

企業分析・M&A

会計士としての経験を活かし、企業の財務構造やM&A戦略を深掘り。数字の裏にある経営者の意思決定を読み解く。

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