kinyukeizai.com
kinyukeizai.com

65歳以上の就業率が高い都道府県の特徴とは

by 小林 美咲
URLをコピーしました

930万人時代の65歳以上就業と地域差

日本では65歳以上の就業者数が増加を続けており、2024年には930万人と21年連続で過去最多を更新しました。働く人の約7人に1人が65歳以上という時代に突入しています。

しかし、高齢者の就業状況は地域によって大きな差があります。総務省「令和4年就業構造基本調査」によると、65歳以上の有業率は都道府県間で最大2倍近い開きが存在します。

なぜこれほどの地域差が生まれるのでしょうか。本記事では、都道府県別の65歳以上有業率ランキングを紹介しつつ、上位県の特徴や高齢者が働き続ける背景を分析します。

65歳以上有業率の都道府県ランキング

男性は山梨県がトップ、甲信・北陸地方が上位

令和4年(2022年)就業構造基本調査の結果によると、65歳以上の男性有業率が最も高いのは山梨県の41.3%です。次いで福井県(40.8%)、長野県(39.6%)、山形県(38.5%)と続きます。

注目すべきは、甲信地方(山梨・長野)と北陸地方(福井)が安定して上位を占めている点です。平成29年(2017年)の前回調査でも長野県と山梨県が共に41.6%で同率1位でした。この地域では高齢者の就業が定着していることがわかります。

一方、全国平均は男女合わせて25.3%であり、都道府県別で見ると大半が20%台に集中しています。30%台に達するのは男性でも数県のみです。

女性は福井県がトップ、共働き文化が背景に

女性の65歳以上有業率では、福井県が23.3%で全国1位です。長野県(22.6%)、山梨県(22.2%)、佐賀県(21.8%)が続きます。

福井県は以前から共働き率が全国トップクラスとして知られています。現役世代から女性が働くことが当たり前の地域文化があり、それが高齢期にも継続していると考えられます。

有業率が低い都道府県の特徴

反対に、65歳以上有業率が低いのは沖縄県や兵庫県、長崎県、福岡県、北海道などです。前回調査で沖縄県は17.6%と唯一の10%台でした。

これらの地域では、第三次産業中心の経済構造や、都市部特有の労働市場の特性が関係していると考えられます。

上位県に共通する地域特性

農業が高齢者の就業を支えている

65歳以上有業率が高い都道府県に共通するのは、農業をはじめとする第一次産業の存在です。産業別に見ると、高齢就業者が最も多いのは「農業・林業」で、就業者全体に占める65歳以上の割合は45.1%と突出しています。

農業には定年がなく、体力や健康状態に応じて自分のペースで働き続けることができます。山梨県のぶどうや桃などの果樹栽培、長野県のりんごや高原野菜、福井県の稲作といった地域の基幹産業が、高齢者の就労を自然に支えています。

自営業・家族経営の比率が高い

甲信・北陸地方は、自営業や家族経営の事業所の比率が比較的高い地域です。雇用されて働くのではなく、自分の農地や商店を持つ形態であれば、年齢による雇止めがありません。

定年退職という概念がない自営業の多さが、結果として65歳以上の高い有業率につながっています。

健康寿命と就業の好循環

長野県は男女ともに平均寿命が全国トップクラスで、健康寿命も長いことで知られています。健康であるから働ける、働くことで健康を維持できるという好循環が生まれています。

内閣府の調査によると、就業の有無は生きがいと統計的に有意な関係にあり、就業していないことは生きがいの低下につながるとされています。

高齢者が働く理由と社会的背景

経済的理由が最多、健康・生きがいも重要

内閣府の「高齢者の経済生活に関する調査」によると、高齢者が働く理由の1位は「生活費をまかなうため」(53.9%)です。年金だけでは生活費を賄えないという現実が浮かび上がります。

2位は「健康によいから」(37.8%)、3位は「生きがいが得られるから」(34.6%)でした。経済的な必要性と、精神的・身体的な充実感の両方が高齢者の就業を後押ししています。

年齢階級別では65〜69歳の就業率が初の50%超え

年齢階級別に見ると、65〜69歳の就業率は52.0%と初めて50%を超えました。70〜74歳は34.0%、75歳以上でも11.4%と、いずれも過去最高を更新しています。

高年齢者雇用安定法の改正により、企業には70歳までの就業機会確保が努力義務として課されており、制度面での環境整備も進んでいます。

産業別では医療・福祉が急拡大

高齢就業者の産業別内訳を見ると、「卸売業・小売業」が132万人で最多、次いで「医療・福祉」が107万人、「サービス業」が104万人です。特に「医療・福祉」分野は10年前の2.4倍に急拡大しており、介護分野での高齢者の活躍が目立ちます。

有業率の裏側にある就労の質と2025年問題

有業率だけでは見えない就労の質

有業率の高さは必ずしもポジティブな側面だけを意味しません。経済的に働かざるを得ない状況や、非正規雇用の割合が高いことも考慮する必要があります。65歳以上の就業者のうち、パート・アルバイトなど非正規の比率は高く、賃金水準も現役世代と比べて低い傾向にあります。

地方の人手不足と高齢者活用のバランス

地方では若年層の流出により深刻な人手不足が続いています。高齢者の就労は貴重な労働力として地域経済を支えていますが、同時に若い世代の雇用機会や賃金水準への影響も検討が必要です。

