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小林製薬が目指す攻守両立の企業風土改革

by 佐藤 理恵
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紅麹問題後の攻守両立改革と株主対立

小林製薬が、紅麹サプリメント問題という未曽有の危機を経て、「攻守両面の企業風土づくり」という新たな経営方針を打ち出しています。2024年に発覚した紅麹配合サプリメントによる健康被害問題は、同社の経営体制を根本から揺るがしました。創業家出身の社長が辞任し、経営陣が刷新される中、品質・安全という「守り」と成長戦略という「攻め」をいかに両立させるかが最大の課題となっています。

さらに、2026年3月27日に開催予定の定時株主総会を前に、筆頭株主であるオアシス・マネジメントが株主提案を提出し、経営陣との対立が深まっています。本記事では、小林製薬が掲げる攻守両立の企業風土改革の全貌と、その実現に向けた課題を詳しく解説します。

紅麹問題からの経営刷新と新体制の発足

創業家依存からの脱却

小林製薬は2024年、紅麹配合サプリメントによる健康被害問題を受け、創業家出身の小林章浩氏が社長を辞任しました。後任には山根聡氏が就任しましたが、約半年で退任。2025年3月の定時株主総会を経て、国際事業部門を牽引してきた豊田賀一氏が代表取締役社長に就任しました。

豊田氏は創業家出身ではない社長として、「創業家の意見を忖度することは一切ない」と明言しています。京セラの元取締役で日本航空の再建にも携わった大田嘉仁氏を取締役会長に迎え、外部の視点を取り入れた経営体制を整備しました。

組織改革の具体策

新体制のもと、小林製薬は2025年1月から大規模な組織改革を実施しています。従来のカテゴリー別事業部制から機能別本部制へと移行し、品質保証の専門性を高める体制を構築しました。具体的には、「信頼性保証本部」を「品質安全保証本部」に改組し、新たに「お客様訪問部」を設置。リスクマネジメント機能も「広報・総務本部」に移管され、全社的なリスク管理体制が強化されています。

攻守両面の企業風土づくりとは

「守り」の徹底:品質・安全ファースト

小林製薬が掲げる「守り」の中核は、品質・安全管理の徹底です。紅麹問題では、開発部門と製造部門のコミュニケーション不足が一因とされました。この反省から、両部門の情報共有会議を定期開催し、品質に関する問題を早期に発見・対処する仕組みを整えています。

全従業員を対象とした「風土しゃべりば」を2度実施し、現場の声を直接経営に反映させる取り組みも進めています。豊田社長自身も全国の工場や営業所を積極的に訪問し、各部門の課題について従業員との対話を重ねています。再発防止の3本柱として「品質・安全に関する意識改革と体制強化」「コーポレートガバナンスの抜本的改革」「全員で創り直す新小林製薬」を掲げ、第三者機関の監査も活用しながら全社的な意識改革を推進しています。

「攻め」の成長戦略:中期経営計画

一方、「攻め」の面では、2026年2月に発表された2026-2028年の中期経営計画が注目されます。「未来につながる土台を築く」をテーマに、最終年度の2028年12月期に売上高1,880億円、営業利益220億円の達成を目標としています。特に注目すべきは、ROE(自己資本利益率)を2025年度の1.7%から10%へと大幅に改善する計画です。

また、紅麹問題以降自粛していた広告活動を2025年夏から本格再開し、2027年12月期までに営業利益を問題発生前の水準に回復させる方針を示しています。グローバル展開の加速も成長戦略の柱の一つであり、国際事業部門出身の豊田社長のリーダーシップが期待されています。

オアシスとの株主提案対立

筆頭株主の要求

香港を拠点とするアクティビスト投資家のオアシス・マネジメントは、小林製薬の発行済み株式の13.1%超を保有する筆頭株主です。同社は2026年3月27日の定時株主総会に向けて複数の株主提案を提出しました。主な要求には、定款変更による取締役会の招集権者・議長の社外取締役への変更、小林章浩氏および片江善郎氏の再選反対などが含まれています。

オアシスは、コーポレートガバナンスの改革が未完了であること、品質保証体制が十分に実装されていないことを理由に挙げています。特に、2025年3月の株主総会で会社側のガバナンス強化提案が創業家の反対により否決された経緯を問題視しています。

小林製薬側の反論

これに対し、小林製薬の取締役会は2026年2月10日、オアシスの全株主提案に反対を表明しました。同社としては、すでに経営体制の刷新や組織改革を進めており、オアシスの要求は現在の改革の方向性と必ずしも一致しないという立場です。ただし、オアシスの指摘についても「会社をより良くするための観点からの発言」として一定の理解を示す姿勢も見られます。

創業家との関係という構造的課題

この対立の根底には、約3割の株式を保有する創業家との関係という構造的課題があります。2025年3月の株主総会では、取締役会議長を社外取締役とする定款変更案が賛成47%で否決されました。一般株主の過半数が賛成したにもかかわらず、創業家の反対票により否決されたことは、ガバナンス改革の難しさを浮き彫りにしています。

500人超補償と創業家統治対立の火種

小林製薬の攻守両面の企業風土改革は、いくつかの重要な課題に直面しています。第一に、紅麹問題の被害者への補償が依然として進行中であり、500人を超える被害者への対応が続いています。累計150億円規模の補償費用は、成長投資の原資を圧迫する要因となりえます。

第二に、創業家とのガバナンスをめぐる対立は、今後も経営の足かせとなる可能性があります。豊田社長は「忖度しない」と明言していますが、約3割の議決権を持つ創業家の影響力は依然として大きい状態です。

今後の焦点は、3月27日の定時株主総会の結果です。オアシスの提案がどの程度の支持を集めるか、また創業家がどのような姿勢を示すかによって、小林製薬のガバナンス改革の方向性が大きく左右されることになります。

攻守両立改革を測るROE改善と株主総会

小林製薬が掲げる「攻守両面の企業風土づくり」は、品質・安全管理の徹底という守りと、中期経営計画に基づく成長戦略という攻めを同時に推進する挑戦的な取り組みです。紅麹問題からの信頼回復、創業家との関係再構築、オアシスとのガバナンス対立という三重の課題を抱えながら、豊田新社長のリーダーシップが試されています。

投資家や消費者にとっては、3月27日の株主総会の結果とともに、2026-2028年中期経営計画の進捗、特にROEの改善や広告再開後の売上回復が重要な判断材料となるでしょう。小林製薬の企業風土改革が真に実効性のあるものとなるかどうか、今後の動向に注目が集まります。

参考資料:

佐藤 理恵

企業分析・M&A

会計士としての経験を活かし、企業の財務構造やM&A戦略を深掘り。数字の裏にある経営者の意思決定を読み解く。

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