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若手が離れる労働組合レク、ボウリング大会が残り続ける理由とは

by 佐藤 理恵
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ボウリング大会が象徴する労組の曲がり角

労働組合のボウリング大会は、単なる余暇イベントではありません。組合が「組合員とどう接点を持つか」を映す、わかりやすい経営指標です。参加率が下がっているのに恒例行事として残り続けるなら、問題は若手の協調性ではなく、組合活動の価値設計にあります。

いま組合に問われているのは、親睦そのものの否定ではありません。仕事後や休日の時間を使う活動が、賃金、働き方、職場環境の改善という本来の便益とつながって見えているかです。組合費と時間を預かる組織である以上、活動の費用対効果は避けて通れません。

本稿では、公開統計と職場イベント調査をもとに、ボウリング大会型レクリエーションが残る構造を読み解きます。焦点は、組合員の満足度ではなく、労使関係を支える「交渉力への投資」として機能しているかです。

組織率低下と若手認知のねじれ

過去最低圏に沈む推定組織率

厚生労働省の令和7年「労働組合基礎調査」によると、2025年の労働組合数は2万2244組合、労働組合員数は992万7000人でした。組合員数は前年より1万5000人増えましたが、雇用者全体に占める推定組織率は16.0%で、前年から0.1ポイント低下し、過去最低とされています。

この数字が示すのは、組合がなくなっているというより、働く人の増加や雇用形態の多様化に組織化が追いついていない現実です。パートタイム労働者の組合員数は149万4000人と過去最高に達しましたが、推定組織率は8.8%にとどまります。組合がカバーしている世界と、職場の実態との間に広い空白があります。

労働組合法は、労働者が使用者との交渉で対等の立場に立つことを促進する制度です。ところが、現場で見える組合活動がレクリエーション中心であれば、若手には「交渉のための組織」ではなく、「よくわからない任意参加イベントの運営団体」に映ります。ここに、制度上の役割と日常的な見え方のズレがあります。

連合の「連合および労働組合のイメージ調査2026」では、労働組合を知っている人は全体で81.0%でした。一方、10代では57.0%にとどまり、勤務先での加入状況も「加入している」が20.9%、「加入していない」が56.8%、「わからない」が22.3%です。知られていないだけでなく、自分が関係者なのかも判然としない層が残っています。

不満の受け皿になりきれない相談機能

同じ調査では、現在働いている人の59.2%が仕事や職場に不満を持つと回答しています。内容は「賃金が低い」が28.3%で最も多く、人間関係、労働条件、会社の将来不安が続きます。つまり、組合が扱うべきテーマは十分に存在しています。

しかし、不満解消のために労働組合へ相談した人は1.8%にすぎません。人事や上司への相談も12.5%にとどまり、「何もしていない」は67.8%でした。これは、組合への不信だけではなく、相談する手間、結果への期待値、相談経路の見えにくさが重なった結果です。

この状況でボウリング大会を前面に出すと、組合のブランドはさらにぼやけます。若手が求めているのは、余暇を共有する場そのものではなく、職場で困ったときに使える窓口、賃上げや配置、評価、ハラスメント、育児介護との両立に関する具体的な改善です。レクリエーションが悪いのではなく、入口としての優先順位が古くなっています。

見落とせないのは、若い世代が組合に無関心一色ではないことです。2026年調査では、今後も労働組合に加入したい、または加入し続けたい人は全体で35.4%、20代では45.0%でした。組合未加入者でも27.5%が加入に前向きです。つまり、需要は消えていません。需要と提供価値の結びつけ方が弱いのです。

レクリエーション予算が隠す費用対効果

イベント継続を生む予算と慣性

定番レクがなくならない理由の一つは、組合財政の構造にあります。連合総研の「第21回労働組合費に関する調査報告」では、単組の一般会計収入決算額は平均2億6217万円でした。支出では人件費が36.2%、活動費が25.6%を占め、両者で約6割に達しています。

活動費は、組合活動を維持するために必要な支出です。ただし、毎年の予算配分が固定化すると、過去に実施してきた行事が「今年もやるもの」として残ります。財務諸表でいえば、ゼロベースで投資判断されない販管費のようなものです。成果指標が曖昧なまま続く支出は、組合員から見れば費用ではなく負担として認識されます。

産労総合研究所の2014年調査では、余暇・レク行事を実施している企業のうち、社員旅行が46.0%、ボウリング大会が35.0%、ゴルフコンペが30.0%でした。ボウリング大会は、準備が比較的容易で、人数をまとめやすく、年齢層を問わず参加できるという運営側の利点があります。この「運営しやすさ」が、参加者側の価値とずれる温床になります。

若手にとって問題なのは、ボウリングそのものではありません。勤務時間外に、上司や先輩を含む集団へ気を使いながら参加することの心理的コストです。リクルートマネジメントソリューションズの若手・中堅社員調査では、仕事と生活の優先度について「生活重視」が75%、「仕事重視」が25%でした。仕事以外の時間をどう使うかは、以前より明確に個人の選択領域になっています。

交流よりも交渉成果への期待

社内イベントへの拒否感も、単純な「人付き合い離れ」では説明できません。ジー・ブーンの若手会社員調査を報じたマイナビニュースによれば、18〜35歳の若手会社員505人のうち、社内イベントや懇親会に「全く参加していない」は34.5%でした。一方、現在の会社の社内イベントや懇親会に負担や苦痛を感じる人は合計49.9%です。

