オリーブの丘がサイゼリヤの牙城を崩すか
はじめに
「格安イタリアン」と聞いて、多くの人が真っ先に思い浮かべるのはサイゼリヤでしょう。国内約1,060店舗を展開し、圧倒的なコストパフォーマンスで「一人勝ち」の状態が長く続いてきました。しかし今、その牙城を揺るがす存在として注目を集めているのが「オリーブの丘」です。
オリーブの丘は、すき家やはま寿司で知られるゼンショーホールディングスが手がけるイタリアンチェーンです。「激安なのに本格派」として、SNSやYouTubeなどで話題が急拡大しています。国内外食売上高で初の1兆円を突破したゼンショーグループの資本力を背景に、サイゼリヤの独壇場だった格安イタリアン市場に風穴を開けようとしています。
本記事では、両チェーンの価格やメニュー、経営戦略を比較しながら、格安イタリアン市場の今後を読み解きます。
オリーブの丘とは何者か
ゼンショーグループが生んだ新星
オリーブの丘は、ゼンショーホールディングス傘下で運営されるイタリアンレストランチェーンです。正式名称は「イタリア食堂 オリーブの丘」で、「毎日食べても、毎日おいしく、毎日うれしい!」をコンセプトに掲げています。
現在の店舗数は約60店舗で、関東地方を中心に展開しています。北海道や静岡、大阪にも進出しており、着実にエリアを広げている状況です。サイゼリヤの国内約1,060店舗と比べるとまだ規模の差は大きいですが、メディアやSNSでの注目度は急上昇しています。
豊富なメニューと手頃な価格
オリーブの丘の魅力は、本格的なイタリアン料理を手頃な価格で楽しめる点です。ピザは363円から、パスタは429円からと、格安チェーンとしての価格帯をしっかり押さえています。平日ランチセットは759円で、サラダの代わりにピッツァを選べるなど、ボリューム面でも満足感があります。
メニューの種類はサイゼリヤよりも豊富で、季節限定メニューも定期的に登場します。前菜からメインのピザ・パスタ、デザートまで幅広く揃い、ワインもボトルで990円という価格設定です。「選ぶ楽しさ」がオリーブの丘ならではの強みといえるでしょう。
サイゼリヤとの徹底比較
価格帯の微妙な違い
サイゼリヤは国内で最も安いイタリアンチェーンとして知られています。パスタは300円台から、ピザは400円台から提供されており、ランチセットも500〜600円と極めてリーズナブルです。
一方、オリーブの丘は単品価格でサイゼリヤよりやや高めの設定です。しかし、1品あたりのボリュームや付け合わせの充実度を考慮すると、総合的なコストパフォーマンスでは十分に競争力があります。客単価は両社とも1,000円前後で、「気軽に行けるイタリアン」としてのポジションは重なっています。
サービスと利便性の差
注目すべき違いの一つが決済手段です。サイゼリヤは長らく現金決済が中心でしたが、オリーブの丘はクレジットカードや電子マネーに対応しています。2025年3月からはVポイントサービスも開始しました。キャッシュレス決済が当たり前になった現代において、この差は若い世代の来店動機に影響する可能性があります。
また、オリーブの丘はゼンショーグループの他ブランドとのポイント連携も可能で、すき家やはま寿司の利用者にとっては馴染みやすい環境が整っています。
経営戦略の根本的な違い
サイゼリヤの「垂直統合」モデル
サイゼリヤの最大の強みは、食材の生産から物流まで一貫して自社グループで行う「垂直統合」型の経営モデルです。オーストラリアに自社農場を持ち、国内に自社工場・自社物流網を整備することで、中間マージンを徹底的に排除しています。
この仕組みがあるからこそ、物価高騰が続く中でも値上げを最小限に抑え、「安くておいしい」を維持できているのです。2026年8月期には売上高2,763億円、営業利益190億円を見込んでおり、3年連続の最高益更新が見えています。セルフレジの導入やQRコード注文など、DXによるオペレーション効率化も進めています。
ゼンショーの「水平展開」モデル
対するオリーブの丘を擁するゼンショーグループは、「水平展開」型の戦略が特徴です。すき家、はま寿司、ココス、ビッグボーイ、ジョリーパスタなど、多様な業態を展開するグループ全体の調達力を活かしてスケールメリットを生み出しています。
2025年3月期にはグループ連結売上高が1兆1,367億円に達し、国内外食企業として初めて1兆円を突破しました。2026年3月期も売上高1兆2,235億円を見込んでいます。この圧倒的な規模の経済が、オリーブの丘の低価格を支えるバックボーンとなっています。
さらに、ゼンショーは2025年にレストラン事業の組織統合を実施しました。ココス、ビッグボーイ、ジョリーパスタ、オリーブの丘など6つのブランドを一つのレストラン事業として集約し、ノウハウや経営資源の共有を加速させています。
注意点・展望
規模の壁をどう越えるか
オリーブの丘が直面する最大の課題は、サイゼリヤとの店舗数の圧倒的な差です。約60店舗と約1,060店舗では、認知度やブランド力に大きな開きがあります。格安チェーンにとって店舗網の広さは集客力に直結するため、出店ペースの加速が今後の鍵を握ります。
