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ずんどう屋急拡大を支える深夜需要とトリドールの巧みな直営出店戦略

by 佐藤 理恵
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丸亀製麺の次を担う姫路発ラーメン業態

丸亀製麺を展開するトリドールホールディングスの中で、いま静かに存在感を増しているのが「ラー麺ずんどう屋」です。派手な広告で全国的な話題をさらうタイプのブランドではありませんが、公式発表では2024年11月に国内100店舗へ到達し、2026年4月には国内112店舗まで広がりました。

この伸び方が興味深いのは、単なるラーメンブームへの便乗ではなく、トリドールの事業ポートフォリオ戦略と重なっている点です。ずんどう屋は、姫路発の濃厚豚骨という商品軸を保ちながら、繁華街、郊外ロードサイド、空港、商業施設へ売り場を広げています。つまり、丸亀製麺で培った「手間のかかる商品を多店舗で売る」ノウハウを、うどん以外の成長業態で再現できるかが問われています。

本稿では、公式店舗情報、ZUNDの会社概要、トリドールの財務情報と中期計画、外食市場の公開データを照合し、ずんどう屋が夜遅くまで客を集めやすい理由を財務とオペレーションの両面から読み解きます。

深夜営業を収益機会に変える立地設計

24時間営業店が示す需要の厚み

ずんどう屋の特徴は、すべての店舗が同じ営業時間で運営されているわけではない点です。公式店舗検索には「24時以降も営業」という絞り込み項目があり、実際に大阪・道頓堀店は日曜から土曜まで24時間営業です。天神橋四丁目店も、曜日により早朝の一部時間を除き、深夜から朝方まで営業する長時間型の店舗です。

飲食店にとって深夜営業は、単に営業時間を延ばせば利益が増えるというものではありません。人件費、光熱費、防犯、清掃、食材管理の負担が増えるため、深夜帯に一定の客数と客単価がなければ採算を押し下げます。それでも24時間営業店を持つということは、繁華街の夜間需要を取り込むだけの販売機会があると判断していることを意味します。

ここで重要なのは、ずんどう屋が「締めの一杯」だけに依存していないことです。道頓堀店は観光客、夜間勤務者、買い物客、周辺飲食店の従業員など、時間帯ごとに異なる需要を拾える立地です。天神橋四丁目店も、商店街とオフィス、住宅地が重なる場所にあり、深夜だけでなく早朝や昼食時間帯も使われます。夜の混雑は、立地の強さと長時間営業の組み合わせから生まれる現象です。

さらに、公式プレスリリースでは、ずんどう屋に「一日で最大800人以上」が来店することもあると説明されています。全店平均の数字ではないものの、ラーメン業態として高い回転力を持つ店舗が存在することを示す材料です。客席数が限られるラーメン店では、回転率と営業時間の長さが売上密度を左右します。深夜まで営業できる店舗は、固定費をより長い時間で回収できる余地があります。

都市繁華街と郊外ロードサイドの二面展開

ずんどう屋は、繁華街型だけで拡大しているわけではありません。公式店舗一覧では、関西が70店舗、東海が14店舗、中国地方が14店舗、関東が9店舗など、姫路発祥ブランドらしく西日本を厚くしながら、東京、神奈川、埼玉にも出店しています。大阪では道頓堀、宗右衛門町、難波えびす橋、梅田東通りといった夜間需要の濃いエリアが並ぶ一方、郊外ロードサイド型の店舗も多く見られます。

2026年4月に開業した津本町店は、公式発表で国道23号線沿いに位置すると説明され、営業時間は10時30分から24時までです。同じ発表では、イオンモール神戸北店を「フードコート初出店」と位置づけています。これは、ずんどう屋が飲酒後の深夜需要だけでなく、買い物ついでの昼食、家族利用、車移動の夕食需要にも広げていることを示します。

この二面展開は、財務的に見るとリスク分散です。繁華街型は高い売上密度が見込める半面、賃料や深夜人件費が重くなります。郊外型は駐車場やファミリー需要を取り込みやすい一方、昼夜のピークが限定される場合があります。商業施設型は営業時間の制約を受けやすいものの、集客装置を施設側に依存できます。複数フォーマットを試すことで、地域ごとの最適な店型を選びやすくなります。

トリドールの中期経営計画は、事業ポートフォリオの量と質の拡充、選択と集中、ブランドインキュベーションを重点テーマに掲げています。ずんどう屋の出店パターンは、まさに「勝ち筋の定まった業態」に投資し、数百店舗規模まで伸ばせるかを検証している段階と読めます。夜に強いラーメン店でありながら、昼と家族利用にも対応できることが、拡大余地を広げています。

