大手7社はどこに建てたのか供給地図で読む首都圏集中と地方展開
供給地図で見える大手7社の重心
マンション大手7社、いわゆる「メジャーセブン」は、住友不動産、大京、東急不動産、東京建物、野村不動産、三井不動産レジデンシャル、三菱地所レジデンスで構成されます。単なるブランド連合ではなく、土地取得、再開発、商品企画、販売、管理までを含む大手デベロッパーの勢力図そのものです。
この10年で新築マンション市場は「たくさん建てる」局面から、「どの駅前、どの再開発、どの価格帯に絞るか」を競う局面へ変わりました。本稿では公開統計と各社公式資料を突き合わせ、7社がどの地域に重心を置いてきたのかを読み解きます。
首都圏偏重を生んだ土地と価格の制約
2024年のメジャー7供給シェア
メジャーセブン公式資料によると、7社は2023年に全国で1万3885戸を供給し、全国民間マンション供給の約21.3%を占めました。2024年も7社合計は1万3560戸で、全国供給5万9467戸の22.8%に達しています。新築マンションのおよそ5戸に1戸強が、この7社の物件だった計算です。
2024年の内訳を見ると、野村不動産が3584戸、三井不動産レジデンシャルが3089戸、住友不動産が2618戸で上位を形成しました。三菱地所レジデンスは1770戸、東京建物は991戸、東急不動産は888戸、大京は620戸です。供給量だけで見れば、野村・三井・住友の3社が量の面で一段厚い構図です。
2025年の売主グループ別ランキングでも、野村不動産グループ3190戸、住友不動産グループ2414戸、三井不動産グループ2350戸が上位に残りました。つまり、オープンハウスグループのような新興・分譲専業勢が存在感を増しても、メジャーセブン中核3社の供給力はなお大きいままです。
全国で縮む供給量と首都圏の急減
市場全体は拡大していません。不動産経済研究所版の集計を転載した公開データでは、全国の分譲マンション供給戸数は2016年の7万6993戸から2025年の5万9940戸へ、約22.1%減りました。特に首都圏は3万5772戸から2万1962戸へ、38.6%減と落ち込みが大きい状況です。
一方、近畿圏は同期間で9.4%減、その他地域は6.6%減にとどまります。ここから見えるのは、首都圏が「最大市場」であり続けながら、供給できる土地が急速に細っているという現実です。大手各社は首都圏を捨てたのではなく、より高単価で採算が合う場所に供給を絞り込んできました。
2025年の首都圏供給は2万1962戸で、1973年以降の過去最少となりました。内訳は東京23区8064戸、東京都下2749戸、神奈川県4918戸、埼玉県3153戸、千葉県3078戸です。東京都全体では1万813戸となり、首都圏供給の約半分を占めました。
都心10キロ圏へ寄る大規模物件
供給が減る一方で、価格は上昇しました。2025年の首都圏平均価格は9182万円、東京23区は1億3613万円、都心6区は1億9503万円です。価格高騰は、建設費や人件費だけでなく、都心・駅近・再開発という希少な立地に商品が集中した結果でもあります。
長谷工総合研究所の2025年市場総括では、首都圏の総戸数200戸以上かつ20階以上の超高層物件による新規供給は4530戸で、構成比20.6%と調査開始以来最大になりました。さらに、総戸数200戸以上の大規模物件では、東京駅から10キロ圏内の案件が増え、10キロ圏外の案件は減っています。
この動きは、メジャーセブンの供給地図を理解するうえで重要です。郊外に広く建てるのではなく、都心湾岸、駅前再開発、複合開発、定期借地権など、土地の制約を技術と事業スキームで乗り越えられる場所に集中する傾向が強まりました。
7社別に異なるエリア戦略の輪郭
都心再開発を押さえる三井・三菱・東京建物
三井不動産レジデンシャルは、都心・湾岸・再開発で存在感が強い会社です。公式資料では、パークコート渋谷 ザ タワー、パークタワー晴海、パークコート赤坂檜町ザ タワー、パークシティ武蔵小山ザ タワーなどが事業例として示されています。住宅単体ではなく、駅前や街区全体の価値を作る案件に強みがあります。
三菱地所レジデンスは、都心高級立地とファミリー向け郊外商品の二層構造が特徴です。「ザ・パークハウス グラン」は三番町、千鳥ヶ淵、南青山、麻布仙台坂、神山町など、都心希少立地に集中してきました。一方で、「ザ・パークハウス オイコス」は金沢文庫、赤羽志茂、鎌倉大船など、生活利便と規模感を両立できるエリアに展開しています。
2026年には、三菱地所レジデンスが「ザ・パークハウス グラン」を東京以外で初めて仙台市青葉区広瀬町に展開しました。総戸数47戸の小規模高級物件ですが、都心プレミアムブランドを地方中核都市に持ち込む動きとして注目できます。地方展開は戸数を稼ぐだけでなく、地域の最上位需要を取り込む戦略にもなっています。
