ファーウェイとモメンタが脅かす日系部品の牙城
ファーウェイ・モメンタ8割支配の衝撃
中国の自動車市場で、地場系テクノロジー企業の存在感が急速に高まっています。とりわけ自動運転・先進運転支援システム(ADAS)の分野では、ファーウェイ(華為技術)とモメンタ(Momenta)の2社がサードパーティーサプライヤー市場の約8割を握る「双頭体制」を築きつつあります。
こうした動きは、長年にわたり中国市場で事業を展開してきた日系自動車部品メーカーにとって深刻な脅威です。完成車メーカーの中国販売が落ち込むなか、部品調達の現地化も加速しており、日系サプライヤーは二重の逆風にさらされています。本記事では、中国自動運転市場の勢力図と、日系部品メーカーが直面する構造的な課題を解説します。
ファーウェイとモメンタが築く「双頭体制」
ファーウェイの全方位戦略
ファーウェイは自動車向け統合ソリューション「乾坤(チェンクン)智能駕駛システム(ADS)」を軸に、急速に自動車産業への浸透を進めています。2026年1月時点で、同システムの累計走行距離は72億8,300万キロメートルに達しました。搭載モデルは80車種を超え、累計搭載台数は約300万台に達する見込みとされています。
同社はBYD、東風、アウディ、長安、広汽、北汽など中国内外の主要メーカーとの提携を拡大しています。2025年9月には上汽集団も「鴻蒙智行(HIMA)」に参画し、ファーウェイのエコシステムはさらに拡大しました。LiDAR市場でもファーウェイは2025年1〜8月に41.1%のシェアで首位に立っており、センサー分野でも支配力を強めています。
モメンタの急成長と上場計画
2016年に蘇州で設立されたモメンタは、都市部向けNOA(ナビゲーション・オン・オートパイロット)市場で2025年1〜10月に54%のシェアを獲得し、首位に立ちました。トヨタ、GM、メルセデス・ベンツ、上汽といった世界的な自動車メーカーが同社に出資しています。
2026年3月には香港証券取引所へのIPOを秘密裏に申請し、10億ドル以上の資金調達を目指していると報じられています。企業評価額は1,000億人民元(約145億ドル)を超えるとされ、自動運転専業としては世界でもトップクラスの規模です。BMWとの提携では、次世代BMW iX3に共同開発したシステムを搭載し、2026年中の量産開始を予定しています。
市街地NOAで三つ巴の競争
中国のNOA市場は急速に拡大しており、2025年1〜11月の都市部NOA搭載乗用車の累計販売台数は312.9万台に達しました。市街地向けNOAでは、モメンタ、ファーウェイ、ディープルート(DeepRoute.ai)の3社が激しく競り合っています。2025年10月単月ではディープルートが38%でトップに浮上するなど、勢力図は流動的です。
モメンタのCEOは「中国の自動運転競争は2026年に決着がつく」と述べており、エンド・ツー・エンド(E2E)技術の成熟が勝敗を分けるとの見方を示しています。
日系部品メーカーが直面する構造的危機
完成車シェアの半減と連鎖的な影響
日系自動車メーカーの中国市場におけるシェアは、2020年の23.1%から2025年1〜9月には9.6%まで低下しました。一方、中国系メーカーは2025年に65.3%のシェアを獲得しています。BYDは2024年に前年比41%増の427.2万台を販売し、4年間で販売台数を10倍に伸ばしました。
この完成車レベルでのシェア低下は、部品メーカーに直接的な打撃を与えています。トヨタグループの主要部品メーカーであるデンソーやアイシンは、2025年3月期の業績予想を下方修正しました。アイシンの2024年4〜9月期は減収減益で着地し、中国事業の営業利益は前年同期比23.6%減少しています。
調達先の現地化が加速
日系完成車メーカー自身が、中国市場での生き残りをかけて部品調達の現地化を進めています。コスト競争力のある中国系部品メーカーへの切り替えが加速しており、日系部品メーカーに対しては2〜3割の値下げ要求が出ているとされています。