同調査では、直近で参加したイベントの内容は「飲み会・食事会」が71.0%で最多、「レクリエーション・ゲーム大会」は16.0%でした。さらに、イベントのクオリティが帰属意識に影響すると考える人は61.3%に達しています。若手は交流を全否定しているわけではなく、意味の薄い交流や気疲れの大きい交流に敏感なのです。

東京商工リサーチの2025年調査でも、忘・新年会を実施する企業は57.8%で、前年から低下しました。コロナ禍前は実施していたが今回は実施しない企業の理由では、「開催ニーズが高くない」が67.3%で最多です。企業側も、従来型イベントの需要低下を認識し始めています。

一方で、Job総研の2025年忘年会意識調査では、20代の参加意欲は71.0%と年代別で最も高い結果でした。参加したくない理由は「プライベートを優先したい」が56.5%で最多ですが、参加したい理由では「メンバーとの関係構築」が上位です。ここから見えるのは、若手が交流嫌いなのではなく、交流の目的、相手、拘束時間、心理的安全性を選びたいということです。

組合に期待される役割も同じです。連合の2026年調査では、連合と労働組合に期待することの1位は「賃金・労働条件の改善」で31.5%でした。続いて「雇用・労働に関わる法制度の改善」20.2%、「職場の働き方改革サポート」20.1%です。若手がボウリング大会に乗らないのは、組合の価値を軽んじているからではなく、組合の主要商品が見えにくいからです。

職場改善型の参加設計への転換

選択制と小口改善の組み合わせ

組合活動の再設計で重要なのは、レクリエーションを廃止するか残すかという二択ではありません。必要なのは、親睦型、相談型、交渉型、学習型の活動を分け、参加者が目的に応じて選べる構造です。ボウリング大会を残すなら、参加しない人にも同等の組合価値が届く設計が必要です。

たとえば、組合費の使途を「賃上げ交渉」「職場改善」「相談対応」「交流活動」に分類し、年次で見える化する方法があります。会計上の支出科目だけではなく、組合員に返ってきた便益を示すことが大切です。食堂の混雑改善、休憩室の設備、シフト希望の透明化、育児介護制度の周知など、小さな改善も案件として可視化すれば、組合の存在意義は伝わりやすくなります。

若手の参加を増やすには、参加単位を小さくすることも有効です。夜の大人数イベントより、昼休みの短時間相談会、匿名アンケート、部署横断のテーマ別チャット、15分の制度説明会のほうが、参加の初期コストは低くなります。組合活動は、濃い参加者を囲い込むだけでは広がりません。薄い接点を何度も用意する設計が必要です。

労使対話を人的資本経営に接続

会社側にとっても、組合の空洞化は他人事ではありません。従業員の不満が労使対話に乗らず、上司にも相談されず、退職や沈黙として現れるなら、人的資本の毀損です。エンゲージメントサーベイだけでは拾いにくい現場の摩擦を、組合が制度改善へ翻訳できれば、労使双方に利点があります。

厚生労働省の2026年民間主要企業春季賃上げ集計では、資本金10億円以上かつ従業員1000人以上の労働組合のある企業428社について、平均妥結額は1万8167円、賃上げ率は5.18%でした。3年連続で5%台の高水準です。もちろん大企業中心の集計ですが、組合が賃金交渉の制度的な担い手であることは明確です。

内閣府の分析でも、2025年の一人当たり平均賃金の改定率は、労働組合がある企業で4.8%、ない企業で4.0%とされています。傾向スコアを使った試算では、組合のある企業に所属する労働者は、ない企業に比べて賃金上昇率が0.6ポイント程度高かったとされます。少なくとも足元では、組合の有無が賃金改善と無関係とは言い切れません。

だからこそ、組合は「イベント運営団体」から「職場改善の投資主体」へ見え方を変える必要があります。ボウリング大会は、成果を生む接点の一つなら残せます。しかし、活動の中心に置くなら、賃金や働き方を変える組織としての信頼を薄めるリスクがあります。

組合価値を測る三つの経営指標

今後の組合活動は、参加人数だけで評価しないほうがよいです。見るべき指標は、第一に相談接続率、第二に交渉案件化率、第三に改善実装率です。どれだけ集まったかではなく、どれだけ困りごとが届き、会社との対話に乗り、制度や職場環境として変わったかを測るべきです。

ボウリング大会が残り続ける背景には、善意、慣例、予算、運営のしやすさがあります。ただし、若手が求めるのは「休日に仲良くする場」よりも、「働き方を少しでもよくする回路」です。組合がその回路を見せられれば、若手は離れるだけの存在ではなく、むしろ新しい参加者になります。

企業にとっても、組合を古い慣行として片づけるのは得策ではありません。賃上げ、定着、職場改善、心理的安全性をめぐる対話基盤として再設計できれば、労働組合は人的資本経営の重要なインフラになります。定番レクを続けるかどうかより、その背後にある組合価値の棚卸しこそが急務です。

参考資料:

佐
佐藤 理恵

企業分析・M&A

会計士としての経験を活かし、企業の財務構造やM&A戦略を深掘り。数字の裏にある経営者の意思決定を読み解く。

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