kinyukeizai.com
kinyukeizai.com

BYD減益の真因、中国EV価格戦争と国内失速・輸出頼みの限界

by 佐藤 理恵
URLをコピーしました

販売増でも沈むBYD減益の構造転換

中国EV市場の象徴だったBYDに、2025年ははっきりした変調が表れました。販売台数そのものはなお増え、海外でも急速に存在感を強めましたが、利益は逆に縮みました。2024年に売上高7771億元、純利益402.5億元、販売427万台という記録更新を続けた反動もありますが、それだけでは説明しきれません。

重要なのは、BYDの減益が単なる一時的な失速ではなく、中国EV産業の競争構造が次の段階に入ったことを映している点です。2025年の中国では、EVとPHVが年間で初めてガソリン車を上回る一方、伸び率そのものは鈍化し、補助金の息切れや住宅不況による消費停滞も重なりました。市場が伸びても、各社が同じ速度で豊かになれる局面ではなくなったということです。

この記事では、BYDの2025年減益を、価格競争、国内需要の減速、廉価帯での競争激化、輸出拡大の限界、そして研究開発と海外投資の重さという五つの軸から整理します。数字上はまだ「勝者」に見えるBYDが、なぜ利益面では沈んだのかを読み解きます。

減益を招いた直接要因

値下げ主導で進んだ利益率低下

BYDの2025年通期純利益は326.2億元で前年比19%減、売上高は8039.7億元で同3.46%増にとどまりました。販売台数は460万2436台で同7.73%増だったため、問題は「売れなかった」ことだけではありません。より本質的だったのは、1台当たりで稼げる利益が細ったことです。

その象徴が利益率の低下です。2025年の売上総利益率は17.74%で、2024年の19.44%から下がりました。BYD自身も年次資料で、中国自動車市場が激しい淘汰局面に入り、シェア維持や拡大のために利益率を犠牲にせざるを得ない環境を認めています。2025年5月には、BYDの値引き策が最安モデルの価格を5万5800元まで押し下げ、市場全体の株価急落と規制当局の警戒感を招きました。

BYDはもともと内製率の高さでコスト競争力を持つ企業です。それでも減益になったのは、価格競争の深さが、その優位性だけでは吸収できない水準に達したことを意味します。量を守るために単価を削る戦いが、ついに利益を削り始めたわけです。

販売成長鈍化と目標引き下げの重み

BYDは2025年3月時点で年間販売550万台を目標としていました。しかし9月には、社内目標を460万台へ最大16%引き下げたとReutersが報じています。実績は460万2436台で修正後の目標は達成しましたが、見方を変えれば、当初想定していた高成長シナリオは途中で崩れたことになります。

この鈍化は、年後半の月次販売にもはっきり出ています。2025年12月のBYD販売は42万398台で前年同月比18.34%減となり、4カ月連続の前年割れでした。2024年が41%増という急成長だったのに対し、2025年通年の伸びは7.73%増まで落ちています。台数の絶対値は大きくても、増分が急に細くなれば、巨額の設備投資や販促費、研究開発費を吸収しにくくなります。

しかも、中国国内の販売環境自体も悪化していました。Reutersによれば、中国の2025年自動車販売は3.9%増と3年で最も低い伸びに鈍化し、EV・PHVの成長率も2024年の40.7%から2025年は17.6%へ落ちました。四半期末にかけては、多くの都市や省で買い替え補助金が縮小または一時停止され、需要の前倒しの反動も強まりました。市場がまだ拡大していても、BYDが前提にしたペースでは伸びなくなっていたのです。

独り勝ちが崩れた市場構造

廉価帯で進んだ競合台頭

BYDの強みは長らく、大衆向け価格帯での圧倒的な商品密度にありました。ところが2025年は、その土俵で競争相手の質が明らかに上がりました。Reutersは、BYDが主力とする15万元未満の廉価帯で2025年7月の販売が前年同月比9.6%減だった一方、Geelyは同価格帯で90%増だったと報じています。Geelyは2025年通期で302万4600台を販売し、売上高も25%増の3452.3億元に伸ばしました。