武漢市日本商工会が2025年7月に実施した調査では、景況感の悪化を示す回答が半数を超えました。東風日産や東風ホンダの生産台数減少が湖北省の日系企業に直接影響を及ぼしています。
ADAS市場での地場勢の台頭
ADAS部品市場においても、中国地場メーカーの存在感は着実に高まっています。2025年1〜8月の運転支援専用ADAS市場では、ボッシュが14.8%で首位を維持しているものの、BYDが13.1%で迫り、デンソーは8.7%にとどまっています。ファーウェイも4.4%のシェアを持ち、今後の拡大が見込まれています。
従来は欧州系・日系のTier1サプライヤーが独占していたこの市場で、中国テック企業やOEMの内製化が進んでおり、既存サプライヤーの立場は急速に変化しています。
日系メーカーの対応策と「敵とも手を組む」戦略
トヨタの中国テック企業との全面提携
トヨタは中国市場での生き残りをかけ、「敵とも手を組む」戦略を打ち出しています。広汽トヨタは2025年6月、モメンタ、ファーウェイとの協業に加え、新たにシャオミ(小米)との提携を発表しました。2026年3月発売予定の中国専売EVフラッグシップセダン「bZ7」には、これら中国テック大手3社の技術が搭載されます。
トヨタのEV「bZ3X」にはモメンタの「6.0インテリジェントドライビングシステム」が搭載される予定です。トヨタはモメンタへの出資も行っており、中国の自動運転技術を積極的に取り込む姿勢を鮮明にしています。
ホンダ・日産も中国技術を採用
ホンダも上海モーターショーでモメンタとの戦略的協力契約を締結しました。日産を含め、日系大手3社がそろって中国製の自動運転技術を採用する構図が生まれています。これは中国市場で求められる技術水準に、日系メーカー独自の開発では追いつけないという現実を反映しています。
2026年E2E競争とSDV対応の岐路
技術依存のリスク
日系完成車メーカーが中国テック企業の自動運転技術に依存する構図は、短期的には競争力の維持に寄与しますが、長期的にはサプライチェーンの主導権を失うリスクをはらんでいます。中国市場に最適化された技術が、グローバル展開にそのまま使えるとは限りません。
部品メーカーの生き残り戦略
日系部品メーカーにとって、従来のエンジン関連部品の需要縮小とEV・自動運転シフトは同時に進行しています。中国市場での価格競争に巻き込まれるだけでなく、技術面でも差別化が求められています。ソフトウェア・ディファインド・ビークル(SDV)への対応や、電動化領域での新たな強みの構築が急務です。
2026年が分水嶺に
モメンタCEOが指摘するように、2026年は中国自動運転市場の勝敗が決まる年になる可能性があります。E2E技術の実用化が進めば、従来型のADAS部品の需要構造は大きく変わります。日系部品メーカーが中国市場での存在感を維持できるかどうか、この1年が重要な分岐点となるでしょう。
ADAS地場勢台頭と日系部品の転換局面
ファーウェイとモメンタを中心とする中国地場企業は、自動運転・ADASの分野で圧倒的な存在感を確立しつつあります。日系自動車メーカーのシェア低下に伴い、部品メーカーは受注減少と調達先切り替えの二重苦に直面しています。
トヨタやホンダが中国テック企業との提携を加速する一方で、日系部品メーカーにとっては従来のビジネスモデルの根本的な転換が求められる局面です。SDVや電動化の領域で新たな価値を生み出せるかが、今後の生き残りを左右することになります。
参考資料:
- 中国NOA市場が本格拡大、ファーウェイ・モメンタ・ディープルートが三つ巴
- 「中国の自動運転競争、2026年に決着」モメンタCEOが見据えるE2E技術の未来
- トヨタ中国、電動化とAI戦略を加速|シャオミ、ファーウェイ、モメンタとの提携を発表
- 2025年の中国乗用車市場、中国系メーカーのシェアが65%を占める
- Huawei powers Chinese automakers’ smart EV ambitions
- Rankings of ADAS component suppliers in China (Jan.-Aug. 2025)
