東京初の赤ちゃんポスト1年、見えてきた成果と課題
東京初ベビーバスケット開設1年の実像
2025年3月31日、東京都墨田区の賛育会病院が「ベビーバスケット」(赤ちゃんポスト)と「内密出産」の受け入れを開始しました。熊本市の慈恵病院が2007年に「こうのとりのゆりかご」を設置して以来、国内では18年ぶり、2カ所目の赤ちゃんポストとなります。
開設から約1年が経過した現在、複数の赤ちゃんが預けられ、内密出産の相談も多数寄せられています。NHK「クローズアップ現代」でも密着取材が放送されるなど、社会的な関心は高まっています。
本記事では、東京初の赤ちゃんポストの運用実態と、現場で浮かび上がった課題について解説します。
賛育会病院「ベビーバスケット」の取り組み
産科・小児科病院ならではの体制
賛育会病院は社会福祉法人賛育会が運営する、産科と小児科を中心とした病院です。「赤ちゃんのいのちを守るプロジェクト」として、ベビーバスケット(赤ちゃんポスト)と内密出産の2つの支援を同時に開始しました。
ベビーバスケットは病院1階に設置されており、対象は生後4週間以内の新生児です。病院の事務棟と入院棟の間にある通路に設けられ、グリーンのパトランプが目印となっています。赤ちゃんが預けられるとアラームが作動し、医療スタッフが即座に対応する仕組みです。
内密出産については専用ダイヤルで相談を受け付けており、妊婦は病院のスタッフにのみ身元を明かして出産できます。出産費用は原則約50万円ですが、経済的な状況に応じて柔軟に対応しています。
開設後に見えた利用の実態
賀藤均院長は、開設から5カ月の時点での状況について、ベビーバスケットへの預け入れと内密出産の相談がいずれもあり、対応可能な件数に収まっていると説明しています。実績としては預け入れの件数が内密出産を上回っています。
特に注目すべきは、預け入れに訪れた女性が全員、自宅など医療機関の外で出産していたという事実です。医療者が立ち会わない環境での出産は、母体にも新生児にも重大な健康リスクを伴います。赤ちゃんポストが命を救う最後の砦として機能している一方で、そこに至る前の段階での支援が不足していることを示しています。
現場が直面する課題と葛藤
想定外の相談への対応
内密出産の相談件数は多いものの、想定していなかったケースも少なくありません。「父親にだけ知られたくない」「不倫で子どもができたことを隠したい」など、特定の相手にだけ妊娠を知られたくないという相談が多く寄せられています。
こうした相談が全て内密出産の対象になるのかどうか、現場では判断に苦慮しています。内密出産は本来、身元を完全に伏せて出産する制度です。特定の人物にだけ秘密にしたいというニーズは、内密出産とは異なる支援策が必要な場合もあります。
運営費の負担と公的支援の不在
赤ちゃんポストの運営には、施設の維持管理費、24時間対応のスタッフ配置、預けられた子どもの医療ケアなど、多額の費用がかかります。福祉新聞の報道によると、賛育会病院では運営費を法人が負担しており、国や自治体からの公的な財政支援は限定的です。
慈恵病院も同様の課題を抱えており、18年間にわたり累計193人の赤ちゃんを受け入れてきた「こうのとりのゆりかご」の運営を、法人の負担で続けています。民間の善意に頼る現状では、全国的な展開は困難です。
法的な枠組みの不備
東京新聞は社説で「内密出産施設 民間任せの現状変えよ」と指摘しています。内密出産には法的な根拠がなく、ガイドラインのみで運用されている状態です。預けられた子どもの戸籍や養育先の決定、将来の出自情報の開示など、法律で明確に定められていない事項が多く残されています。
大阪府泉佐野市が行政主導での赤ちゃんポスト設置を検討し、慈恵病院に視察団を派遣するなど、新たな動きも出ています。しかし、法制化なしには自治体も踏み出しにくいのが実情です。
孤立出産防止と受け入れ施設全国整備
孤立出産を防ぐための包括的支援
赤ちゃんポストは「最後の砦」として重要な役割を果たしていますが、本来はそこに至る前の段階で母親を支援することが理想です。妊娠期からの相談窓口の充実、経済的支援、住居の確保など、包括的な支援体制の整備が求められています。
賀藤院長自身も「赤ちゃんポストの必要がない社会を築くべきだ」という考えを示しており、赤ちゃんポストの運用と並行して、予期せぬ妊娠に対する相談支援にも力を入れています。
全国への展開に向けて
慈恵病院と賛育会病院の2カ所だけでは、全国の需要に応えきれません。慈恵病院の内密出産利用者の居住地域を見ると、九州以外からの利用が6割を超えており、遠方から訪れる妊婦の負担は大きいです。首都圏に賛育会病院ができたことは前進ですが、各地域に受け入れ施設を整備していくことが今後の課題です。
賛育会病院が示す法整備と公的支援の必要性
東京初の赤ちゃんポストが開設から約1年を迎え、複数の命が救われています。一方で、預け入れた母親が全員医療機関外で出産していた事実は、母子双方の安全を確保するための課題を浮き彫りにしています。
運営費の民間負担、法的枠組みの不備、想定外の相談への対応など、現場の葛藤は尽きません。しかし、賛育会病院の取り組みは、赤ちゃんの命を守るための支援が全国的に必要であることを改めて社会に示しました。法整備と公的支援の拡充によって、民間の善意だけに頼らない持続可能な制度の構築が求められています。
参考資料:
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