2025年問題以降の動向に注目

団塊の世代が全員75歳以上となる2025年を過ぎ、今後は後期高齢者の就業をどう支えるかが焦点となります。テレワークの普及やAI技術の活用など、体力面のハンデを補う新しい働き方の整備が求められています。

山梨・長野・福井を支える農業と健康寿命

65歳以上の有業率は都道府県によって大きな差があり、山梨県・長野県・福井県など甲信・北陸地方が安定して上位を占めています。その背景には、農業を中心とした自営業の多さ、共働き文化、健康寿命の長さといった地域特性が存在します。

高齢者の就業は今や日本の労働市場に欠かせない存在です。自分が住む地域の特性を理解し、定年後のキャリアを考える際の参考にしてみてはいかがでしょうか。

参考資料:

小林 美咲

キャリア・教育

キャリア形成・教育改革・リスキリングなど、人と学びの接点を取材。変化する時代に求められる「働く力」を問い続ける。

関連記事

人口減少下でインフレに揺れるFIREを守る労働資産戦略の要点

日本の労働力人口は2025年平均で7004万人に増えた一方、JILPT推計では2040年に就業者が最大956万人減るシナリオもあります。物価高と実質賃金低迷が続く局面で、FIRE計画が直面するインフレ耐性、働く権利の資産価値、家計防衛の再設計を、日銀と公的統計の最新データから具体的かつ詳しく読み解く。

自衛隊員不足が迫る24万人体制の限界と少子化時代の陸自再編論

自衛官の定員は約24万7000人だが、2025年3月末の現員は約22万人、充足率は89.1%に低下した。少子化と高校新卒求人倍率の上昇、若年定年制、7領域の防衛力整備を横断し、陸自中心の定数維持が抱える機会費用と省人化の現実解を読み解く。採用広報や手当増だけでは埋まらない構造問題を、労働市場の視点で整理する。

定年後再雇用の給与激減は古い 公正評価へ向かう人事制度の分岐点

定年後再雇用で給与激減は当たり前という常識は、2026年時点では古くなりつつある。65歳までの継続雇用義務化や70歳までの就業確保努力義務、同一労働同一賃金の流れを踏まえ、説明できる処遇差とできない差の境界線、企業が問われる納得性、公正評価へ向かう人事制度の分岐点と見直しの方向性を最新動向から読み解く。

世田谷区で外国人倍増が映す日本社会の構造変化

世田谷区で外国人住民が10年で倍増。人口92万人の住宅地で進む変化は、日本の少子高齢化と労働力不足、多文化共生の遅れを映す縮図でもある。在留外国人数395万人時代に、受け入れ拡大が地域社会、学校、行政サービス、暮らしの現場に何を迫るのか。構造変化の実像と対応策、自治体が抱える制度設計の難題を読み解く。

大学進学率の都道府県格差が深刻化する背景と課題

大学進学率62.3%で過去最高の一方、都道府県別では70%超と40%未満が並ぶ深い地域差が続く。大学進学率ランキングを手がかりに、家計負担、人口流出、大学立地、地元就職市場の差がどう進学行動を左右するのかを整理し、東京一極集中の影響や地方の教育機会の不平等、進学率格差の固定化リスクを詳しく分析する。

最新ニュース

星のや奈良監獄が全室スイートで挑む文化財再生ホテル経営の勝算

6月25日に開業する星のや奈良監獄は、明治五大監獄で唯一全貌を残す旧奈良監獄の舎房を9〜11室連ね、全48室の高級滞在へ転換する。刑務所体験ではなく全室スイートを選んだ狙いを、保存コスト、客室単価、ミュージアム連携、奈良観光の分散効果、星野リゾートのブランド戦略、開業後の論点まで企業分析の視点で読み解く。

バークシャー後に浮上する長期保有型の日本株10銘柄候補を読む

バフェット退任後のバークシャーが日本で次に選び得る銘柄を、商社投資と東京海上提携の共通項から分析。Toyota、NTT、MUFG、日立など10社を、事業の耐久性、資本政策、円建て調達との相性、規制リスクで比較し、少数株投資として成立する条件と候補の限界、個人投資家の今後の確認順序を実務的に読み解く。

AI外骨格Hypershell Xが登山を変える可能性と課題

Hypershell Xは腰のモーターとAI制御で脚上げを補助する消費者向け外骨格です。高尾山のような低山で効く場面、公式価格899ドルからの現実味、電池・装着感・下り坂・混雑路の課題、医療機器ではない限界を、電動アシスト自転車との違いも含め、実機レビューと公式仕様から技術と産業動向の両面で読み解く。

手柄横取り同僚に潰されないための職場防衛とメール記録術の基本

令和5年度調査でパワハラ相談があった企業は64.2%。メールのCc外しや発言横取りは、評価と心理的安全性を揺さぶる職場リスクです。手柄を守るメール文面、上司へ相談する事実整理、チームで再発を防ぐ評価ルール、相談前の記録表、評価面談で貢献を埋もれさせない伝え方まで、明日から使える実践策を厚労省指針などから解説。

39歳から痛風と脂肪肝を遠ざける15分ジム習慣の続け方実践入門

痛風発作を繰り返す人や脂肪肝を指摘された働き盛りに向け、尿酸値、肝臓脂肪、15分運動、食事管理の関係を公的資料と医療情報から整理。徒歩圏のジムを続ける仕組み、検査値の見方、飲酒や甘い飲料の減らし方、筋トレと有酸素を組み合わせるコツ、検診前後の記録法と医師に相談すべきサインまで3カ月改善術を実践的に解説。