コスコ湾岸輸送再開の真相、ホルムズ迂回で進む中東物流網再編戦略
COSCO受注再開に見るホルムズ迂回網
中国の国有海運大手COSCOが湾岸諸国向けの新規受注を再開したことは、一見すると中東物流の正常化に見えます。ですが、公開情報を丁寧に追うと、実態は「海峡の危機が去った」ではなく、「海峡を通れない前提で回る物流網を作り始めた」という動きです。焦点は運航再開そのものより、どの貨物を、どの港まで、どの輸送モードで届けるのかにあります。
今回のニュースが重要なのは、中国と湾岸諸国の輸送が単なる二国間物流ではなく、UAEの再輸出機能やサウジの大型港湾網まで巻き込む広域サプライチェーンだからです。この記事では、COSCOの受注再開の中身、ホルムズ海峡を避ける代替経路、そして今後の注意点を公開情報だけで整理します。
受注再開の中身と前提条件
再開対象の限定性
まず押さえたいのは、今回の再開が全面復旧ではない点です。COSCOは3月4日、UAE、バーレーン、サウジアラビア、イラク、クウェートなどを対象に、ホルムズ海峡を通る新規予約を停止しました。AFP配信を掲載したDaily Sabahによると、この停止は発着の両方向に及び、例外として残されたのはUAEのKhor FakkanとFujairah、サウジのJeddahなど、海峡を通らずに接続できる港でした。
それに対して3月25日の再開告知で確認できるのは、極東からUAE、サウジアラビア、バーレーン、カタール、クウェート、イラク向けの一般コンテナ受注の再開です。ChemNetなどの報道では、この再開は即時発効ですが、中東情勢が不安定なため、予約や実際の輸送条件は変更され得るとされています。公開確認できた文面は「極東発」の一般貨物コンテナ中心であり、3月4日に止まっていた双方向輸送がそのまま元通りになったとは読めません。今回は、需要が強い片方向の輸送から先に戻す段階とみるのが自然です。
再開の背景には、イラン側が非交戦国船舶の通航条件を示したことがあります。ただし、それを過大評価するのは危険です。UNCTADは3月10日時点で、ホルムズ海峡が世界の海上石油貿易の約4分の1を担うと指摘しました。EIAも3月3日更新の分析で、2025年上期の海峡通過量を日量2090万バレルとし、代替パイプラインだけでは全量を代替できないとしています。つまり海峡の緊張が続く限り、コンテナ物流も「どう迂回して採算を合わせるか」の局面にあります。
海峡を通らない物流設計
この点を最も分かりやすく示しているのが、同業CMA CGMの対応です。同社は3月3日に湾岸諸国向けの予約を広く停止した後、3月11日に輸出入予約の再開を発表しました。ただし再開の中身は通常運航ではなく、Jeddahからの保税陸橋、Khor Fakkan・Fujairah・SoharからKhalifaやJebel Aliへつなぐ陸送、さらにそこからのフィーダー輸送を組み合わせる多層構造でした。つまり業界標準は「ホルムズ海峡を安全に通る」から、「海峡の外側まで海上輸送し、そこから陸送や短距離海運で分散配送する」へ変わっています。
Caixin Globalも、COSCOの再開はホルムズ海峡を避ける海陸接続ネットワークを前提にしたものだと伝えています。具体的な全ルートまでは公開確認できませんが、同業他社の公表内容と3月4日の例外港を合わせると、東岸港やオマーン側港湾を受け皿にして、最終目的地へトラックやフィーダーで流す発想が核にあるとみられます。海運会社がいま競っているのは、海上ルートの確保だけでなく、港湾運営、内陸輸送、通関を束ねる総合物流力です。
中東物流網で進む役割分担
UAE東岸港と内陸回廊の浮上
代替網の中で存在感を高めているのが、ホルムズ海峡の外側に位置するUAE東岸港です。Gulftainerによると、Khorfakkan Commercial TerminalはUAEで唯一、海峡の外側にある本格稼働のコンテナターミナルです。UAE向け輸入貨物では、ここを使うと荷主倉庫への到着が他のUAE港より4〜5日早まると説明されています。さらに同ターミナルは18基の岸壁クレーンを備え、年500万TEUの処理能力を持ちます。平時なら「速い選択肢」の一つですが、海峡危機の局面では「止まりにくい選択肢」へと意味合いが変わります。
一方で、UAE物流の最終的な分配拠点としてなお重要なのがJebel Aliです。DP Worldによると、Jebel Ali港は週80超のサービスで150超の港とつながり、JafzaやGCC域内へ広いトラック流動を持つ巨大ハブです。危機時の実務は、東岸側で海上貨物を受け、そこから国内道路網でJebel AliやKhalifaのような消費・再輸出拠点へつなぐ二段構えになります。ECIも2025年11月時点で、中国をUAEにとって最も重要な貿易相手国の一つと位置付けており、止められない商流の厚みが代替回廊整備を後押ししています。
