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三菱自動車「冒険する人が好きだ」動画が映す技術継承の物語

by 伊藤 大輝
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三菱自動車動画に宿るWRCとダカールのDNA

三菱自動車がYouTubeで公開したブランド動画「冒険する人が好きだ」シリーズが、自動車業界内で大きな話題を集めています。「継承編」と「未来編」の2本からなるこのシリーズは、ラリーエンジン開発に携わる2人のエンジニアの姿を通じて、三菱自動車のモノづくりの原点を描いた作品です。

かつてWRC(世界ラリー選手権)やダカールラリーで数々の栄光を手にした三菱自動車。その技術的DNAをどのように次世代へ受け継いでいくのか。動画の背景にあるブランド戦略と、ラリーアート復活に向けた取り組みを掘り下げます。

2人のエンジニアが語る「冒険」の意味

ベテラン・幸田逸男氏が伝える「継承編」

「冒険する人が好きだ」継承編に登場するのは、ラリーエンジン開発担当の幸田逸男氏です。1979年に三菱自動車に入社した幸田氏は、ランサーターボやランサーエボリューションでWRCの黄金期を支え、さらにパリ・ダカールラリーの開発にも深く関わってきました。

動画の中で幸田氏は「思い出すのは失敗をしたことばかりだ。でもだからこそ、困難を乗り越えられる。それを伝えるために、この会社に残った」と語っています。このメッセージには、40年以上にわたるモータースポーツ開発の経験と、それを次の世代に伝えたいという強い使命感が込められています。

幸田氏が携わったランサーエボリューションは、1993年に初代が登場。250馬力を発揮するターボエンジンと新開発の4WDシステムを搭載し、1996年から4年連続でWRCドライバーズチャンピオンを獲得しました。1998年にはマニュファクチャラーズタイトルも制覇するなど、三菱のモータースポーツ史に金字塔を打ち立てた車両です。

若手・池田晴奈氏が描く「未来編」

一方、「未来編」に登場するのは同じくラリーエンジン開発担当の池田晴奈氏です。2013年に三菱自動車に入社した池田氏は、もともとモータースポーツの経験がありませんでした。

「思い切って飛び込んだラリーは、できないことだらけの厳しい世界だった。モータースポーツ未経験のエンジニア。だからこそ、やってやろうと思った」という池田氏の言葉は、三菱自動車が掲げる「冒険心」そのものを体現しています。

池田氏は2022年、若手エンジニア育成プロジェクトの一環として往年の名車のレストアに従事しました。三菱の栄光の歴史を実際の車両から学ぶこの経験が、エンジニアとしての成長に大きく寄与したとされています。2025年にはエンジン開発部門へ異動し、ラリー用エンジンの開発を担当するまでになりました。

ラリーアート復活とブランド戦略の全体像

11年ぶりの「ラリーアート」ブランド復活

「冒険する人が好きだ」動画シリーズは、三菱自動車のブランド再構築戦略の一環として位置づけられます。同社は2020年度の決算報告で、2009年度に主要な活動を停止していた「RALLIART(ラリーアート)」ブランドの11年ぶりの復活を宣言しました。

ラリーアートは、三菱自動車のモータースポーツ活動を統括してきたワークスブランドです。新たなラリーアートは、そのヘリテージを大切にしながら「三菱自動車らしさ」と「モノづくりスピリッツ」を最高峰の技術で体現するブランドへと進化させていく方針が示されています。

ブランドメッセージ「Drive your Ambition」のもと、お客様の一歩を踏み出す冒険心を呼び覚ますというコンセプトで展開されるブランド広告は、読売広告社がエージェンシーとして、映像制作会社TYOが制作を担当しています。

ダカールラリーとパジェロの伝説が原点

三菱自動車のモータースポーツの歴史は1967年の国際ラリー挑戦に始まります。特にダカールラリーでは、1983年の初参戦以降、パジェロで通算12回の総合優勝を記録しました。2001年から2007年にかけては前人未踏の7連覇を達成し、「砂漠の王者」として世界にその名を轟かせました。

1997年には篠塚建次郎選手が日本人初のパリ・ダカールラリー総合優勝を成し遂げるなど、極限環境での走破性と信頼性を世界に証明しました。こうした歴史的な背景が、「冒険する人が好きだ」というメッセージの重みを支えています。

最新のモータースポーツ活動とトライトンの躍進

AXCR 2025での総合優勝

ラリーアート復活の象徴として注目されるのが、アジアクロスカントリーラリー(AXCR)への参戦です。2025年8月にタイで開催されたAXCR 2025では、チーム三菱ラリーアートがピックアップトラック「トライトン」で参戦し、チャヤポン・ヨーター選手が16時間15分12秒のタイムで総合優勝を果たしました。3年ぶりとなるこの勝利は、三菱のモータースポーツ復権を印象づけるものでした。

AXCR 2026への連覇挑戦

2026年3月24日には、チーム三菱ラリーアートがAXCR 2026にトライトン3台体制で参戦することが発表されました。8月にタイ国内を約2,000km走破する6日間の行程に挑みます。ドライバーには2022年と2025年大会で総合優勝を果たしたチャヤポン・ヨーター選手を筆頭に、日本人ペア最上位5位入賞の田口勝彦選手らが起用されます。

エンジンや足回りの熟成を図り、これまで以上のポテンシャルで連覇を狙う方針です。動画に登場した幸田氏や池田氏のようなエンジニアたちの技術が、まさにこのラリーの現場で活かされています。

2026年新型SUVと走破性による差別化

新型クロスカントリーSUVの投入も

三菱自動車のブランド戦略は動画やモータースポーツにとどまりません。2026年1月の東京オートサロンで加藤隆雄社長は「本格的なオフロード性能を持つ新型クロスカントリーSUVを2026年に投入する」と明言しました。トライトンの車台をベースにした新型SUVは、2019年に国内生産が終了したパジェロの実質的な後継車とみられています。

ラリーで培った技術を市販車に還元するという三菱の伝統が、再び具体的な形をとり始めています。モータースポーツの現場から生まれる知見が、今後の市販車開発にどう反映されるかが注目されます。

自動車業界における差別化戦略

電動化やソフトウェア定義車両といったトレンドが加速する中、三菱自動車は「冒険」や「走破性」というアイデンティティを軸に差別化を図っています。華やかな先進技術を追うだけでなく、泥臭い現場での技術継承を正面から描いた動画は、他のメーカーにはない独自のブランディングとして評価されています。

ラリーアート復活とAXCR連覇挑戦の布石

「冒険する人が好きだ」シリーズは、単なるプロモーション動画ではありません。WRCやダカールラリーで世界を席巻した技術と精神が、ベテランの幸田氏から若手の池田氏へと受け継がれていく姿を描くことで、三菱自動車の「らしさ」を鮮やかに再定義した作品です。

ラリーアートの復活、AXCRでの連覇挑戦、新型クロスカントリーSUVの投入と、2026年の三菱自動車は攻めの姿勢を強めています。モータースポーツから市販車開発まで一貫した「冒険のDNA」がどのような成果を生み出すのか、今後の展開に注目です。

参考資料:

伊藤 大輝

テクノロジー・産業動向

製造業のDX・新素材開発からモビリティの未来まで、技術革新がもたらす産業構造の変化を現場視点で伝える。

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