Leapmotorも無視できない存在になりました。2025年通年の販売は59万6555台で前年比103.1%増に達し、2026年は100万台目標を掲げています。2026年1月には27%増の3万2059台を販売しました。規模ではなおBYDが圧倒していますが、成長率では新興勢が目立ち、消費者の選択肢も増えました。BYDが相対的に「安くて機能が多い」ブランドであり続けることが難しくなったということです。

Cheryの動きも示唆的です。2025年純利益は190.2億元で34.6%増、販売は263万1381台でした。NEV比率上昇で同社の乗用車部門粗利率はやや下がったものの、全体では利益を伸ばしています。つまり、中国メーカー全体が一律に苦しんだのではなく、同じ競争環境でも利益を確保できた企業があったということです。BYDの減益は、業界全体の宿命というより、主戦場での圧倒性が薄れた結果とみるほうが正確です。

技術優位の相対的縮小と商品競争の変質

2026年2月のReuters報道では、BYDは中国の2万5000ドル未満の価格帯でGeelyやLeapmotorに地歩を奪われ、技術的優位も相対的に弱まったと指摘されています。これは重要な変化です。BYDは電池、モーター、半導体、車両までの垂直統合で先行してきましたが、中国勢全体の電動化・ソフト化が進み、その差が以前ほど際立たなくなってきました。

その結果、競争は「EVを作れるかどうか」から、「どの価格で、どこまで装備と知能化を載せられるか」へ移っています。BYDも2025年に高強度の研究開発を続け、研究開発費は634億元と過去最高を更新しました。研究開発費が2024年の542億元からさらに膨らんだのは、長期的には競争力維持に必要ですが、短期的には利益を圧迫します。価格を下げながら技術投資も増やす構図は、数量首位でも利益が残りにくい典型です。

価格戦争の副作用と国内市場の限界

規制強化と供給網へのしわ寄せ

2025年の価格競争は、単なる販促合戦にとどまりませんでした。Reutersによれば、中国当局は6月に自動車メーカーを集め、価格戦争と過当競争の停止を求めました。同月にはBYDやChery、Xpengなど主要メーカーが、サプライヤーへの支払いを60日以内にする方針を打ち出しています。背景には、鉄鋼業界や販売店から、値下げ圧力と支払い遅延がサプライチェーンの資金繰りを悪化させているという不満が高まっていた事情があります。

ここで注目すべきなのは、BYDの価格競争が社会的なコストまで発生させ始めた点です。これまでは「効率の高い企業が競争に勝つ」で済んだ話が、2025年には供給網の持続性や販売網の健全性という政策課題に変わりました。BYDのような最大手は価格決定力を持つ半面、その行動が業界全体の利益構造を壊しやすく、これも利益改善を遅らせた要因でした。

市場拡大でも儲からない構造への転換

中国全体のNEV販売は2025年に1649万台と28.2%増え、輸出も262万台と倍増しました。絶対量で見れば、依然として巨大な成長市場です。それでもBYDが減益だったのは、市場拡大がそのまま利益成長を保証しなくなったからです。EV・PHVがガソリン車を年次ベースで初めて上回ったことは歴史的ですが、それは同時に、業界が成熟段階へ入ったことも意味します。

成熟市場では、普及初期のように新規需要が雪だるま式に増えるわけではありません。競争は更新需要の奪い合いとなり、装備や価格の比較がよりシビアになります。補助金が弱まれば低価格帯の争いはさらに厳しくなり、BYDのように裾野の広い企業ほどその影響を受けやすい構図です。

BYDは2025年になお中国NEV市場の象徴的存在でしたが、その強さは「市場の成長を最も享受する企業」から「市場成熟の痛みを最も先に受ける企業」へ変わりつつあります。独り勝ちの終わりとは、首位陥落ではなく、首位でいても利益が守れない段階に入ったことを指すのです。

輸出拡大が支えたものと支えきれなかったもの

海外成長の成果

BYDの2025年を語るうえで、輸出は明らかな救いでした。年次資料ベースでは、2025年の海外輸出は105万台に達し、前年比で1.4倍となりました。12月の海外販売も13万3172台と過去最高を更新しています。JATO Dynamicsによれば、2025年4月の欧州ではBYDの登録台数が前年同月比359%増となり、純電気自動車でTeslaを初めて上回りました。欧州での拡大は、BYDが単なる中国内需株ではなくなったことを示しています。