サウジ向け輸送と西岸回廊の重要性
サウジ向け輸送でも、再開の実務は湾内直行だけではありません。CMA CGMはJeddah corridorを明示し、JeddahからDammam、イラク、クウェート、カタール、バーレーン、UAEへ保税陸橋やトラックを組み合わせる枠組みを示しました。これは、サウジ西岸の港を単なる国内向け玄関口ではなく、湾岸域への横持ち起点として使う発想です。紅海側と湾岸側を陸送でつなげば、ホルムズ海峡を通らずに一部貨物を回せるからです。
需要面でも、サウジを軽視できません。Port Technology Internationalが伝えたMawaniの実績によると、サウジ港湾の2025年コンテナ取扱量は前年比10.6%増の830万TEUで、輸出は310万TEU、輸入は320万TEUまで伸びました。湾岸物流の絶対量がなお大きいからこそ、船社は西岸回廊まで含めた代替ルートの整備を急いでいます。
ここから見えるのは、COSCOの受注再開が単なる一社判断ではなく、UAEとサウジを軸にした広域物流の復元作業だという点です。東岸港、西岸港、内陸陸橋を組み合わせれば、完全停止ではなく「高コストだが動く」状態は作れます。その代わり、ボトルネックは海上航路ではなく、港湾混雑、トラック確保、通関処理へ分散します。
一般コンテナ再開後に残る貨物別リスク
今後のニュースで誤解しやすいのは、「受注再開」と「平時復帰」を同義で捉えることです。今回確認できた再開は一般コンテナ中心で、3月4日に停止した双方向の流れが全面的に戻ったとは言えません。同業他社では危険品やリーファー貨物を別建てで止める告知も出ており、貨物の種類ごとに復旧速度は違います。
もう一つの焦点は、代替網の固定化です。Khorfakkanのような東岸港、Jebel Aliのような配送ハブ、Jeddahを起点とする西岸回廊が定着すれば、危機後も「海峡を通らない代替ルート」として残る可能性があります。一方で、UNCTADが指摘するように保険料と海運コストの上昇は続いており、COSCO自身も輸送条件は変更され得ると警告しています。見るべき指標は、双方向予約の復活、危険品の扱い、東岸港の混雑度、西岸から湾岸への陸送回廊の安定度です。
Khorfakkan・Jeddah軸の海陸物流設計
COSCOの湾岸向け貨物受注再開は、中東危機の収束シグナルというより、海峡危機に適応した新しい物流設計の始まりと読むべきです。再開の対象は限定的で、業界全体はKhorfakkanやFujairah、Sohar、Jeddahといった海峡外拠点を使い、陸送とフィーダー輸送を組み合わせる方向へ動いています。
読者がこのニュースを追う際は、「船がまた走り始めたか」だけでなく、「どの港まで海で運び、その先を何でつなぐのか」を見ることが重要です。中東物流の主戦場は、海峡通航の可否だけでなく、港湾と内陸回廊を束ねる総合ネットワークの設計へ移っています。
参考資料:
- COSCO SHIPPING Lines: Resumes New Booking Services for Far East to Six Middle Eastern Countries - ChemNet
- Chinese shipping giant Cosco suspends Gulf services amid conflict - Daily Sabah
- Cosco Restarts Middle East Container Bookings, Skirting Hormuz - Caixin Global
- Middle East Situation Updates - CMA CGM
- Khorfakkan Container Terminal - Gulftainer
- Jebel Ali Port - DP World
- Hormuz shipping disruptions raise risks for energy, fertilizers and vulnerable economies - UNCTAD
- World Oil Transit Chokepoints - U.S. Energy Information Administration
- ECI Strengthens UAE–China Trade Ties During High-Level Delegation Visit - ECI
- Mawani records more than 8 million TEUs in 2025 - Port Technology International
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