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不登校35万人時代、学校復帰目標を見直す教師の二つの支援視点

by 小林 美咲
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はじめに

不登校は、いまや一部の家庭や一部の学校だけの問題ではありません。文部科学省の令和6年度調査では、小中学校の不登校児童生徒数は35万3970人となり、12年連続で増えました。高等学校でも6万7782人が不登校として把握されています。

この数字を前に、学校現場では「どうすれば学校に戻れるか」という問いが立ちやすくなります。しかし、学校復帰だけを支援の成果に置くと、子どもが何に傷つき、何を必要とし、どのように学びを続けられるかを見落とす危険があります。

重要なのは、登校日数を増やすことではなく、子どもが安全に回復し、学びと進路を失わないことです。本稿では、最新の制度・調査を踏まえ、教師に必要な二つの視点を整理します。

不登校35万人時代の政策転換

最新統計が示す深刻さと変化

令和6年度の小中学校の不登校児童生徒数は、小学校13万7704人、中学校21万6266人です。前年度から7488人増え、全体では35万3970人になりました。過去最多であることに変わりはありませんが、増加率は前年度の15.9%から2.2%へ低下しています。

この変化は、状況が改善したと単純に読めるものではありません。文科省は、不登校児童生徒数が減少する水準には至っていないと説明しています。学校内外の専門的な相談・指導を受けている児童生徒は61.7%で、相談・指導等を受けていない児童生徒も13万5724人います。

一方で、新規不登校児童生徒数は小学校7万419人、中学校8万3409人で、いずれも前年度より減りました。不登校継続率も小学校71.7%、中学校77.1%と低下しています。これは、支援につながる入口が少しずつ整ってきた可能性を示します。

ただし、学校が把握した事実を見ると、課題は複雑です。小中学校では「学校生活に対してやる気が出ない等の相談」が30.1%、「生活リズムの不調」が25.0%、「不安・抑うつ」が24.3%でした。学業不振、宿題の未提出、友人関係も重なります。原因を一つに絞って「学校に戻れば解決」と見なす発想は、現実に合いません。

学校復帰だけではない社会的自立

文科省は、2019年の通知で、不登校支援は学校に登校するという結果だけを目標にしないと整理しています。目指すのは、児童生徒が自分の進路を主体的に捉え、社会的に自立することです。

この考え方の土台には、2016年に成立した教育機会確保法があります。同法は、不登校児童生徒の多様な学習活動を踏まえ、個々の状況に応じた支援を求めています。第13条では、学校以外の場で行う学習活動の重要性と、休養の必要性を踏まえた支援が示されています。

ここで注意したいのは、「学校復帰を否定する」という意味ではないことです。学校には、教科学習、友人関係、行事、相談、進路支援など、多くの機能があります。戻れるなら戻ってよいし、戻りたい気持ちがある子どもを支えることも大切です。

問題は、復帰を先に決めてしまうことです。支援の順番は、まず安全と回復、次に学びの継続、そして本人が選べる進路の確保です。登校は、その結果として起こることもあれば、別室、オンライン、教育支援センター、フリースクール、学びの多様化学校などを経由して形を変えることもあります。

登校を急がせる支援が見落とすもの

本人の声と教師の見立てのずれ

不登校対応で最も危ういのは、大人側の見立てだけで支援を組み立てることです。文科省委託の「不登校の要因分析に関する調査研究」は、教師、児童生徒本人、保護者の回答を比較し、認識のずれを明らかにしました。

同調査では、学業不振や宿題については三者の回答割合が比較的近い一方、いじめ被害、教職員からの叱責、教職員への反発などでは、教師と本人・保護者の回答に差が見られました。心身不調や生活リズムの不調も、本人や保護者は高い割合で答えたのに対し、教師の回答は低くなっています。

これは、教師が見ていないという非難ではありません。教室で把握できる情報には限界があります。朝起きられない、眠れない、腹痛が続く、学校の話題が出ると表情が変わるといった兆候は、家庭で初めて見えることもあります。