東京建物は「Brillia」ブランドで、2026年3月末時点のBrilliaシリーズが287プロジェクト、3万4468戸、JVを含む東京建物分譲物件全体では702プロジェクト、9万6036戸に達します。浜離宮、石神井公園、二番町などの建替え実績もあり、都心既存ストックの再生を新築供給につなげる力が強い会社です。
広域化する野村・住友・東急
野村不動産は、供給戸数でメジャーセブンの中心にいます。2024年に3584戸、2025年にもグループで3190戸を供給し、首都圏を中心としながら地方中核都市にも展開しています。公式資料では、地方創生やコンパクトシティ化を背景に、地方中核都市での良質な住宅供給や駅前再開発を推進するとしています。
「プラウド」は都心高額物件だけでなく、浦和、船橋、府中、武蔵小杉周辺、名古屋、富山、新潟、宇都宮、郡山など、都市機能が集まる拠点に広がってきました。野村の勢力図は、首都圏の厚い供給基盤と、地方中核都市の駅前・中心部を組み合わせる形です。
住友不動産は、大都市圏中心のタワー・大規模物件に強みがあります。同社は首都圏、近畿圏をはじめとした大都市圏を中心に新築分譲マンションを展開すると説明しています。シティタワー、シティテラス、シティハウスといったブランドは、駅前、再開発、湾岸、都市近接の大規模立地と相性が高い商品です。
住友不動産の特徴は、供給場所だけでなく販売姿勢にもあります。市場環境に応じて時間をかけて販売する傾向があり、短期の発売戸数だけでは実力を測りにくい会社です。価格上昇局面では、都心・準都心の在庫を急いで売り切らず、資産性を訴求しながら販売する戦略が取りやすくなります。
東急不動産は、BRANZを軸に首都圏、関西、札幌、名古屋へ広がる会社です。公式サイトでは、白金一丁目西部中地区、十条駅西口地区、JR西宮駅南西地区などの再開発事業が示されています。東急沿線だけに閉じず、都市機能が更新される場所へ入っていくのが近年の特徴です。
2025年のグループ供給では東急不動産グループが1708戸と伸びました。関西圏や地方主要都市の駅近案件も含め、首都圏依存だけではないポートフォリオを作りつつあります。BRANZは環境性能やウェルビーイングを前面に出しており、価格だけでなく商品仕様で差を出す方向へ進んでいます。
大京が抱える全国ストックの意味
大京は、足元の新築供給戸数だけで見ると上位3社ほどの量はありません。ただし、ライオンズマンションの累計供給は大京グループで45万戸超とされ、全国ストックの厚みは別格です。新築供給の勢力図では目立ちにくくても、管理、仲介、再生、建替えを含めた住宅ビジネスでは大きな意味を持ちます。
新築マンション市場が縮むほど、既存ストックの価値は増します。建設費が高騰し、都心用地が限られるなかで、建替えや大規模修繕、リノベーション、管理品質は購入後の資産性に直結します。大京の「どこに建ててきたか」は、今後は「どこにストックを持っているか」とほぼ同じ問いになります。
価格高騰が変える次の供給シナリオ
2026年以降の焦点は、都心集中がさらに進むのか、郊外・地方中核都市に供給が戻るのかです。長谷工総合研究所は2026年の新規供給を首都圏2万3500戸、近畿圏1万6000戸と予測しています。首都圏では都下や千葉県の大規模物件が供給を押し上げる見通しです。
ただし、販売環境は楽ではありません。2025年の首都圏初月販売率は63.9%で、2年連続で70%を下回りました。完成在庫も前年末を上回っています。高所得共働き世帯や資産性重視の購入者が市場を支える一方で、一般的なファミリー層は価格面で新築から離れやすくなっています。
そのため、大手7社の次の供給地図は二極化しやすい構造です。一方には、都心6区、湾岸、駅前再開発、定期借地権を含む高価格帯があります。もう一方には、都下、川崎、横浜、さいたま、千葉の一部、名古屋、京都、神戸、西宮、仙台、広島、福岡など、都市機能が集約する拠点があります。
技術面では、省エネ性能、ZEH、災害対応、EV連携、木材活用などが差別化要素になります。三菱地所レジデンスの仙台物件が地域材やV2Xを取り入れたように、これからのマンションは立地だけでなく、地域資源やエネルギー設計まで含めた産業製品として評価されます。
購入者が読むべき供給地図の使い方
メジャーセブンの勢力図は、「どの会社が一番強いか」だけで読むと見誤ります。野村、三井、住友は供給量と首都圏基盤が厚く、三菱地所レジデンスと東京建物は都心高付加価値と再開発で強みがあります。東急不動産は関西・札幌・名古屋を含む広域展開、大京は全国ストックの厚みが特徴です。