海外展開は、価格戦争が続く中国国内への依存を下げるうえで合理的です。実際、BYDは2026年の海外販売目標として130万台を掲げています。

それでも輸出だけでは補えなかった現実

ただし、輸出拡大には限界もあります。Reutersは2025年時点で、BYDの売上の約8割が依然として中国市場に依存していると報じました。国内の価格競争で利益率が削られる構造が続く限り、海外成長だけで全体採算を押し上げるのは簡単ではありません。

加えて、海外で売るには販路整備、ブランド投資、物流、現地生産準備など先行費用がかかります。欧州での伸びが大きく見えても、BYDはハンガリー新工場など供給体制の構築を進めており、短期の収益寄与は限定的です。輸出は「量」を支えますが、すぐに「率」を戻すとは限らないのです。

研究開発費も2025年に634億元へ増えています。これは将来の競争優位を守るための必要経費ですが、国内で値下げし、海外で投資を積み増す同時進行の局面では、純利益が薄くなりやすいのは自然な帰結です。輸出はBYDの成長物語を延命しましたが、2025年の減益を覆すほどの即効薬にはなりませんでした。

BYD再成長の鍵は高付加価値化と現地収益化

BYDの減益を見て「価格戦争で完全に失速した」と断じるのは早計です。販売台数はなお増え、輸出は100万台を超え、欧州でも存在感を高めました。研究開発投資も過去最高で、技術と海外展開に賭ける姿勢はむしろ強まっています。短期の利益率悪化と、中長期の競争力強化は同時に進んでいます。

一方で、「首位だからそのうち自然に利益が戻る」とみるのも危うい見方です。廉価帯ではGeelyやLeapmotorが強く、当局は過当競争を問題視し、補助金も以前ほど追い風ではありません。2026年初めには、BYDがGeelyに月次販売で逆転される場面も出ました。首位企業であっても、商品力と価格の最適化を毎四半期やり直さなければならない段階に入っています。

今後の焦点は三つです。第一に、国内で値下げに頼らず売れる高付加価値モデルをどこまで増やせるか。第二に、欧州や新興国で現地化を進め、輸出依存から現地収益化へ移れるか。第三に、巨額の研究開発費を、実際の販売単価改善やブランド力強化につなげられるかです。ここが進めば、2025年の減益は過渡期の痛みとして整理できます。進まなければ、BYDは量産王者でも低収益企業に近づきます。

価格戦争後のBYD収益再設計と中国EV淘汰

BYDが2025年に減益へ沈んだ最大の理由は、販売台数が増えなくなったからではありません。国内市場の伸び鈍化のなかで、自ら先導した価格戦争が利益率を削り、廉価帯ではGeelyやLeapmotorが追い上げ、輸出拡大もその穴を埋め切れなかったためです。2024年までの「売れば売るほど強くなる」局面が終わり、「売っても利益が残るか」を問われる局面へ移ったことが本質です。

BYDはなお中国EV産業の中心企業ですが、2025年は独り勝ちの終焉を示す年でした。これからの評価軸は台数首位そのものではなく、値引き依存をどこまで減らし、海外と高付加価値車で収益構造を再設計できるかに移ります。BYDの減益は、一社の決算ニュースではなく、中国EV産業が成熟化と淘汰の時代に入ったことを示すシグナルとして読むべきでしょう。

参考資料:

佐藤 理恵

企業分析・M&A

会計士としての経験を活かし、企業の財務構造やM&A戦略を深掘り。数字の裏にある経営者の意思決定を読み解く。

関連記事

北京モーターショーで見えた中国EV超速進化と日本車再生の岐路

北京モーターショー2026で存在感を示したCATLとBYD。6分台充電、AI車両、輸出拡大の裏にある量産力を整理し、NEV比率が過半に達した中国市場で日本車が取るべき協業と独自技術の選択を解説。電池性能、XPeng・Volkswagenの知能化戦略、国内需要の減速まで見通し、追随ではない再設計の条件を読み解く。

