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SUSURUが北ノ醤油チーホーを実店舗化した背景と勝算の全体像

by 佐藤 理恵
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SUSURU水道橋出店を支えた4つの勝算

ラーメンYouTuberとして圧倒的な知名度を持つSUSURUさんが、水道橋で「北ノ醤油チーホー」を実店舗化した動きは、単なる話題づくりでは片づけにくい案件です。外食業界、とりわけラーメン店は原材料高と人件費高騰の圧力が強く、知名度だけで勝てる市場ではないからです。

それでも今回の開業が成立したのは、事前の試験販売で需要を確かめ、商品自体も大量提供に向く形へ組み替え、さらに運営面でも単独勝負ではない体制を整えたからだとみられます。複数ソースを突き合わせると、今回の実店舗化は「人気者が店を出した」という話より、「どうすればラーメン店を成立させやすいか」を考え抜いた案件として読むほうが実態に近いです。

この記事では、東京競馬場での先行販売、ラーメンの設計思想、店舗運営の分業、そしてクリエイター経済との接続という4つの視点から、北ノ醤油チーホーの意味を整理します。

試験販売で見えた需要と商品力

東京競馬場での先行実証

SUSURU WEB.によると、北ノ醤油チーホーは2026年2月の第1回東京競馬期間、1月31日から2月22日までの土日に東京競馬場で出店していました。営業時間は8時30分から16時30分で、競馬開催日に合わせた営業です。イベントの場で十分に売れるか、スピード提供に耐えられるかを試すには、かなり実戦的な環境だったといえます。

その結果として、デイリースポーツとユーチュラは、2月1日に1000杯が完売し、競馬場内のラーメン店として記録的な販売数になったと伝えています。ここで重要なのは、SNS上の期待値だけでなく、実際の来場客が現場でお金を払い、短時間で大量に売れたことです。実店舗化の前に需要検証が済んでいたわけで、この点は一般的な新規開業よりかなり有利です。

大量提供できる一杯への再設計

北ノ醤油チーホーの強みは、味の尖りだけではありません。SUSURU WEB.は、過去に手がけた「濃厚とんこつ豚無双」や「パワー味噌ガイア」は仕込みや提供に手間がかかり、大量提供向きではなかったと説明しています。そのうえで今回は、「ラフに出せて、それでいてしっかり美味しい一杯」をテーマに開発したとしています。

この説明は、なぜ今回のラーメンが実店舗まで進んだのかを考えるうえで核心です。北ノ醤油チーホーは、北海道らしい力強さと醤油の奥深さを組み合わせ、もやしやひき肉を炒める香ばしさ、にんにくの押し出し、札幌系の縮れ麺という分かりやすい魅力を持ちながら、イベント向けの安定供給も意識していました。話題性のある一杯を、オペレーションしやすい一杯に変えたことが、常設店への橋渡しになったと考えられます。

実店舗化を可能にした事業モデル

12席の小型店と運営分業

食べログによると、水道橋店は12席で、営業時間は11時から22時までです。住所は千代田区神田三崎町2-16-10で、水道橋駅から328メートルという立地です。大箱ではなく、小さく回していく前提の店づくりが見えます。

さらにラーメン専門ブログ「麺好いブログ」は、大崎裕史氏の「今日の一杯」情報として、プロデュースはSUSURUさん、運営は「俺の生きる道」が担当と紹介しています。これは二次情報なので断定は避けるべきですが、同ブログが既存店舗跡地への出店も伝えている点を踏まえると、単独開業よりも協業型の色合いが濃いとみるのが自然です。もしこの読みが妥当なら、SUSURUさんは集客とブランド設計を担い、現場運営はラーメン店側の知見を使う形になります。

この構図は、現在のラーメン市場の流れとも合います。帝国データバンクによると、2025年のラーメン店倒産は59件で前年の79件から25.3%減りましたが、原価指数は2020年平均を100とした場合に141まで上昇しました。同社は、生き残りの条件が職人個人の勝負から、高効率経営を備えた「集団」の戦いへ移りつつあると分析しています。北ノ醤油チーホーも、まさにその文脈の中で理解できます。

クリエイター経済との接続

もう一つ大きいのが、SUSURUさんの事業展開がすでに「動画一本の収益」にとどまっていない点です。2024年11月のPR TIMESによると、SUSURU TV.は初のオリジナル冷凍ラーメン「濃厚とんこつ豚無双」を販売し、関連の長尺動画は170万再生を突破、300食限定のお披露目会は前売りが完売、来場者アンケートでは93%が友人に勧めたいと回答しました。通販、イベント、商品監修を積み上げたうえで、常設店へ進んでいる流れが確認できます。

一般社団法人クリエイターエコノミー協会と三菱UFJリサーチ&コンサルティングの調査でも、2024年の国内クリエイターエコノミー市場規模は2兆894億円、2021年から2024年の年平均成長率は約15.5%でした。市場では「何を作ったか」だけでなく「誰が作ったか」が重要になっていると整理されています。北ノ醤油チーホーは、この流れをオフラインに持ち込んだ事例です。ファンはラーメンを食べるだけでなく、SUSURUという人格と物語を消費しています。

つまり今回の店舗は、飲食店であると同時にメディア装置でもあります。動画で開発過程を見せ、イベントで試し、SNSで拡散し、最後に常設店へ着地させる流れは、旧来のラーメン店開業よりも、現代的なIP展開に近いです。

12席店の高回転と数カ月後の定着度

もっとも、初速の話題性だけで成功を判断するのは早計です。ラーメン店は一度来た客をリピーターに変えられるかが重要で、著名人の店であっても例外ではありません。帝国データバンクの数字が示す通り、倒産件数が減っても、コスト上昇圧力そのものは続いています。

今後の焦点は3つあります。第一に、イベント仕様の一杯が常設店でも飽きずに食べられるか。第二に、行列が落ち着いた後も12席の小型店として高回転を維持できるか。第三に、SUSURUブランドへの期待と、実際の店舗体験を継続的に一致させられるかです。

ここを乗り切れれば、北ノ醤油チーホーは「YouTuberの話題店」にとどまらず、クリエイターと飲食運営の分業モデルとして注目される可能性があります。逆に言えば、今回の開業の本当の評価は、オープン直後の熱量ではなく、数カ月後の定着度で決まります。

北ノ醤油チーホーが示す協業型開業モデル

北ノ醤油チーホーの実店舗化は、思いつきの出店ではありませんでした。東京競馬場での販売実績があり、商品は大量提供向けに再設計され、店舗は小型で回しやすく、運営も協業型とみられる構図です。そこに、拡大するクリエイター経済の追い風が重なりました。

外から見ると「SUSURUが店を出した」というニュースですが、中身を追うと、ファン基盤、商品開発、現場運営、収益化の導線を順番に積み上げた案件です。北ノ醤油チーホーが今後も支持を広げるなら、ラーメン業界における新しい開業モデルの先行例として語られることになりそうです。

参考資料:

佐藤 理恵

企業分析・M&A

会計士としての経験を活かし、企業の財務構造やM&A戦略を深掘り。数字の裏にある経営者の意思決定を読み解く。

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