購入者が見るべきポイントは3つです。第一に、物件が都心再開発型、郊外大規模型、地方中核都市型のどれに属するかです。第二に、販売価格だけでなく管理、修繕、定期借地権、将来の再販可能性を確認することです。第三に、その会社が同じエリアで継続供給しているかを見ることです。
過去10年の供給地図が示すのは、大手が首都圏から撤退したのではなく、供給できる場所をより精密に選ぶようになったという変化です。次の10年は、都心の希少立地と、地方中核都市の駅前再開発を同時に見られる買い手ほど、ブランド名の奥にある本当の価値を判断しやすくなります。
参考資料:
関連記事
首都圏マンション短期転売課税で庶民の住宅購入が遠のく本当の理由
マンション短期転売への重課案は投機抑制に見えるが、首都圏新築は上半期平均1億135万円、中古も都心で在庫増と成約減が同時進行。税負担の転嫁、住み替え萎縮、供給制約、金利上昇が重なり、価格は下がりにくい一方で実需層の選択肢がむしろ狭まる。庶民が買えない住宅市場の構造と政策の盲点を最新データから読み解く。
鉄筋コンクリート造は何年もつか、寿命を決める本当の条件と診断法
築50年のRC造を「寿命」と見るのは早計です。法定耐用年数47年と物理的寿命の違い、中性化・塩害・ASR・耐震性の診断、分譲マンション723.6万戸時代に避けられない修繕積立金と合意形成、設備更新や外壁防水の優先順位、中古購入時の確認点まで、100年以上使うための判断基準を技術と管理の両面から解説。
郊外マンション資産価値が落ちにくい首都圏駅前立地選びの新条件
東京23区の新築マンション平均価格は2025年に1億3613万円へ上昇し、首都圏でも郊外検討が現実解となりました。東日本レインズの中古成約価格、人口移動、地価、管理制度を手掛かりに、駅前立地、複数路線、再開発、管理状態、住宅ローン金利、将来の売却余力まで重ね、資産価値が落ちにくい街の条件を読み解く。
新築マンション建設費高騰で逆転するデベとゼネコンの価格交渉力
首都圏新築マンション平均価格は2026年上半期に1億135万円へ上昇し、供給戸数は7,989戸に低迷した。建築費指数、住宅着工、ゼネコン決算、デベロッパー利益率を照合し、請負契約の交渉力がなぜ逆転したのか、価格高止まりの持続性と大手各社の採算重視が住宅供給に及ぼす影響、投資家が見るべき指標まで読み解く。
大和ハウス船橋タワマン千葉最高層で試す高付加価値戦略の採算力
大和ハウスなどが船橋駅前で進める「プレミストタワー船橋」は51階・677戸、最高7億2900万円。首都圏マンション価格が1億円を超え、RC建築費指数も上がる中、用地取得から販売単価、共用部、高額住戸の需要層、共同事業の利益配分、金利上昇リスク、2028年引き渡し時の最終利益率まで採算の条件を読み解く。
最新ニュース
猫2匹と100種の植物が共存、壁を傷めない賃貸DIYの安全設計
築34年の賃貸マンションで、猫2匹と100種超の植物が安全に共存する住まいをどうつくるのか。有毒植物を購入前に学名で照合する方法、壁に穴を開けない突っ張り柱と自立棚の使い分け、荷重・地震・湿気・害虫への備え、猫の逃げ場と動線、退去時の原状回復まで、園芸経験者の発想を一般の賃貸住宅で再現する設計手順を解説する。
無料訪問は怪しい?ホームスタートが孤立する親子を支える仕組み
無料で自宅を訪ねるホームスタートは、研修を受けた子育て経験者が傾聴と協働で親子に寄り添う家庭訪問型支援です。週1回約2時間、4〜6回の活動内容、オーガナイザーによる調整と安全管理、家事代行・託児との違い、2025年度に3271家庭へ届いた実績、利用前に確認したい地域差や限界と相談先まで詳しく解説します。
日本の原潜保有論が再浮上、68年の検討史と国家決断の条件とは
日本の原子力潜水艦構想は、1958年の民間試設計から68年を経て安全保障3文書改定の論点に浮上した。小泉純也元防衛庁長官の「造る意思なし」と孫・進次郎防衛相の「選択肢を排除しない」を起点に、原子力基本法、NPT・IAEA保障措置、建造費、人材、AUKUSの教訓を検証し、導入判断に必要な条件を読み解く。
しまなみ海道の外国人客が3割超 映画ロケ地人気を支える観光設計
映画『汝、星のごとく』の舞台として脚光を浴びる、尾道と今治を結ぶしまなみ海道。2024年度はレンタサイクル13万5735台の32.2%を外国人が占めた。70キロのブルーライン、乗り捨て、電動化、無料の橋梁通行、島文化が生む体験価値を整理し、急増客を滞在消費へ変える地域課題と旅行者が守るべきマナーを読み解く。
恋愛が怖い若者へ、傷つく不安を越えて関係を育てる心の実践処方箋
恋人がいる未婚者は男性19.6%、女性27.8%――最新の出生動向基本調査が示す若者の恋愛離れを、拒絶への敏感さ、男子校・女子校の交流経験、SNS時代の評価不安から分析。林真理子さんの「欲望」を手がかりに、本人が無理なく踏み出す方法と、親が干渉せず自律を支える具体策、安全な関係の境界線まで解説する。