新卒3年後定着率が高い企業の共通点と業界傾向を解説
大卒3年以内離職率34.9%の現実
新年度を目前に控え、4月の入社を待つ内定者にとって期待と不安が入り交じる時期です。「入社した会社で長く働けるのか」という疑問は、就職活動中の学生にとっても大きな関心事でしょう。
厚生労働省の最新データによると、大卒新入社員の3年以内離職率は約34.9%にのぼります。つまり約3人に1人が3年以内に退職しているのが現実です。しかし一方で、新卒社員がほぼ全員定着している企業も数多く存在します。
本記事では、『CSR企業総覧(雇用・人材活用編)』2026年版のデータをもとに、新卒社員の3年後定着率が高い企業の傾向や業界別の特徴、そして定着率を高めるための具体的な取り組みについて解説します。
定着率100%を達成した企業は95社
調査の概要と全体像
『CSR企業総覧(雇用・人材活用編)』2026年版では、2022年4月の新卒入社人数(3人以上)と、3年後の2025年4月1日時点の在籍者数を開示した1,226社が調査対象となっています。全体の平均定着率は80.0%でした。
注目すべきは、定着率100%、つまり新卒入社者が1人も辞めていない企業が95社もあったという点です。これは決して少数ではなく、適切な環境を整えれば新卒社員の完全定着は十分に実現可能であることを示しています。
定着率100%企業の顔ぶれ
定着率100%を達成した企業のうち、新卒入社者数が多い順にみると、NTTアーバンソリューションズ(33人)、三菱倉庫(31人)、澁澤倉庫(31人)、三菱HCキャピタル(30人)、東京建物(30人)、乃村工藝社(30人)が上位に並びます。
これらの企業に共通するのは、不動産・倉庫・金融といった比較的安定した業種に属していることです。J.フロント リテイリング(23人)や日本パーカライジング(23人)なども100%を達成しています。入社者数が30人を超える規模で全員が定着しているのは、組織としての人材マネジメントが機能している証拠といえるでしょう。
惜しくも100%に届かなかった上位企業
定着率100%には届かなかったものの、極めて高い水準を記録した企業も注目に値します。任天堂は定着率99.2%(入社121人中120人が在籍)、第一三共は98.9%(91人中90人)、東京エレクトロンは98.7%(227人中224人)という結果でした。
特に東京エレクトロンは227人という大規模採用でありながら98.7%という高い定着率を維持しており、半導体業界の活況と相まって注目されます。同社の2024年度の離職率はわずか0.9%と報告されており、業界全体でも突出した数値です。
業界別にみる定着率の大きな格差
定着率が高い業種とその理由
業種別の平均定着率をみると、最も高いのは電気・ガス業で93.1%でした。続いて医薬品(89.4%)、倉庫・運輸関連業(87.8%)、化学(87.2%)が上位に入っています。
これらの業種に共通する特徴は、事業の安定性が高く、景気変動の影響を受けにくい点です。電気・ガス業はインフラ産業として雇用の継続性が担保されやすく、厚生労働省のデータでも3年以内離職率が10.7%と全業種で最も低い水準にあります。医薬品業界は研究開発に長期的な投資が必要なため、人材の長期育成を重視する傾向が強いことが背景にあります。
定着率が低い業種の課題
一方で、定着率が低かったのは小売業(63.8%)、証券・商品先物(64.7%)、サービス業(68.3%)です。これらの業種ではBtoC(個人向け)ビジネスが中心であり、対人ストレスやシフト勤務による負担が離職につながりやすいとされています。
小売業では全国平均の3年以内離職率が38.5%に達しており、土日祝日の勤務が多くプライベートの時間が確保しにくいことが大きな要因です。証券業界では成果主義のプレッシャーが強く、若手社員にとって精神的な負担が大きいことが指摘されています。
定着率が高い企業に共通する取り組み
待遇と働き方の柔軟性
定着率が高い企業では、報酬面での待遇が充実していることが大前提となっています。たとえば任天堂の平均年収は約988万円、東京エレクトロンも業界トップクラスの報酬水準を維持しています。ただし、待遇だけが定着率を左右するわけではありません。
フレックスタイム制度やリモートワークの導入、年間休日数の増加など、柔軟な働き方を提供する企業ほど定着率が高い傾向にあります。サイボウズは、かつて離職率28%を記録していましたが、社員が自身のライフスタイルに合わせた働き方を選択できる「選択型人事制度」を導入した結果、離職率を3〜5%まで改善させました。
メンター制度と相談環境の整備
リクルートマネジメントソリューションズの調査によると、新人・若手の早期離職を防止するうえで最も効果的な施策の一つが「メンター制度」です。利害関係のない異なる部署の先輩社員がメンターとなり、悩みや不安を気軽に相談できる環境を整えることが、早期離職の防止に大きく寄与します。
四国電力では、人事部門による個別面談の実施や個人の特性・適性を重視した人員配置に取り組んでおり、新卒社員の3年後定着率は97.5%と高い水準を維持しています。
若手の声を経営に反映する仕組み
定着率が改善した企業の中には、「ヤングボード制度」を導入し、若手社員の意見を業務運営に反映させる仕組みを構築しているケースもあります。若手社員が「自分の声が届いている」と実感できる環境は、エンゲージメントの向上に直結します。
定着率80.0%回復と指標の限界
定着率だけでは企業の良し悪しは判断できない
定着率100%は魅力的な数字ですが、それだけで「良い企業」と判断するのは早計です。新卒入社者数が3〜5人程度の企業では、統計的なブレが大きく、偶然100%になるケースもあります。入社者数の規模も合わせて確認することが重要です。
また、定着率が高すぎる企業では、人材の流動性が低く、組織の新陳代謝が進まないというリスクもあります。定着率は一つの指標として参考にしつつ、業務内容や成長機会、企業文化なども総合的に検討すべきでしょう。
今後の見通し
近年の全体的な傾向として、定着率は2017年4月の83.7%から2024年4月の78.4%へと低下傾向にありましたが、最新の2025年4月時点では80.0%に回復しています。コロナ禍の影響が一巡し、企業が働き方改革やリテンション施策に本格的に取り組み始めた成果が表れつつあるといえます。
人手不足が深刻化する中、優秀な人材の確保・定着は企業の最重要課題です。今後も採用段階でのミスマッチ防止やオンボーディング強化、柔軟な働き方の提供など、定着率向上に向けた取り組みは一層加速するでしょう。
CSR企業総覧2026年版が示す95社の教訓
『CSR企業総覧』2026年版のデータからは、新卒3年後の定着率において企業間・業種間で大きな差があることが明らかになりました。定着率100%を達成した95社の存在は、適切な施策を講じれば若手人材の流出を防げることを示しています。
就職活動中の方は、志望企業の定着率データを確認するとともに、メンター制度や柔軟な働き方など、具体的な定着施策の有無にも注目してみてください。企業の人事担当者にとっても、自社の定着率を業界平均と比較し、改善すべきポイントを見極めるきっかけとなるはずです。
参考資料:
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