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欧州で徴兵制が続々復活、日本への影響は

by 松本 浩司
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ロシア侵攻後の欧州徴兵制復活と日本への波紋

2022年のロシアによるウクライナ侵攻以降、欧州各国で徴兵制を復活させる動きが加速しています。2026年1月にはドイツが18歳男性への登録義務を開始し、デンマークでは女性にも徴兵制が適用されるなど、冷戦終結後に縮小されてきた軍事動員体制が大きく転換しつつあります。

こうした欧州の動きを受け、「日本でも徴兵制が復活するのでは」という懸念の声が上がっています。本記事では、欧州各国の徴兵制復活の最新動向を整理したうえで、日本における徴兵制の可能性を憲法や安全保障の観点から検証します。

欧州で徴兵制が復活する背景

ロシアの脅威とNATOの方針転換

欧州における徴兵制復活の最大の要因は、ロシアの軍事的脅威の高まりです。ウクライナ侵攻は、欧州諸国に「戦争は遠い過去の話ではない」という現実を突きつけました。

2025年のNATOハーグ首脳会合では、加盟国が2035年までにGDPの5%を防衛関連に支出する目標が掲げられました。NATOの高官は「加盟国が徴兵制の運用方法や採用のベストプラクティスについて議論するのは初めてのことだ」と述べており、同盟全体で軍事動員体制の見直しが進んでいます。

志願制の限界と人員不足

もう一つの重要な要因は、志願制による採用の限界です。欧州各国の職業軍人は慢性的な人手不足に直面しており、予備役の高齢化や即応体制の脆弱さが課題となっています。若者の軍離れが進むなか、志願制だけでは必要な兵力を確保できないという認識が広がっています。

欧州各国の具体的な動き

ドイツ:段階的な徴兵制再導入

ドイツは2011年に徴兵制を停止し志願制に移行しましたが、2025年12月に連邦議会が新兵役法案を可決しました。2026年1月1日から施行された新制度では、18歳になった男女にオンラインアンケートが送付されます。男性は回答が義務、女性は任意です。

身体検査は段階的に拡大され、2027年後半には18歳男性全体に義務化される予定です。志願兵には月額2,600ユーロ(約47万円)の初任給が支給されます。さらに、志願制で十分な兵士が集まらない場合には、議会の承認を経て兵役義務を復活させる可能性も法案に明記されています。

北欧諸国:男女平等の徴兵制

北欧諸国は徴兵制の先進的な取り組みで注目されています。ノルウェーは2015年にNATO加盟国として初めて女性への徴兵制を導入しました。スウェーデンは2010年に徴兵制を一時停止しましたが、ロシアのクリミア併合を受けて2017年に男女を対象として復活させています。

デンマークでは2026年から女性にも徴兵制が適用され、兵役期間は男女ともに従来の4か月から11か月に延長されました。ジェンダー平等の理念と安全保障上の必要性を両立させた形です。

バルト三国・東欧:最前線の危機感

ロシアと国境を接するバルト三国は、いち早く徴兵制を復活させてきました。リトアニアは2015年に再導入し、ラトビアも2024年に男性への義務兵役を復活させました。クロアチアは2008年に停止した義務兵役を2026年に復活させることを2025年10月に決議しています。

フランス:新たな志願型プログラム

フランスは2001年に徴兵制を停止しましたが、軍参謀総長が「兵役制度を再び議論すべき時が来ている」と発言しています。2025年11月には10か月間の新たな志願型軍務プログラムを発表し、若者の国防意識の向上を図っています。

日本で徴兵制が復活する可能性

憲法上の明確な制約

結論から言えば、現行の日本国憲法のもとで徴兵制が導入される可能性は極めて低いです。日本政府は一貫して、徴兵制は憲法第18条(奴隷的拘束および苦役からの自由)および第13条(個人の尊重)に違反するとの見解を示しています。

防衛白書でも「徴兵制は、本人の意思に反して兵役に服する義務を強制するもので、平時であると有事であるとを問わず、憲法の規定の趣旨から許容されるものではない」と明記されています。この解釈は歴代の政府によって堅持されており、今後も徴兵制が合憲になる余地はないとされています。

深刻化する自衛隊の人手不足

一方で、自衛隊の人員確保は深刻な課題です。自衛隊の定員約24万7,000人に対する充足率は2024年度に89%と、25年ぶりに9割を下回りました。2023年度の採用達成率はわずか51%と、1954年の自衛隊創設以来の最低記録を更新しています。

少子化による若年人口の減少に加え、セクハラ・パワハラ問題によるイメージ悪化、警察や消防との人材獲得競争の激化が背景にあります。政府は2024年12月に処遇改善の基本方針を策定しましたが、効果はまだ限定的です。

ハイテク軍隊に徴兵制は不要

軍事専門家の間では、現代の自衛隊に徴兵制は不適合だという意見が大勢を占めています。自衛隊はイージス艦やステルス戦闘機など高度な装備を運用するプロ集団であり、隊員の育成には長い時間と専門的な訓練が必要です。短期間で入れ替わる徴兵制では、こうした精強な部隊を維持することは困難です。

むしろ日本が参考にすべきは、欧州の一部が採用している「選択的徴兵制」や志願型プログラムのような、国防意識の向上と人材確保を両立させる柔軟なモデルかもしれません。

経済的徴兵制と東アジア情勢への警戒

「経済的徴兵制」への懸念

法的な徴兵制は導入されなくても、経済的な事情から軍関係の仕事を選ばざるを得ない状況は「経済的徴兵制」と呼ばれ、問題視されています。防衛省が「365日3食食べられます」といった経済的メリットを前面に出した募集活動を行うケースもあり、格差社会が進むなかで議論が続いています。

今後の国際情勢次第で議論が変化する可能性

欧州の徴兵制復活は、安全保障環境の急変がいかに国の軍事体制を変えるかを示しています。東アジアでも中国の軍事的台頭や台湾海峡の緊張が高まるなか、日本の安全保障政策も変化を迫られる可能性があります。徴兵制の直接的な導入は考えにくいものの、予備自衛官制度の拡充や国民保護体制の強化といった形で、国民の国防への関与が深まっていく可能性は否定できません。

欧州徴兵制回帰と日本の自衛隊人材確保

欧州では、ロシアの脅威と志願制の限界を背景に、ドイツ、デンマーク、クロアチアなどが相次いで徴兵制を復活・拡大しています。NATOの枠組みのもと、軍事動員体制の再構築は欧州全体のトレンドとなっています。

一方、日本では憲法上の制約と現代軍事の専門性の観点から、徴兵制の導入は現実的ではありません。ただし、自衛隊の深刻な人手不足は放置できない課題です。処遇改善や予備自衛官制度の見直しなど、志願制の枠内での対策強化が急務と言えるでしょう。欧州の事例を参考にしつつ、日本独自の安全保障体制のあり方を考えていくことが求められています。

参考資料:

松本 浩司

マクロ経済・国際経済

国際経済の潮流を、通商政策・為替・新興国の動向から多角的に分析。グローバル経済の「次の震源地」を見極める。

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