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内密出産の法整備が進まない日本の現状と課題を解説

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はじめに

「内密出産」とは、妊婦が医療機関にのみ身元を明かし、行政上は匿名のまま出産できる仕組みです。望まない妊娠や家庭の事情で追い詰められた女性が、安全な環境で出産し、生まれた子どもの命を守ることを目的としています。

2021年12月に熊本市の慈恵病院で国内初の内密出産が実現して以降、利用件数は年々増加しています。2025年12月時点で累計60件に達し、直近1年間では過去最多の22件を記録しました。しかし、この制度には法的な根拠がなく、ガイドラインのみで運用されているのが現状です。

本記事では、内密出産制度の現状と課題、そして母子を救うために求められる法整備について解説します。

内密出産制度の仕組みと現状

ガイドラインに基づく運用の実態

内密出産は2022年9月に厚生労働省と法務省が連名で公表したガイドラインに基づいて運用されています。このガイドラインでは、医療機関が内密出産を受け入れる際の手順や、診療録の取り扱い、出自情報の管理方法などが示されています。

しかし、法律に基づく制度ではないため、内密出産を受け入れる医療機関は全国でわずか2カ所にとどまっています。2007年に「こうのとりのゆりかご」(赤ちゃんポスト)を設置した熊本市の慈恵病院と、2025年3月末に「ベビーバスケット」の運用を開始した東京都墨田区の賛育会病院のみです。

利用者の傾向と背景

慈恵病院が公表したデータによると、内密出産を利用した女性の年齢層は20代が44人と最も多く、19歳以下が12人、30歳以上が4人です。利用の理由として最も多いのは「母親に知られたくない」で24人に上ります。

居住地域は九州が20人で最多ですが、関東からの利用者も19人と多く、地理的に離れた地域からわざわざ熊本まで訪れている実態が浮かび上がります。全国に受け入れ施設が2カ所しかないことが、妊婦にとって大きな負担となっていることは明らかです。

出産後に匿名を撤回した女性は23人おり、そのうち14人が実親や里親による養育を希望し、9人が特別養子縁組を求めています。匿名での出産を選んだ女性の多くが、状況が落ち着いた後に子どもとのつながりを望んでいることがわかります。

法整備の壁と「出自を知る権利」の課題

刑法との矛盾が生む法的リスク

内密出産の最大の課題は、現行法との矛盾です。母親の身元を知りながら、それを伏せて出生届を提出する行為は、刑法の「公正証書原本不実記載罪」に問われる可能性があります。現在はガイドラインによって事実上の運用が認められていますが、法的なリスクを抱えたまま医療機関が対応している状況は、制度として持続可能とは言えません。

信濃毎日新聞は社説で「政府は制度化に踏み出せ」と主張し、新潟日報も「法制化の議論を急がねば」と訴えています。特定の病院や自治体の善意に頼る現状を変えるべきだという声は、全国の報道機関から上がっています。

子どもの「出自を知る権利」をどう保障するか

内密出産で生まれた子どもには、将来自分の出自を知る権利があります。国連の「子どもの権利条約」第7条は、子どもが出生後直ちに登録され、できる限りその父母を知る権利を有すると定めています。

日本弁護士連合会も、出自を知る権利の保障が不十分であることに懸念を示しています。現行のガイドラインでは、母親の身元情報を医療機関が保管し、子どもが一定の年齢に達した際に開示する仕組みが想定されていますが、情報管理の期間や開示の条件について明確な法的根拠がありません。

ドイツでは2014年に「内密出産法」を施行し、母親の身元情報を連邦家庭・市民社会課題庁が管理する制度を整えました。子どもは16歳以降に出自情報の開示を請求できます。日本でもこうした先進国の事例を参考にした法整備が求められています。

注意点・展望

全国規模での署名活動も始まる

内密出産の法制化を求める動きは市民レベルでも活発化しています。全国規模の署名活動がスタートしており、赤ちゃんと母親の命を守る制度の確立を訴えています。国会でも匿名出産に関する質問主意書が提出されるなど、立法に向けた議論は少しずつ動き始めています。

受け入れ施設の拡大が急務

現在、内密出産を受け入れる施設は全国で2カ所のみです。大阪府泉佐野市が行政主導での赤ちゃんポスト設置を目指して慈恵病院に視察団を派遣するなど、新たな動きも見られます。しかし、運営費は基本的に医療機関の自己負担であり、公的な財政支援がなければ全国への展開は難しい状況です。

孤立出産や新生児遺棄を防ぐためには、内密出産の法制化とあわせて、妊娠期からの相談体制の充実、経済的支援、養子縁組制度の整備など、包括的な支援策が必要です。

まとめ

内密出産は、追い詰められた妊婦と生まれてくる子どもの命を守るための重要な仕組みです。4年間で60件という実績は、この制度に対する社会的なニーズの高さを示しています。

しかし、法的根拠のないまま一部の医療機関に運用を委ねている現状は、母子双方にとってリスクを伴います。出自を知る権利の保障、受け入れ施設の拡大、運営費の公的支援など、解決すべき課題は山積しています。母親を孤立させず、子どもの権利も守る制度の実現に向けて、法整備の議論を加速させることが急務です。

参考資料:

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