だからこそ、教師に必要なのは「原因を当てる力」ではなく、「仮説を更新する力」です。最初の面談で聞けなかったことが、3週間後に話せることもあります。保護者からの情報と本人の言葉が食い違う場合もあります。そのずれを責めず、支援計画を更新する材料にすることが、悪化を防ぎます。

休養と安全を後回しにしない初期対応

登校渋りが始まった直後は、学校も家庭も焦ります。欠席が続くほど学習が遅れ、友人関係から離れ、進路に響くのではないかという不安が大きくなるためです。けれども、焦りがそのまま登校圧力になると、子どもは「学校に行けない自分」をさらに責めます。

教育機会確保法の附帯決議は、不登校の児童生徒や保護者を追い詰めないこと、本人の意思を尊重することを求めています。いじめから身を守るために一定期間休むことを認める趣旨にも触れています。休むことは、甘えではなく、状況によっては安全確保です。

初期対応でまず確認すべきなのは、登校可能性ではありません。睡眠、食事、体調、いじめや暴言の有無、家庭内の孤立、オンライン上のトラブル、自傷リスク、学習への不安です。医療や福祉につなぐ必要がある場合、担任だけで抱え込まない判断が必要です。

また、「明日は来られるか」と毎日問う連絡は、善意でも負担になることがあります。連絡の目的を、出欠確認から安否確認と安心の維持へ変える必要があります。短いメッセージでよいので、学校が敵ではないこと、学びの道を一緒に探すことを伝える方が、次の相談につながりやすくなります。

教師に必要な二つの視点

視点一、安全と関係を回復するアセスメント

第一の視点は、子どもの状態を多面的に見るアセスメントです。ここでいうアセスメントは、診断名を探すことではありません。本人が学校生活のどこで消耗しているのか、どの関係なら安心できるのか、どの時間帯なら活動できるのかを把握する実践です。

2019年通知は、担任だけでなく、養護教諭、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカーなどを含めた組織的な支援を求めています。特に、不登校の要因や背景は複雑であるため、学級担任の視点だけでは十分ではないとしています。

この視点を持つと、面談の問いが変わります。「なぜ来られないのか」ではなく、「どの場面なら少し楽か」「誰となら話せるか」「学校からの連絡で負担になることは何か」「家で続けられている学びは何か」を聞く形になります。

支援は、本人の安心を増やす小さな設計から始めます。保健室で10分過ごす、放課後に教材を受け取る、オンラインで担任と5分つながる、友人からの連絡をいったん止める、テストを別室で受けるなどです。これらは登校の前段階ではなく、それ自体が関係回復の支援です。

アセスメントで避けたいのは、「無気力」というラベルで止まることです。要因分析調査では、教師が把握できる象徴的な要因が見えない場合に、主たる要因を無気力・不安と回答しやすい可能性が示されています。無気力に見える状態の奥に、睡眠不調、学習のつまずき、対人不安、感覚過敏、家庭の困難が隠れていることがあります。

視点二、学びと進路を途切れさせない設計

第二の視点は、登校できない期間も学びを途切れさせないことです。不登校支援では、心の回復が最優先になる場面があります。しかし、学習から長く離れるほど、戻ることへの不安は大きくなります。学びをゼロにしない設計は、心理的な支えにもなります。

令和6年の成績評価通知は、小中学校などで、不登校児童生徒が欠席中に行った学習成果を成績評価の対象にできることを整理しました。学校外の機関や自宅での学習も、一定の要件を満たせば評価につなげられます。令和6年度調査では、自宅や学校外での学習成果を指導要録に反映した児童生徒が8万1467人と報告されています。

これは、学校が「来ていないから評価できない」と考える時代ではなくなったことを意味します。プリントを渡すだけで終わらず、どの単元をどの方法で学ぶか、成果物をどう確認するか、本人にどうフィードバックするかまで設計する必要があります。

学びの設計では、完璧な時間割を作るより、継続できる小さな単位が大切です。午前中に10分だけ漢字を進める、動画教材を1本見る、好きなテーマで調べた内容を写真で送る、読書記録を共有するなど、本人が達成感を持てる形にします。

この視点は、キャリア形成にも直結します。不登校の時期に学びが止まったと感じると、子どもは進路選択を狭く捉えがちです。逆に、学校外での学びや小さな成果が記録され、評価され、次の選択肢につながると、「自分は学べる」という感覚を取り戻せます。