ただし、ゼンショーグループは中期経営計画で国内外の出店を積極的に進める方針を掲げています。グループ内での業態転換(例えば不採算店舗をオリーブの丘に転換)も選択肢にあり、一般的な新規チェーンよりも出店スピードを上げやすい環境にあるといえます。
すかいらーくも参入、三つ巴の競争へ
格安イタリアン市場にはもう一つの動きがあります。すかいらーくグループが2024年に新業態のイタリアンレストランを立ち上げ、3年間で30店舗の出店を目指しています。「五感で味わうリゾートレストラン」をテーマに、体験価値を重視したコンセプトで差別化を図る方針です。
サイゼリヤ、オリーブの丘、そしてすかいらーくの新業態と、大手外食チェーンが格安イタリアン市場に集結する構図が生まれつつあります。消費者にとっては選択肢が広がる歓迎すべき状況ですが、各社にとっては厳しい競争環境になることが予想されます。
まとめ
格安イタリアン市場は、長らくサイゼリヤの一強体制が続いてきました。しかし、国内外食売上高トップのゼンショーグループが擁するオリーブの丘の台頭により、市場の勢力図が変わり始めています。
サイゼリヤが自社農場から物流まで一貫して管理する「垂直統合」で圧倒的なコスト競争力を持つのに対し、オリーブの丘はグループ全体の調達力を活かした「水平展開」で対抗しています。メニューの豊富さやキャッシュレス対応など、現代の消費者ニーズに合わせた差別化ポイントも明確です。
店舗数の差はまだ大きいものの、ゼンショーの資本力と組織統合によるシナジーを考えれば、今後の急拡大は十分にあり得ます。格安でおいしいイタリアンを求める消費者にとって、両チェーンの切磋琢磨は大きなメリットとなるでしょう。今後の出店動向や価格戦略に注目です。
参考資料:
関連記事
ゼンショー小川賢太郎氏が問うた格差論の本質
全共闘から外食王へ転身した創業者が残した格差・メディア批判の視座
サイゼリヤが深夜営業で独り勝ちする理由とは
外食チェーンが深夜営業を縮小するなか、サイゼリヤは深夜帯でも客数を伸ばし続けています。低価格戦略と徹底した効率化が生む圧倒的な競争優位性を解説します。
磯丸酒場が示す居酒屋の生存戦略と業態転換の行方
磯丸水産の新業態「磯丸酒場」がドリンク全品399円均一で登場した。物価高騰による値上げが続く中、既存店の業態転換で低価格路線を打ち出す狙いとは何か。SFPホールディングスの吸収合併や特定技能外国人の受け入れ停止など、居酒屋業界を取り巻く構造変化と新業態が示す生存戦略を産業動向の視点から読み解く。
鰻の成瀬が5800万円で身売り、株主間で法廷闘争へ
急成長うな重チェーン「鰻の成瀬」の運営会社FBI社が、AIフュージョンキャピタルにわずか5800万円で株式売却される事態に発展。株主間契約違反を主張する少数株主が東京地裁に仮処分を申し立て、法廷闘争が勃発した。381店舗から270店舗へ急縮小した背景にある14億円超の負債と、経営権をめぐる対立の構図を解説。
ゼンショー創業者小川賢太郎氏追悼 1兆円企業化の功罪を読み解く
世界から飢餓と貧困をなくす理念、MMD、1兆円達成と労務・衛生問題の通史全体像整理
最新ニュース
30歳で月収65万円超も!高給企業ランキングの実態
東洋経済新報社のCSR企業総覧2026年版データに基づく、大卒30歳総合職の平均月収が高い企業ランキングを解説。1位は月収65万円超で2年連続の阪急阪神HD、3位にはリクルートHDが約19%増で初のトップ3入り。高給企業に共通する給与制度の特徴や、春闘での賃上げトレンドとの関連を読み解く。
日本の無子化が加速する構造的要因と将来展望
日本では50歳時点の生涯無子率が女性28.3%とOECD最高水準に達し、現在の18歳世代では女性4割・男性5割が生涯子どもを持たない可能性が指摘されている。少子化の主因は「第二子以降が減った」ことではなく「第一子が生まれない」無子化の急増にある。未婚率の上昇、非正規雇用の拡大、東アジア共通の構造的要因からこの危機の深層を読み解く。
成城石井「コンビニ並み」の衝撃──高品質スーパーの価格戦略を解剖
「高級スーパー」の代名詞だった成城石井が「コンビニと値段が変わらない」とSNSで大きな話題に。コンビニの相次ぐ値上げにより価格差が縮小する中、自社セントラルキッチンによる製造や独自の調達網を武器に「高品質・適正価格」を実現する成城石井の経営構造と、物価高時代に変容する消費者の購買行動を企業分析の視点から読み解く。
ジムニー ノマド発売1年の販売実績を検証
スズキが2025年4月に投入した5ドアモデル「ジムニー ノマド」は、発表わずか4日で約5万台を受注し社会現象となった。月間登録台数は増産体制の構築とともに2,500台から5,300台超へと急伸。生産拠点のインド・マルチスズキでの増産計画、2026年の抽選方式による受注再開、そして2型への進化まで、発売1年の販売動向と今後の展望を読み解く。
台湾人が日本に通い続ける理由と五感体験の魅力
訪日台湾人観光客は2024年に604万人を突破し過去最高を更新した。リピーター率84%を支えるのは、四季の自然美や温泉、和食など日本でしか味わえない五感体験への強い憧れである。円安やLCC増便だけでは説明できない、台湾人を惹きつけ続ける日本の本質的な魅力と最新の観光トレンドを読み解く。