直営拡大を支える標準化と商品開発

セントラルキッチン型スープの財務効果

ずんどう屋の核は、濃厚豚骨スープです。公式サイトは、特注の専用釜で水と豚骨だけを使い、約10時間かけて炊き上げると説明しています。一方で、スープはセントラルキッチンで職人が作り、店舗数が増えても味が変わらないようにするとしています。

ここに、丸亀製麺とは異なる多店舗化の論理があります。丸亀製麺は店内製麺やできたて感を前面に出す業態ですが、豚骨ラーメンはスープのブレが品質に直結しやすい商品です。全店で同じ濃度と風味を再現するには、店舗ごとの炊き込みに任せるより、スープ製造を集約したほうが標準化しやすくなります。

会計的には、これは原価と品質管理の両面で効きます。セントラルキッチンは初期投資と物流費を伴いますが、購買量をまとめやすく、熟練者に依存する工程を集約できます。店舗側は調理と提供に集中でき、深夜営業や新規出店時にも品質を合わせやすくなります。直営店を増やすほど、製造・物流・教育の固定費を広い店舗網で吸収できる可能性が高まります。

ZUNDの会社概要を見ると、事業内容にはラーメン事業の運営・管理、テイクアウト商品の販売、商品開発、食材・食品製造および販売が並びます。従業員数もアルバイト2,626名、社員261名と公表されています。これは、単なる店舗運営会社ではなく、商品と食材供給まで含めた業態運営会社であることを示しています。

丸亀製麺式の現場主義との接続

トリドールが中期計画で強調する言葉に「二律両立」があります。手間暇をかける一方で、スピーディーに効率よく展開する。そこでしかできない体験を、世界中でできる体験にする。この発想は、ずんどう屋にも当てはまります。

ずんどう屋のラーメンは、スープを集約する一方で、麺、味玉、チャーシュー、空間づくりへのこだわりを前面に出しています。公式メニューには味玉らーめん、元味らーめん、チャーシューめん、チャーハン、ギョーザ、丼ものなどが並び、券売機店舗やキャッシュレス決済に対応する店舗もあります。商品数は多すぎず、しかしラーメン単品だけに閉じない構成です。

この「手間を見せる部分」と「標準化する部分」の線引きが、トリドールらしい経営です。店内で粉から麺を打つ丸亀製麺とは違っても、できたて感、活気、接客、回転の速さをブランド体験として作る点は共通しています。トリドールのDX方針では、AI需要予測による売上計画、食材・包材の発注自動化、ワークスケジュールの自動化が掲げられています。人手を減らすためだけでなく、店舗スタッフが調理や接客に集中する時間を作るためのDXです。

直営モデルとの相性もあります。2026年4月の新店発表では、イオンモール神戸北店を「全店直営111店舗」、津本町店を「全店直営112店舗」と表現しています。フランチャイズ主体で急拡大するラーメンチェーンと違い、直営は成長速度が資本と人材に制約されます。ただし、商品改定、接客基準、営業時間、キャッシュレス、デリバリー、採用施策を本部主導で統一しやすい利点があります。

メニュー拡張がもたらす客層分散

ずんどう屋は、濃厚豚骨だけを押し通すのではなく、2026年6月から「あっさり」を打ち出す淡麗豚骨らーめんを全店で販売すると発表しました。プレスリリースによれば、国内112店舗に加え、中国・上海とインドネシア・ジャカルタに合計7店舗を展開しており、淡麗豚骨は上海店の清湯スープからヒントを得た商品です。

この商品投入は、単なる限定メニューではありません。濃厚豚骨が強いブランドほど、客層が「濃い味を求める人」に偏る可能性があります。あっさり系を用意すれば、昼食、女性客、年配層、連食を避けたい利用者にも広げやすくなります。深夜需要を維持しながら、昼の間口を広げる設計です。

価格面でも、淡麗豚骨は元味860円、味玉980円などと公表されています。原材料費が上がる環境で、1,000円前後の価格帯をどう受け入れてもらうかは重要です。トッピングやセット、サイドメニューで客単価を上げる余地を持ちつつ、基本メニューを手の届く価格帯に置く。このバランスが、拡大期のチェーンには欠かせません。

外食高コスト時代に残る採算リスク

人件費と原材料費を吸収する売上密度

トリドールの2026年3月期財務情報では、売上収益が2,787億15百万円、前期比3.9%増で過去最高となりました。事業利益も214億60百万円、前期比17.9%増です。一方で、国内その他セグメントは売上収益が過去最高を更新したものの、原材料費や人件費の増加を増収で吸収しきれず、若干の減益だったと説明されています。

