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年金月5万円の75歳女性がYouTuberで掴んだ逆転人生

by 小林 美咲
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はじめに

「人生詰んだ」と思った瞬間から、まさかの逆転劇が始まることがあります。借金2000万円、10年の介護生活、月5万円の年金――。これだけの逆境を経験しながら、71歳でYouTuberとしてデビューし、今や6万人を超えるチャンネル登録者を持つ人気クリエイターとなった女性がいます。

北九州市在住のロコリさん(75歳)は、プチプラファッションを高見えさせるコーディネート動画で多くのシニア世代から支持を集めています。彼女の歩みは、低年金時代を生きるシニアにとって、セカンドキャリアの新たな選択肢を示す存在といえるでしょう。本記事では、ロコリさんの半生を振り返りながら、シニア世代のデジタル活用の可能性について考えます。

ブティック経営の失敗と2000万円の借金

夢だったセレクトショップの開業

ロコリさんは1951年に福岡県で生まれました。ファッションへの情熱を持ち続けた彼女は、35歳のときに北九州市小倉でブティックを開業します。古いビルをファッションビルに再生するプロジェクトに参加し、東京で仕入れた洋服を並べるセレクトショップとしてスタートしました。

当初は順調だった経営も、事業拡大に伴い徐々に暗転します。仕入れコストの増加や売上の低迷が重なり、最終的にはおよそ2000万円の負債を抱えて廃業に追い込まれました。「地獄を味わった」と、ロコリさん自身が後に振り返っています。夢を追いかけた先に待っていたのは、重い借金という現実でした。

百貨店での返済生活

廃業後、ロコリさんは百貨店の販売員として働き始めます。季節商品やイベント商品を扱う「際物売り場」を転々としながら、日給制で懸命に働く日々が続きました。給料のほとんどを借金の返済に充てる生活が、長年にわたって続いたのです。

華やかなファッション業界とは対照的な、地道な返済の日々。しかし、この経験が後のロコリさんの「お金をかけずにおしゃれを楽しむ」という哲学の原点になったともいえます。限られた予算の中でいかに魅力的に装うか――その感覚は、後にYouTubeで発信するプチプラコーデの礎となりました。

介護と失業――69歳で迎えた転機

10年間の在宅介護

借金返済にようやく目処がつき始めた頃、新たな試練が訪れます。ロコリさんの母親が85歳で認知症を発症したのです。母親はそれまで、72歳からカラオケ教室を3つ運営し、大きなカラオケ大会も主催するほどの活動的な人物でした。その母の介護を、ロコリさんは在宅で約10年にわたって続けました。

介護と仕事の両立は並大抵のことではありません。自分の時間もままならない生活の中で、体力的にも精神的にも消耗する日々が続きます。介護が終わったのは、ロコリさんが69歳のときです。長い介護生活を終えた安堵もつかの間、今度は勤務先の百貨店が閉店してしまいます。職を失い、手元に残ったのは月5万円の年金だけでした。

マクドナルドでのアルバイト開始

月5万円の年金では到底生活が成り立ちません。ロコリさんは69歳でマクドナルドのアルバイトを始めます。年金とアルバイト収入を合わせて月8万円ほどの暮らしでしたが、それでも老後の不安は尽きませんでした。

日本の国民年金の平均受給月額はおよそ5万6000円とされており、2025年度の満額でも月額約6万9300円です。ロコリさんのように自営業期間が長く、厚生年金に加入していなかったシニアにとって、年金だけで生活費を賄うことは極めて困難な現実があります。総務省の家計調査によると、高齢者無職世帯の毎月の不足額は約4万2000円に上るとされています。

71歳でYouTuberデビュー――わずか1カ月で収益化

「低年金シニアエッセイ」から始まった挑戦

2022年8月8日、ロコリさんは71歳でYouTubeチャンネル「70代 ロコリ」を開設しました。最初の動画は「70代の低年金シニアエッセイ」と題し、69歳でマクドナルドでアルバイトを始めた経緯などを、音楽と文章で綴った内容でした。

副収入を得たいという切実な動機から始めたYouTubeですが、結果は予想をはるかに上回ります。チャンネル開設からわずか10日目で視聴数が急上昇し、YouTubeのおすすめチャンネルに掲載されました。そして開設から約1カ月で収益化の条件を達成します。4カ月後には累計再生回数が100万回を突破しました。

プチプラ高見えコーデで支持を獲得

ロコリさんの動画の魅力は、ユニクロ、GU、しまむらといった手頃な価格のブランドを使いながら、上品で洗練された着こなしを提案する点にあります。限られた年金生活の中で培った「お金をかけずにおしゃれを楽しむ」ノウハウは、同世代の視聴者から圧倒的な共感を集めました。

メルカリなども活用し、「宝探し感覚」でおしゃれを楽しむ姿勢は、節約を前向きに捉える新しいライフスタイルの提案でもあります。YouTubeの収益は良い月で12万円ほどになり、かつてのマクドナルドのアルバイトよりも安定した副収入となりました。その後、膝の痛みもあってマクドナルドは辞め、YouTubeの活動に注力するようになっています。