学校を変える支援体制

校内教育支援センターと多様な学びの場

個々の教師の努力だけで不登校支援を抱えるのは限界があります。文科省はCOCOLOプランの下で、不登校児童生徒すべての学びの場の確保、チーム学校での支援、安心して学べる学校づくりを進めています。令和5年通知でも、校内教育支援センターの設置促進、教育支援センターのICT環境整備、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーの配置充実が示されました。

校内教育支援センターは、教室に入れない子どもを隔離する場ではありません。教室以外でも在籍校とつながり、学習、相談、生活リズムの回復を支える場です。本人が教室復帰を望む場合にも、すぐに全時間戻るのではなく、段階的な参加を可能にします。

学校外の選択肢も広がっています。教育支援センター、フリースクール、ICTを活用した学習、夜間中学、学びの多様化学校などです。学びの多様化学校は、不登校児童生徒の実態に配慮し、特別の教育課程を編成できる学校です。通常の学校に合わない子どもを排除する制度ではなく、学校教育の側を柔軟にする制度と捉えるべきです。

ここで大事なのは、学校が選択肢の門番にならないことです。「そこに行くなら学校復帰から遠ざかる」と考えると、家庭は相談しにくくなります。むしろ、学校が外部機関と情報共有し、本人の学びを認めることで、社会とのつながりは保たれます。

記録と評価による進路支援

不登校支援をキャリアの視点で見ると、記録の質が重要になります。欠席日数だけが残る記録では、子どもの努力や成長が見えません。何を学び、どんな支援を受け、どの場面で安心でき、どんな方法なら力を発揮できたのかを記録する必要があります。

2019年通知は、学校が学校外の施設での学習状況を把握し、適切と判断できる場合には評価を行い、本人や保護者、施設へ伝える意義を示しています。評価は選抜のためだけでなく、学習意欲を支えるメッセージでもあります。

進路支援では、全日制高校だけを標準にしない視野も必要です。通信制、定時制、チャレンジスクール、地域の学び直し支援、職業訓練、夜間中学など、選択肢は複数あります。中学校段階の不登校は、進路情報の不足によって不安が増幅しやすい領域です。

教師は、進路を急がせるのではなく、選択肢を見える化する役割を担います。「今の状態でも選べる道がある」と知るだけで、本人と保護者の緊張は下がります。結果として、学校との対話も続きやすくなります。

注意点・展望

不登校支援でよくある間違いは、二つあります。一つは、休養を認めることを放置と混同することです。休む必要を認めても、安否確認、学習支援、保護者支援、医療・福祉との連携は続きます。もう一つは、多様な学びの場を学校の責任放棄と見ることです。学校外で学ぶ子どもほど、在籍校の承認と評価が支えになります。

今後は、学校風土を可視化し、登校しづらさを生む構造を減らす取り組みが重要になります。要因分析調査は、教師の態度や指導方法、学校のきまり、授業の分かりにくさが不登校と関連する可能性を示しました。支援は個別対応だけでなく、授業改善、校則の見直し、相談しやすい関係づくりへ広げる必要があります。

また、1人1台端末を使った心の健康観察は、早期把握の有力な手段です。ただし、入力させるだけでは支援になりません。SOSを見た後に誰が動くのか、担任と専門職がどう分担するのか、保護者へどう伝えるのかまで決めておくことが欠かせません。

まとめ

不登校35万人時代に必要なのは、学校復帰を急がせる指導ではありません。子どもの安全と関係を回復するアセスメント、そして学びと進路を途切れさせない設計です。この二つの視点があって初めて、登校は本人にとって意味のある選択肢になります。

教師にできる第一歩は、次の面談で「いつ来られるか」より先に、「何が負担か」「どの学びなら続けられるか」を聞くことです。学校が戻る場所である前に、つながり続けられる場所になることが、不登校支援の出発点です。

参考資料:

小林 美咲

キャリア・教育

キャリア形成・教育改革・リスキリングなど、人と学びの接点を取材。変化する時代に求められる「働く力」を問い続ける。

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