ここが、ずんどう屋を見るうえで最も重要なポイントです。店舗数が増えても、利益が同じペースで増えるとは限りません。特に直営店は、本部が人件費、教育費、採用費、家賃、減価償却、修繕費を直接負担します。深夜営業店は売上機会が大きい半面、深夜割増、警備、清掃、設備負荷も重くなります。

農林水産省は食品価格動向調査を通じ、食品小売価格の動きを継続的に把握しています。ラーメン店にとっては、豚骨、豚肉、小麦粉、卵、米、油、光熱費がいずれも採算に影響します。値上げで対応できる範囲には限界があり、客数を落とさずに単価を引き上げる商品力が必要です。

その点で、ずんどう屋の課題は「混む店」を増やすことです。道頓堀店のように24時間営業で回転を取れる店は、固定費を長時間で回収できます。しかし郊外や商業施設の店舗では、ピーク時間帯が限られます。昼、夕食、深夜、テイクアウト、デリバリーのどこで売上を積み上げるのかを、店型ごとに設計する必要があります。

成長投資を支えるキャッシュ配分

トリドールはファイナンス戦略で、営業キャッシュフローと資金調達余力を高め、成長投資へ資金を回すことを重視しています。新規出店、既存店改装、M&A、株主還元、負債返済の間で、どこに資金を置くかが企業価値を左右します。

ずんどう屋は、丸亀製麺ほどの規模ではありません。しかし国内で100店舗を超えたブランドは、投資判断の対象として小さくありません。直営112店舗であれば、1店舗当たりの投資額、回収期間、既存店売上、原価率、人件費率のわずかな差が全社利益に効いてきます。店舗数が倍になれば、在庫、物流、人材、システムの設計も変わります。

また、トリドール全体では海外事業の再編やのれん減損も財務上の論点です。2026年3月期には海外事業セグメントで不採算店舗やのれんの減損が発生しています。だからこそ、国内で勝ち筋が見える業態へ投資する意味は大きいといえます。ずんどう屋は、海外M&Aだけに頼らない成長オプションとして、投資家が注視すべき存在になっています。

拡大局面で問われる品質維持と地域適応

ずんどう屋の拡大には、明確な追い風があります。濃厚豚骨というわかりやすい看板商品、深夜需要を拾える都市型店舗、車利用を取り込む郊外型店舗、フードコート初出店による商業施設展開、海外店舗から着想を得た淡麗豚骨の投入です。成長の材料は複数あります。

一方で、急拡大には品質維持のリスクがあります。セントラルキッチンでスープを標準化できても、店舗の清潔感、提供速度、接客、ピーク時のオペレーションは現場で決まります。24時間営業店では、深夜帯の人員配置や防犯対応がブランド体験を左右します。人手不足の環境では、出店数を増やすほど教育と定着が難しくなります。

地域適応も課題です。関西では姫路発の豚骨ラーメンとして受け入れられても、関東や東海で同じ認知を得るには時間がかかります。価格、味の濃さ、駐車場、家族席、デリバリー対応、商業施設のオペレーションは地域ごとに変える必要があります。全国展開を急ぐほど、標準化とローカル対応のバランスが問われます。

投資家目線では、店舗数だけでなく、国内その他セグメントの利益率が改善するかを確認する必要があります。売上高が伸びても、原材料費と人件費を吸収できなければ、事業利益は伸びません。ずんどう屋の真価は、話題性ではなく、増えた店舗が安定して利益を生むかで判断されます。

投資家が見るべき次の成長指標

ずんどう屋が夜遅くまで客を集める理由は、濃厚豚骨の中毒性だけではありません。24時間営業店を置ける繁華街立地、ロードサイドや商業施設を組み合わせる出店設計、セントラルキッチンによる品質標準化、直営店で統制しやすい運営体制、トリドールのDXと成長投資が重なっています。

今後見るべき指標は、国内店舗数の伸び、既存店売上、営業時間の長い店舗の採算、淡麗豚骨の定着、国内その他セグメントの利益率です。丸亀製麺に次ぐ柱になるには、単に100店舗を超えたことでは足りません。深夜需要を売上に変えながら、原価と人件費を吸収できる店をどれだけ増やせるかが、ずんどう屋の次の成長を決めます。

参考資料:

佐藤 理恵

企業分析・M&A

会計士としての経験を活かし、企業の財務構造やM&A戦略を深掘り。数字の裏にある経営者の意思決定を読み解く。

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