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トヨタをモビリティ企業へ導くウーブン社とWoven City戦略

by 伊藤 大輝
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はじめに

裾野市のWoven Cityは、目を引く建築や未来都市のイメージだけで語られがちです。ただ、公開資料を追うと、この計画の本丸は不動産開発ではありません。トヨタが自動車メーカーからモビリティ企業へ軸足を移すうえで必要な、ソフトウェア開発、実証、量産展開を一気通貫で回す仕組みづくりです。

実際にWoven Cityは、2025年1月の第1期完成発表を経て、2025年9月25日に正式始動しました。そこに住む「Weavers」と、製品やサービスを持ち込む「Inventors」を組み合わせ、街そのものをテストコースとして使う設計です。本記事では、ウーブン社の実像を、組織再編、車載ソフト、実証都市という三つの側面から整理します。

ウーブン社の正体と再編の意味

TRI-ADから実装会社への転位

現在のWoven by Toyotaは、2023年4月に発足したトヨタ100%出資の子会社です。前身は2018年設立のTRI-ADで、2021年にはWoven Planetへ改称し、自動運転や地図、車載ソフトの基盤整備を進めてきました。会社概要によると、本社は東京日本橋、従業員数は2024年1月時点で2212人です。事業の柱として、Arene、AD-ADAS、Woven Cityが明示されています。

重要なのは、2023年以降の位置づけです。トヨタは同年、ウーブン社を次世代車の中核技術を担う会社と明示し、Areneを2025年から車両展開、次世代BEVへも広げる方針を示しました。さらに2023年9月には、ウーブン社を完全子会社化し、ソフト開発をトヨタから委託する形へ切り替えています。資料から見ると、研究所的な別働隊から、量産の責任を負う実装会社へ役割が変わったと読むのが自然です。

トヨタ本体・デンソーとの役割分担

この再編でもう一つ見逃せないのが、トヨタ、ウーブン社、デンソーの三者連携です。2023年9月の公表では、三社で組織と人材を組み替え、ソフト中心で価値を高める体制に移るとされました。つまりウーブン社は、トヨタ本体から独立した実験組織というより、グループ横断のソフト統合拠点に近い存在です。

その意味で、ウーブン社の仕事は「未来都市の演出」ではありません。車の知能化を進めるための共通基盤を作り、グループ全体の開発速度と再利用性を上げることです。Areneが複数車種へ広がれば、車種ごとに個別最適化してきた従来型開発から、共通部品を積み上げるソフト量産へ踏み込めます。トヨタの舳先を変えるとは、EVを増やすこと以上に、開発様式そのものを変えることを意味します。

実証都市と車載ソフトが結ぶ量産化への導線

Woven Cityが都市でなくテストコースである理由

Woven Cityの公式説明は一貫していて、これは「都市」ではなく「モビリティのテストコース」です。中核概念は、A Living Laboratory、Human-Centered、Ever Evolving Cityの三つです。Inventorsが持ち込む試作品を、住民や来訪者であるWeaversが日常の中で使い、リアルタイムの反応を返す。さらにDigital Twinで仮想空間上の検証も並行させる仕組みになっています。

街路設計も、その目的に合わせて作られています。地上道路は歩行者専用、歩行者とパーソナルモビリティの共用、車両専用の三層に分かれ、地下には天候の影響を受けにくい搬送路があります。信号や多機能ポールには、モビリティとインフラを連動させる前提が埋め込まれています。見栄えのよい未来都市というより、ソフト、センサー、移動体、生活導線を同時に試す試験設備と考えたほうが実態に近いです。

実証テーマも幅広いです。トヨタ側はe-Palette、三輪EVのPMV、自律ロボットによるSummon Shareを持ち込み、ウーブン社側はSmart Logisticsや次世代遠隔コミュニケーションを担います。加えて、ダイキン、日清食品、UCC、Z会、後にはトヨタグループ各社やInterstellar Technologiesなども加わりました。ヒト、モノ、情報、エネルギーをまたぐのは、クルマ単体では作れないサービス価値を、街で検証するためです。

RAV4で始まったArene量産の意味

ウーブン社の真価を測るうえで、より重要なのはWoven CityそのものよりAreneの量産実装です。2025年5月、ウーブン社は新型RAV4にAreneを搭載したと発表しました。RAV4は180超の国と地域へ順次展開される世界量販車であり、ここに初採用された意味は大きいです。ショーケース向けの技術ではなく、量産車の品質、保守、継続更新に耐えるかが問われる段階に入ったからです。

Areneは、SDK、仮想検証ツール、データ基盤の三層で構成されます。新型RAV4では、音声エージェントやセンターディスプレイ、Toyota Safety Senseの一部機能に加え、周辺物体検知やドライバー状態監視にも使われています。統合報告書2025でも、トヨタはAreneをSDVの量産基盤と位置づけ、RAV4から得るデータを起点に改良を広げる考えを示しました。資料を総合すると、Woven CityはAreneを試す場所であり、RAV4はAreneを稼ぐ場所だと言えます。

ここで見えてくるのは、ウーブン社の評価軸です。街に何人住んだかより、ソフトを何車種へ横展開できたか、OTAや仮想検証で開発期間をどこまで縮められたかのほうが重要です。2025年1月時点の資料では第1期住民は最終的に約360人規模、同年9月の正式始動時点では約300人規模と説明が揺れていました。これは計画の曖昧さというより、固定完成品ではなく、検証を重ねながら組み替える「未完成の街」という性格をよく示しています。

注意点・展望

ただし、ウーブン社がすぐにトヨタ全体をソフト企業へ変えるわけではありません。Deloitteの2024年調査では、SDV戦略で中央集権型の意思決定を採るOEMは69%に上る一方、技術部門と事業部門の認識差も大きいとされました。大企業ほど、技術の正しさだけでなく、組織を横断して同じ土俵で開発を進める難しさがあります。

トヨタグループが2025年5月に五社連携でToyota Software Academyを立ち上げ、約100講座を用意したのも、その課題の裏返しでしょう。ウーブン社だけに任せても変革は完了しません。ソフト人材、車両法規、安全文化、現場のものづくりを同時に再設計して初めて、AreneやWoven Cityの成果は全社へ波及します。

今後の注目点は明確です。Woven Cityでは一般来訪者の受け入れが2026年度以降に予定されており、実証の幅は広がる見通しです。一方で、投資家や業界が見るべき数字は、入居率よりも、Arene搭載車種数、ソフト更新頻度、ADASの改善速度、そしてグループ横断での再利用度です。

まとめ

ウーブン社の実像は、未来都市を見せる広報組織でも、トヨタ本体から切り離された研究所でもありません。Areneで車載ソフトを量産し、AD-ADASで安全機能を磨き、Woven Cityで生活空間まで含めた実証を回す、トヨタの変革装置です。

2025年9月25日にWoven Cityが正式始動し、同年5月にはAreneがRAV4に入ったことで、構想はすでに実装段階へ進みました。これから問われるのは、街の話題性ではなく、ウーブン社がトヨタの開発速度、品質、事業領域をどこまで実際に変えられるかです。そこにこそ、この会社の本当の価値があります。

参考資料:

伊藤 大輝

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