現在のチャンネル登録者数は6万人を超え、月2回程度のペースでゆったりと動画投稿を続けています。無理のない更新頻度で長く続けるという姿勢も、同世代の視聴者に支持される理由の一つです。

出版・連載へと広がる活動の輪

KADOKAWAからの出版オファー

YouTubeのおすすめチャンネルに掲載されたその日、思いがけない出来事が起こります。KADOKAWAの編集者からDM(ダイレクトメッセージ)が届き、「本を出しませんか」という提案を受けたのです。

2023年3月には初の著書『72歳、好きな服で心が弾む、ひとり暮らし』(KADOKAWA)が出版されました。プチプラファッションのコーディネート術に加え、借金や介護、ひとり暮らしの日常を綴ったエッセイが反響を呼びました。ファッションだけでなく、逆境を乗り越えてきた人生そのものが、読者の共感を呼んでいます。

新聞連載とメディア出演

さらに、西日本新聞からエッセイ連載の依頼も舞い込みます。「空を見上げて」と題したコラムを定期的に執筆するようになりました。Yahoo!ニュースのエキスパートクリエイターとしても活動しており、メディアでの露出は着実に増えています。

かつて借金の返済に追われ、母の介護に明け暮れたロコリさんが、「笑い話に変えればいいんだ」と気づいたことがコラム執筆の転機になったといいます。つらい経験を前向きな発信に変える力が、多くの読者の心を動かしています。YouTubeに始まり、出版、新聞連載と活動の幅が広がり続けている点も、シニアの可能性を象徴しています。

シニア世代のデジタル活用と新たな可能性

広がるシニアのYouTube利用

ロコリさんの成功は、シニア世代のデジタル活用の可能性を象徴しています。60代のYouTube利用率は66.2%に達し、70代でも34.4%がYouTubeを利用しているとされています。テレビとYouTubeの視聴時間が逆転する時期は2026年後半から2027年頃と予測されており、シニアのデジタルシフトは今後さらに加速する見通しです。

第一生命経済研究所の分析では、副業者数の増加をけん引しているのは高齢者層であるとされています。ランサーズの調査でも、50歳以上のフリーランスの85.9%がオンラインプラットフォームの継続利用を希望しており、「年齢が関係ない」「在宅で働ける」「営業コストがかからない」といった理由が挙げられています。

孤立防止と自己表現の場として

シニアにとってSNSやYouTubeは、単なる副収入の手段にとどまりません。社会参加や自己表現、孤立防止の重要なツールとしても機能しています。ロコリさん自身、YouTubeを始めた動機は経済的な理由でしたが、活動を通じて「自分の居場所」を見つけたと語っています。

オンラインコミュニティは、外出が難しくなったシニアにとって気軽に参加できる社会的なつながりの場です。SNSを積極的に活用する高齢者は孤独感や抑うつ症状が軽減される傾向があるとも報告されており、デジタル活用は心身の健康にも好影響をもたらすと考えられています。特にひとり暮らしの高齢者にとって、コメント欄やSNSを通じた視聴者との交流は、日常に彩りを添える貴重なコミュニケーションの場となっています。

注意点・展望

ロコリさんのようなサクセスストーリーは魅力的ですが、すべてのシニアがYouTubeで成功できるわけではありません。収益化には一定の登録者数と再生時間が必要であり、継続的なコンテンツ制作の負担も考慮すべきです。撮影や編集のスキル習得にはある程度の時間が必要で、デジタルに不慣れな方にとってはハードルが高い側面もあります。

一方で、収益化を目的としなくても、デジタルツールを活用して趣味や経験を発信すること自体が、生きがいや社会参加につながります。重要なのは、収入の多寡ではなく、自分なりの表現手段を持つことではないでしょうか。

野村総合研究所の報告では、企業にもシニア人材の副業を支援する体制づくりが求められています。また、産業雇用安定センターの調査では、大企業の45歳から59歳の社員のうち、今後の働き方のイメージを持つ人の約3割がまだ具体的な方針を決められていないとされています。定年後のセカンドキャリアをどう設計するかは、個人だけでなく社会全体で取り組むべき課題です。

まとめ

ロコリさんの歩みは、年齢や経済状況に関係なく、新しい挑戦が人生を変え得ることを力強く示しています。35歳でのブティック経営失敗と2000万円の借金、10年間の介護、月5万円の低年金生活――。これほどの逆境を経験しながらも、69歳でマクドナルドのアルバイトを始め、71歳でYouTubeに挑戦し、チャンネル登録者6万人超の人気クリエイターにまで成長しました。

低年金時代を生きるシニアにとって、デジタルツールの活用は経済面だけでなく、社会とのつながりや自己表現の場としても大きな意味を持ちます。「何歳からでも遅くない」というロコリさんのメッセージは、セカンドキャリアに不安を抱える多くの人に勇気を与えてくれるでしょう。まずは自分が楽しめることから始めてみる――その一歩が、思いがけない逆転劇につながるかもしれません。

参考資料:

小林 美咲

キャリア・教育

キャリア形成・教育改革・リスキリングなど、人と学びの接点を取材。変化する時代に求められる「働く力」を問い続ける。

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