BYDとファーウェイが先導する中国EV知能化競争の核心を読む

BYDとファーウェイが先導する中国EVの知能化競争は、価格や航続距離ではなく運転支援をどの価格帯まで安全に量産できるかが核心となった。2025年2月以降の規制強化や4月の誇大広告禁止徹底、OTA管理や安全性能の要求も踏まえ、深圳で見えた両陣営の戦略差と業界の実像、競争の核心に加え今後の勝敗軸も多角的に読み解く。

BYDラッコ軽EVは日常の足を変えられるか、価格と航続距離で占う

BYDの日本専用軽EV「RACCO」は214.5万円から、航続210〜320km、両側電動スライドドアを掲げて軽市場へ参入した。N-BOX、サクラ、eKクロスEVと比較し、補助金差や販売網、充電環境、日常利用との相性に加え、輸入ブランドが超えるべき信頼の壁を解説。

世界市場で中国車EV攻勢にトヨタが現地化加速で挑む勝算の行方

トヨタは2025年に世界販売1132万台で首位を守る一方、中国勢はEV・PHV輸出と現地生産を急拡大。BYDの海外150万台目標、EU関税、中国の輸出許可制、電池供給網、地域別の需要差を手がかりに、ハイブリッドの強みと中国発スマート化の取り込み、欧米・東南アジアで勝敗を左右する現地化力と収益性を解説。

中国自動車販売急減の深層、補助金縮小と油高で内需圧迫長期化懸念

中国の乗用車小売は4月に138.4万台、前年同月比21.5%減となり、NEV比率が61.4%へ上がる一方で燃油車が急落した。補助金・購置税優遇の縮小、油価高、輸出偏重、供給過剰が内需とメーカー収益に与える影響を、CPCA、CAAM、国家統計局などのデータから読み解き、日本企業の中国戦略への示唆も整理する。

最新ニュース

豪州の突然解雇で見えた日本人材の海外転職力と隠れた職場の強み

オーストラリアでは雇用形態や勤続期間により解雇時の通知、最終賃金、不当解雇申請の可否が変わる。失職はショックでも、履歴書、面接、ビザ条件を整理すれば次の選択肢は見える。労働市場が軟化する中、日本人が海外転職で評価される読解力、段取り、異文化対応力を公的データから実務者目線で現地の再就職戦略まで読み解く。

毎日洗っても残る服のニオイ原因と職場で効く衣類臭対策を徹底解説

毎日洗っているのに服が臭う背景には、汗や皮脂だけでなく繊維に残る菌、乾燥時間、洗剤と柔軟剤の使い方が重なります。加齢臭成分ノネナール、ポリエステルの臭気保持、洗濯槽の汚れ、猛暑で増える発汗まで、職場で不快感を残さない洗濯と着替えの実践策を科学的根拠から整理し、明日から変えられる手順を具体的に丁寧に解説。

GLS1老化細胞除去薬の再現性検証が映す報道と長寿創薬の難題

2021年に注目されたGLS1阻害剤BPTESと抗PD-1抗体の老化細胞除去効果を、阪大などが2026年に多施設で再検証したところ主要効果は確認されませんでした。原著者側の反論、p16指標の限界、前臨床研究を「若返り」と報じる難しさ、企業・大学広報の責任と読者の確認軸を読み解く。

最新中部平均年収ランキング首位は豊田通商、強さの理由を読み解く

中部10県の上場企業では豊田通商が平均年収1421万円で首位に立ちました。中部日本放送、ファナック、地銀持株会社、HIOKI、トヨタ自動車が上位に並ぶ背景を、有価証券報告書の単体給与、従業員構成、事業収益性から分析。少人数本社や持株会社の数値を読む際の注意点、転職や投資での見方も実務的に整理します。

祐天寺はなぜ再開発されない街なのか、中目黒隣接の商店街経済圏

祐天寺駅は東急東横線で中目黒の隣にありながら、低層住宅地と商店街の景観を保つ。東急の乗降人員、目黒区の高さ制限、祐天寺栄通り地区計画、駅前広場再整備、令和8年地価公示を突き合わせ、高層再開発が進みにくい制度と地権者構造、暮らしを支える商店街経済の強さ、地価上昇下の課題と今後の都市政策の焦点を読み解く。