- Momenta confidentially files for Hong Kong IPO
- 日本の自動車企業が三重苦に直面
関連記事
トヨタ事故ゼロへの道、中国EV時代に問うSDV差別化の勝ち筋
中国のNEV販売は2025年に1649万台へ拡大し、2025年3月の小売浸透率は51.1%に達しました。IIHSが部分自動化の安全効果に慎重な見方を示すなか、bZ3XやbZ7で現地技術を取り込むトヨタは、AreneとToyota Safety Senseで「事故ゼロ」と差別化をどう両立するのか。その戦略の核心を解説。
ナイキ再建策の全容 必要な痛みを伴う販路再編の勝算と限界分析
ナイキは2026年3月期第3四半期に売上112.8億ドル、EPS0.35ドルを確保しつつ、在庫整理で約5ポイントの逆風を受けました。卸売再投資、ランニング重視、中国市場のてこ入れ、230百万ドルの構造改革費用、関税圧力まで、短期減収を受け入れる再建策の実像と2027年度以降の勝算を丁寧に読み解きます。
トヨタをモビリティ企業へ導くウーブン社とWoven City戦略
Woven Cityの本質は未来都市の演出ではなく、トヨタをモビリティ企業へ変える実証基盤づくりにある。2025年1月の第1期完成発表と9月25日の正式始動を踏まえ、ウーブン社の組織再編、車載ソフト開発、量産展開を一気通貫で結ぶ戦略を解説。街を使った検証が競争力に変わる仕組みまで整理する。全体像を示す。
ホンダ次世代EV中止で揺らぐSDV戦略とハイブリッド回帰の代償
ホンダが北米向けHonda 0 SUV、Honda 0 Saloon、Acura RSXの開発中止に踏み切った。EV需要減速だけでは片づかない採算悪化、中国でのSDV競争の遅れ、大型投資の重圧が重なり、次世代EV戦略とハイブリッド回帰の代償を分析する。単なる撤退ではなく、事業構造の弱点がどこで露呈したのかまで追う。
最新ニュース
CSR企業ランキング首位デンソーに見る信頼経営と財務力の条件
CSR企業ランキング2026年版でデンソーが18年ぶりに首位へ返り咲き、JT、富士通が続いた。CSR161項目と財務15項目を600点満点で評価する仕組みを踏まえ、人材活用、環境、企業統治、財務健全性の接点を分析。NTTドコモや三井物産が上位を保つ理由も含め、信頼される企業の条件を実務面から読み解く。
Google表参道に見るPixel直営店と生成AI体験の勝算
米国外初の旗艦店Google Store表参道は、Pixel販売よりGemini体験、修理支援、コミュニティづくりを前面に出した。世界のアクティブ端末シェア約1%という制約を、日本で高まるPixel需要とAIの体験設計でどう補うのか。店舗戦略、スマホ市場、Android産業構造、メーカー直販の次の争点を読み解く。
企業が備える内部不正と営業秘密流出、転職時リスク管理の実務策
クラウド、SaaS、生成AIの普及で、営業秘密は短時間で社外へ移せる時代になりました。IPAや経産省の資料、ソフトバンク5G流出訴訟、海外調査を基に、退職者対策とログ監視、法務・人事・情シス連携、SaaS権限棚卸し、社外クラウド遮断まで、内部不正を経営課題として防ぐ実務要点を具体策とともに読み解く。
コニシの稼ぎ頭は木工用ではない老舗企業のインフラ接着技術の現在地
コニシは「ボンド木工用」の印象が強い一方、2026年3月期売上1365億円の中心は工業用・建築用・土木用を含むボンド事業と化成品、工事事業です。営業利益104億円、2027年3月期計画1500億円、インフラ老朽化や自動車・電子材料の需要を踏まえ、市場構造の変化と利益率の差、株主還元の持続力まで読み解く。
中国YMTC急伸が映すNAND市場の供給覇権と日本勢の正念場
中国YMTCが2026年第2四半期のNAND出荷量で世界3位に浮上し、キオクシアを僅差で上回った。AIサーバー向けeSSDの逼迫、Xtackingによる技術進化、武漢工場の増産計画、米中規制が重なるなか、出荷量と売上高の差が示す競争力、日本勢が迫られる製品戦略の転換と投資判断の焦点まで深く読み解く。